経済
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ITが支配する「暗黒郷」の悪夢

 嫌な夢をみた。20××年、世界はIT企業「G」に支配されていて、国家による統治はもはや機能不全に陥っていた。私たち一人一人の法的な地位や帰属を基礎づけていた国籍や戸籍などは単なる付属データとなり、あらゆる人間は「G」の会員としてのみ認識される。退会は許されない。

 国ごとに定めていた法律は効力を失い「G」の規約がすべてに優先する。国会や警察、裁判制度はない。ルールの制定と監視、問題解決まで、すべて「G」の社内機関が取り仕切る。会員は日々の行動によって付与されるスコアに応じて会費(税金)を課され、労働という役務を提供する代わりに医療や福祉、教育といった各種サービスを受けられる。あらゆる情報や行動がIDとひも付いて管理される。

 地球規模でみたときに、国家間の利害衝突は相対的に小さくなり、政治的なイデオロギー対立や宗教上の争いは減った。主要各国は「G」から主権を取り戻そうと連帯を試みるが、あらゆる通信ネットワークやコンピューターシステムを「G」が握っているため、ミサイル1基、いや内密のメール1本も安心して飛ばせない。そんなディストピア(暗黒郷)に息が詰まり、苦しみもがくうちに目が覚めた。

    ×     ×

 悪夢の予兆というか、伏線となるニュースが意識の底にあった。昨年12月、テキサスなど米国の10州の司法長官がグーグルの広告事業に対し、反トラスト法(日本の独占禁止法)違反の疑いで提訴した1件だ。

 「(野球で言えば)投手と捕手、打者、さらに審判までひとりで兼務しているような状態」―テキサス州のパクストン司法長官が、ネット広告事業におけるグーグルの存在感の大きさをたとえて言った表現はおもしろい。

 企業が広告出稿に使うシステム、メディア企業が広告枠の販売に使う仕組み、さらに広告の取引市場の運営までネット広告に関連するサービスの提供者を、グーグルは次々にのみこんでいった。気づくと、ネット広告の分野で誰もがグーグルの仕組みを使わざるを得なくなっている、これは利用者の選択を不当に制限し、公正な競争を阻害する行為だという指摘だ。

 同じ昨年12月、中国も全国人民代表大会(全人代)で独占禁止法を今年にも改正する方針を固めた。ネット通販のアリババ集団や会員制交流サイト(SNS)の騰訊控股(テンセント)など大手IT企業が念頭にあるとみられ、こうした企業が価格形成や情報流通などの面で、影響力を持ち過ぎることへの強い警戒がにじむ。

 巨大ネット企業の市場支配に歯止めをかけるべきだという政策課題を奇しくも米中当局が共有し、彼らに対する国家のコントロールを保持しようと独禁法制の見直しで足並みをそろえているように見えるのは興味深い。

 17世紀の思想家トマス・ホッブズは著書「リヴァイアサン」で、人々は個々の主権を国家権力に委譲する社会的な契約を結んでいると説いた。いまや私たちはその契約先をIT企業に気づかぬうちに変更させられているのかもしれない。正月の悪夢が正夢とならないよう祈るばかりだ。

(日本経済新聞社 竹内 敏)

 

(KyodoWeekly1月18日号から転載)

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