経済
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立法府の責任―私権を制限するということ

 1937(昭和12年)年9月、日中戦争が始まった直後の帝国議会で「軍需工業動員法の適用法」が可決された。1918(大正7年)年に制定された軍需工業動員法は、第1次世界大戦の経験から「総力戦の時代」に備え、国内の経済資源を戦時に動員できることを定めた。

 37年の法律は、この動員法を「支那事変」に適用することを規定したものであった。動員法では、私権の制限を伴う動員は「宣戦布告」を伴う戦時に限られていた。当時の日本政府は宣戦布告のないまま中国での戦闘を拡大し、これを戦争ではない、「事変」と称していた。

 そのままでは動員法に基づいて戦時経済統制を強化することはできないために37年法が必要となった。大幅な私的財産権の制限につながる措置であるから、法の定めによって軍需工業動員法の発動を「支那事変」にも認める措置であった。

 こんな古い話を思い出したのは、感染症対策に関する法改正のなかで、新たに緊急事態宣言の前段階として「まん延防止等重点措置」が組み込まれたからである。これは、緊急事態宣言を出す前でも、宣言時と同様に知事が事業者に対して時短営業や休業を命令できるようにすることが意図されている。

 一方、この「重点措置」がどのような要件を満たせば発動されるのかは明確にされていない。その要件は、国会の審議を必要としてない政令によって決まるとされている。与野党協議で「重点措置」の発動に際しては国会に報告することになったが、果たして単なる「報告」で済ませてよい問題だろうか。

 緊急事態宣言という「有事」に市民生活に何らかの制限が必要なことは認めてもよい。ただそうした判断には明確な基準がいる。「重点措置」が政府の判断で実行できるのは、基本的人権を尊重するという憲法の精神からはかけ離れている。

 「報告」がなされても、納得できるような説明が行われるのかも、現政権のこれまでの対応から考えると期待できない。単に「報告」という事実だけを議事録に残すだけではないか。

 刑事罰の導入などの問題に関心が集中し、野党はこれを取り下げさせたことで点数を稼いだつもりかもしれない。しかし、そんなことで立法府の責任が果たせたと考えているとすれば、大間違いだ。この法改正を認めれば、議会は本来果たすべき機能を放棄することになる。

 繰り返すが、人権を制限する措置を行政府の判断に委ねることは、守られるべき基本的人権を行政の恣意(しい)性にさらす危険を冒すことになる。緊急事態もその前段階の措置も国会で審議され承認された要件に基づくものでなければならない。令和の議会は昭和戦前期の帝国議会ですらなし得なかった暴挙を認めようとしている。政府にも議会にも猛省を求めたい。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly2月8日号から転載)

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