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「はじめの一歩」(下)=5G 「夢の通信インフラ」の虚実

 携帯電話に使う高速通信システムの新規格「5G(ファイブ・ジー)」。通信のスピードは現在主流の「4G」の最大100倍だといい、クルマの自動運転や遠隔診療など、ビジネスや社会生活を大きく変える可能性を秘めるという。そんな「夢のテクノロジー」は、いつ私たちの手元に届くのか、いささか期待先行の気配も漂う中、解決すべき課題と併せて探った。(編集部=「上」は2020年12月28日号&21年1月4日合併号に掲載)

 「はじめの一歩」(下)=5G:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2021-01-27_3532467/

 

 Q 5Gのすごさ、技術のあらましは分かりましたが、5Gによって私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。

 A 5Gの三つの特徴をお伝えしましたが、5Gがそれまでと大きく異なるのは、これらの特徴を生かせば、日常生活やビジネス、街のすがたすらも大きく変わる可能性に満ちていることです。もちろん5G対応のスマホ機種を個々人が楽しむこともできますが、5Gはもはや私たちの手元を離れて、暮らし全体をつくり変える通信インフラとなるでしょう。

 身近な例で言えば、オンライン自動認証でしょうか。小売店のレジのセンサーが私たちのスマホの個人認証を読み取り、瞬時に買い物の決済を済ませてくれたり、私たちの購買履歴からお気に入りの1品をすすめてくれたりします。冷蔵庫内のセンサーと連動させれば、残り少なくなった食材の買い足しを提案してくれるかもしれません。

 Q まるで近未来を描いた映画の1シーンのようですね。

 A ゲームやスポーツ観戦では、ゴーグル型のウエアラブル端末を装着しましょう。コンピューターグラフィックス(CG)で作成した、視界360度の動画を仮想現実(VR)技術と組み合わせれば、まるで仮想世界の中に飛び込んだかのような感覚を体験できるでしょう。

 拡張現実(AR)技術と組み合わせれば、現実の空間で目にするものにさまざまなデジタル情報を重ねて見ることができ、リアルとネットの世界の境界線はなくなりつつあります。

 CGではなく現実の映像にも応用できます。野球場に行かなくても、球場内に設置した多数のカメラの映像を組み合わせて、まるでリアルに観戦しているような臨場感を味わえるかもしれません。開催が懸念される東京五輪・パラリンピックも、オンライン観戦を採り入れれば、5G技術によって自室がメインスタジアムの特等席に生まれ変わります。

平成30年版「情報通信白書」より

 Q なるほど、5Gの三つの特徴が存分に生きるわけですね。ほかに活用例はありますか。

 A 5Gの活用例として本命視されているのが、無人でクルマを操縦する完全自動運転です。人間のドライバーが運転時に注意を払い、判断している道路上の情報を自動運転システムが検知、解析する通信手段として5Gが期待されています。

 クルマと道路に無数のセンサーを設置して、クルマの位置や速度、車間距離、路面の状態、障害物の有無などを常時検知し、制御します。子どもが急に飛び出したとき、ブレーキをかけるのに、1000分の1秒という低遅延が本領を発揮するはずですし、膨大なデータを高速処理できる5Gの第1の特徴、多数の端末が同時接続できる第3の特徴も欠かせません。

 Q 5Gがもたらす便利さがすでに、携帯電話の話ではなくなっているのに気づきますね。

 A 次に遠隔医療への応用です。新型コロナウイルスの影響で、すでにオンライン診療は一部、実用化されていますが、患者がカメラ越しに医師の問診を受けるといった利用が中心です。5Gを使えば、患者宅や地元の診療所、救急車内などと大きな医療機関を結んで、血圧や心電図、内視鏡映像などをリアルタイムで共有できます。

 手術の際に院外にいる専門医とつないで支援を受けるといったことも可能です。もちろん、完全自動運転の話も含めて、法改正や関連する制度の見直しなど多くの作業が必要なことは言うまでもありません。

 Q 「夢のテクノロジー」という意味がわかってきました。そんな5G社会が実現する道筋は見えていますか。

 A 5Gが秘める魅力や可能性はともかく、少々現実の厳しさについてもお伝えしなければなりません。5Gサービスは昨年3月に始まりましたが、まだ対応機種も少なく、利用できるエリアもごく限られています。通信スピードも5Gを体感できるほどの数値に達しておらず、したがって「5Gならでは」というキラーコンテンツもまだ登場していません。

 話題となったのは、米アップルが昨年10月に発売した「iPhone12」です。5G対応のシリーズとして戦略的な商品と位置づけていますが、利用できるのは、東京都内でもごく一部にとどまっています。

 5Gが使う高周波数のうち、本領を発揮する「ミリ波」帯はまだ飛んでおらず、現状は「サブ6帯」、つまりは4Gに少し色を付けた程度の速さしか出ていません。「なんちゃって5G」などと揶揄(やゆ)されてしまうゆえんです。

 Q 5G普及のネックとなっているのは何ですか。

 A 前回(上)で「エッジ・コンピューティング」の話をしましたが、5Gを使うには電波が届くエリアを広げるために、エッジサーバーを数多く設置せねばなりません。NTTドコモは基地局設置などの投資額を2023年度までに1兆円と見込み、21年度に2万局としていた計画を、22年度に3万2千局まで増やす意向です。

 ソフトバンクとKDDIの2社も今後10年の基地局整備にそれぞれ2兆円を投じ、21年度に基地局数を5万局まで増やす計画です。5G対応の端末が増えて、私たちの生活に身近な存在になるには、まだ2、3年はかかりそうです。

 Q 5Gのスマホ料金はどうなりますか。

 A NTTドコモが昨年12月に発表した5Gの新料金(21年4月以降)は月額6650円。従来に比べ1000円値下げし、100ギガバイトだったデータ容量も無制限としました。KDDI(au)とソフトバンクも大容量プランで値下げに追随する見通しです。新規参入の楽天は、5G料金を当面、4Gと同じ月額2980円で提供する方針を示しています。

 Q そういえば、菅義偉首相は就任以前から、携帯電話料金の引き下げを強く求めていますね。

 A はい、波乱要因があるとすれば、政府と携帯大手との綱引きです。そもそも首相が問題視していたのは、携帯各社がユーザー獲得のために展開していた「ゼロ円端末」です。回線を他社から乗り換えれば、本来なら数万円する端末をタダにする、その代わり2年間は解約できない「縛り」を付けるという販売手法が携帯料金高止まりの要因ではないかという指摘です。

 いわば、2年ごとに会社を乗り換える人だけが得して、同じ会社を使い続ける人が損をする仕組みです。乗り換え優遇という販促費にばかりお金を使うのではなく、通信料金を下げる努力をしなさい、というのが政府の携帯各社に対する注文です。

 Q 各社は値下げ要請に応じるのですか。

 A ドコモに先立ってauとソフトバンクは昨年10月、相次ぎ「UQ」などのサブブランドで月額3000~4000円台(月20ギガバイト)での新プランを発表しました。菅首相が以前から「日本の携帯料金は4割程度下げる余地がある」と言っていた値下げ幅をほぼ実現する内容です。

 ところが、武田良太総務相は「割安なプランを用意しただけでは意味がない」と指摘。暗に4G・5Gの大容量のメインブランドでの値下げを催促するとともに、21年4月に5Gの周波数を再度割り当てる際に、そうした値下げ努力の評価を考慮する考えを示しました。ドコモの値下げ発表はこの武田発言を意識しているように思えます。

 Q いわば政府は5G周波数を人質に、値下げへの取り組みを促す図式ですね。

 A 今後、膨大な5G投資負担を抱える各社は戸惑いを隠しきれません。しかも、4G料金の値下げが進めば、当面、多くのユーザーが割安な4Gサービスにとどまり、5Gへの移行がさらに遅れてしまうのでは、との懸念も聞かれます。

 5Gが描く未来社会の便利さ、快適さを享受する前に、足元で解決すべき課題は山積していると言わざるを得ません。

【筆者】

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち・さとし)

 

(KyodoWeekly1月11日号から転載)

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