経済
政治・経済・国際の解説・分析記事

自らの言葉で語ること―メルケル氏に及ばなくとも

 もはや「泥縄」という言葉すらあてはまらない。菅義偉内閣は感染症対策が後手にまわり続けているだけでなく、次の手を考えているかも怪しい。

 緊急事態宣言期間中に感染拡大が抑え込まれている保証はなく、菅首相の願望だけを強調されても誰も信用しない。2月上旬の状況は予測が難しいとはいえ、最悪のシナリオも想定して次の手を準備するのが政治の責任である。それを「仮定の質問」と突き放すのは、自らの無策をさらけ出しているだけだろう。

 医療体制の不備を補う制度改正の必要性を問われても、いきなり国民皆保険まで視野を広げた検討が必要だと答えるとは、どんな思考回路をもっているのだろうか。それも、具体的な問題についての十分な検証を踏まえて制度改正を考慮するというのは、平時ならともかく、感染症との戦いという非常時の政治家の態度ではない。泥棒を捕まえてから、どんな縄が捕縛に必要かをまずは検証してからという対応には、あぜんとする。

 もともと科学的な検証など信頼していないし、専門家の意見も都合のよい話だけをつまみ食いして迷走を続けている。内閣の目玉政策であった携帯電話料金引き下げも、行政デジタル化も十分な検証が行われたわけではなく、首相の直感に基づく政治判断という側面がある。

 反対に、自らの感覚にそぐわない方策には取り合わず、それに関連する疑問には「お答えを差し控える」と逃げるだけである。

 通常国会では、新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正に取り組むというが、民主党政権時代に制定された同法について、コロナ感染症への適用のためには法改正を必要とするとしたのは安倍晋三内閣であった。 しかし、コロナ感染症対策を念頭に置いて実施された昨年春の法改正によっても対策枠組みには不備が残った。だから、新たな改正がもくろまれている。改正は必要だが、なぜ今なのか。

 感染拡大が社会的に問題になった当初から、年を越す冬には大きな流行が再度発生することは危惧されていた。

 しかも、感染拡大傾向は秋以降には顕在化していた。十分な危機意識を持っていれば、昨年末に閉会した臨時国会で改正していただろう。そうすれば、今回の緊急事態宣言で打つ手も広がっていただろう。しかし、政府与党は政治的スキャンダルの追及をかわすために改正を先送りした。この政治判断が泥縄の対策に拍車をかけている。

 国民は将来に対する不安を肌で感じ、政府に対策を求めている。その国民の心に応えるような言葉をいつになったら菅首相から聞くことができるのだろうか。昨年末のドイツ・メルケル首相の演説には及ばなくとも、自らの言葉で語ることができないとすれば、もはや国政の責任をもつ政治家としては失格という以外にない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly1月25日号から転載)

全国選抜小学生プログラミング大会
新型コロナ特集
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ