経済
政治・経済・国際の解説・分析記事

「本の森」人新世の「資本論」

斎藤 幸平

●375ページ

●集英社新書(税別1020円)

 

今こそ「価値観の転換」を

 

 現在日本のみならず世界が抱えている経済・社会問題に対処するためにさまざまな改革案が議論されてきた。

 だが、それらは「当然」のように、現在の資本主義システムを土台にした改革議論であった。だがこの本は、問題は資本主義そのものが内包するものであると喝破し、今や「価値観の転換」をしなければならないと警鐘を鳴らす。

 著者は1987年生まれの経済・社会思想家。地球規模で進む気候変動と環境破壊はこのままでは確実に人類の存在を脅かすことになるが、それを阻止するには、「SDGs」(持続可能な開発目標)でも気候変動対策・環境保護を技術革新によって経済成長と両立させようとする「グリーン・ニューディール」でも無理だと主張する。

 カール・マルクスの「資本論」の従来の研究に基づく説を丹念に検証しつつ、晩年のマルクスの残した大量のメモや草稿を読み込み、これまでのマルクスの資本主義批判や共産主義の「常識」を修正していく。そこで、今まで知られていなかった晩期マルクスのエコロジカルな資本主義批判にたどり着くのである。そのマルクスの分析を基にした主張が本書の肝である。

 斎藤は、資本主義の利潤拡大追求=成長こそ善という本質が、すべてを市場と商品化に巻き込んで、資源を含む自然の略奪、人間の搾取、貧富の格差拡大を生み出してきたという。先進国の人々が、斎藤がいう帝国的生活様式という「豊かで快適な暮らし」をできるのも、途上国の犠牲の上であるとする。  資本主義の略奪の対象は資源、エネルギー、食糧など地球環境全体だと指摘。これまでにもいろいろな手が打たれてはきたが、どれも「弥縫(びほう)策」にすぎず、抜本的な解決にはつながらず、いまや資本主義そのものから「脱却」すべきだと主張している。

 そして、結論として斎藤は、目指すべきは「脱成長コミュニズム」への転換だと訴える。エネルギー、水などの生活に不可欠な「コモン」すなわち「私的所有や国有とは異なる生産手段の水平的共同管理」がその核になるというのだ。

 だが、コミュニズムと聞いただけで拒否反応を起こす人も少なくないだろう。冷戦時代の西側諸国によるネガティブ・キャンペーンなどで、「共産主義は悪」だというのがわれわれの深層心理に染み付いている。

 そして何より、旧ソ連や東欧諸国の政治経済社会の失敗が記憶に新しく、独裁的な中国の現状もそれに輪をかけている。

 しかし、それらの国々の「共産主義」は本来、マルクスが構想した共産主義ではないという見方もあるのだ。斎藤の主張を、実現不可能あるいは困難だとして一笑に付すのは簡単かもしれない。

 だが、ここには丁寧に検討に値する議論がある。(敬称略)

(被頭四楽隊)

 

(KyodoWeekly3月15日号から転載)

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