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「はじめの一歩」(上)=5G 「夢の通信インフラ」の虚実

 「5G(ファイブ・ジー)」という言葉をよく耳にするようになった。携帯電話に使う高速通信システムの新しい規格で、通信のスピードは現在主流の「4G」の最大100倍だという。その技術は、クルマの自動運転や遠隔診療に使えるなど、ビジネスや社会生活を大きく変える可能性を秘めているらしい。そんな「夢のテクノロジー」の基本をおさらいしつつ、私たちがどう使いこなしたらよいのか、まとめてみた。

 「はじめの一歩」(下)=5G:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2021-02-08_3567228/

 

 Q そもそも「5G」という名前は何を意味していますか。

 A 携帯電話の通信規格の第5世代のことで、「G」は「世代」(Generation)の頭文字です。これまで第1世代(1G)から第4世代(4G)まで、およそ10年サイクルで進化を遂げてきました。

 今では当たり前の携帯電話ですが、有線で備え付けられていた電話機が持ち運びできるようになったのは1980年代で、これが第1世代(1G)です。当時はショルダーバッグほどの大きさがあり、機能としてはもっぱら通話のみでした。

 Q 自動車電話が登場したのと同じころですね。第2世代はどう変わりましたか。

 A 1990年代に入ると、音声や文字などを0と1からなるデジタルデータに変換して電波に乗せる「デジタル方式」が一気に広がりました。携帯電話もその波に乗り、通話だけでなくメールのやりとりなどデータ通信が可能になりました。これが「2G」です。

 アナログ方式に比べ伝送品質や速度が向上し、「ケータイ」は単なる電話から便利なコミュニケーションツールとしての性格を帯びます。NTTドコモが1999年に投入した「iモード」はその象徴だといえるでしょう。「パケット」という言葉が定着したのもこのころです。

 Q 第3世代、第4世代はどう進化しましたか。

 A 世紀をまたいだ2001年に開始された「3G」は、初めて国際標準として定められた規格となりました。NTTドコモが投入した「FOMA」は3G対応の商用サービスの代表格で、通信の高速化、大容量化を生かしたネットサービスが広がりました。「写メ」「着うた」などの用語が日常の一部となったのをご記憶の方も多いでしょう。

 2008年にソフトバンクが「iPhone 3G」を提供してから、携帯電話は「スマートフォン」の時代へと移ります。動画配信やゲームなどの大容量コンテンツを楽しめるモバイルツールとなりました。

 また、多くのアプリケーションソフトをスマホ上で動かせるようになり、スマホはもはや、電話というより手のひらで操るパソコンと呼べる性能と機能を持ちました。これが今、私たちが使っている第4世代(4G)です。LTEという高速通信規格がよく知られています。

 

超高速

 

 Q そして、いよいよ「5G」の登場となるのですね。

 A はい。お待たせしました。大きな特徴は三つ。一つ目は「超高速・大容量」です。通信スピードは毎秒20ギガビット(ギガは10億)と、最大値で4Gの100倍です。といってもピンときませんが、2時間の映画をダウンロードするのに、4Gで5分かかったものが5Gならわずか数秒で完了です。

 なぜ、こんな超高速が可能になったかというと、一つには、従来は扱いが難しかった、高い周波数の電波を使う技術が進んだためです。周波数が高くなると、より多くのデータがスムーズに速く行き来できます。データが行き来する高速道路の道幅がさらに広くなり、走りやすくなったイメージです。

 Q すると「5G」サービスを巡って、高い周波数の争奪戦が起きているのですか。

 A 電波は公共財です。国民共有の財産とされ、総務省が用途や目的、事業者別に細かく割り振って管理しています。

 5Gに割り当てられた電波は4G世代とも重なる「サブ6帯」と呼ぶ周波数のうち、3・7ギガヘルツ帯と4・5ギガヘルツ帯、さらに「ミリ波帯」に分類される28ギガヘルツ帯の電波です。従来の携帯電話がせいぜい数百メガヘルツ(メガは100万)から、高いものでもせいぜい2・6ギガヘルツ程度だったのと比べると、違いが歴然でしょう。

 Q そうした高周波数が空いていたなら、なぜもっと早く開放してくれなかったのですか。

 A 高い周波数の電波にはデメリットもあります。直線的に飛ぶため届く範囲が狭い、長い距離を飛びにくい、障害物に遮られると弱い、などです。比較的低い周波数の電波は、スピードは劣っても遠くまで飛びやすく、障害物を回り込むのも得意で、面的に広いエリアをカバーできます。5Gはそんな扱いにくい高周波数の難点を、アンテナ技術の改良や電波の飛ばし方の工夫で克服したのです。

 それは、5Gの二つ目の特徴である「超信頼・低遅延」とも大きくかかわってきます。

 Q 高い周波数を使いこなすのに必要な新技術ですね。

 A 5Gは速いだけでなく遅延が1000分の1秒と、4Gの10分の1という強みがあります。送受信のズレがほとんどないという意味です。この驚異的な数値を可能にする技術として重要なのが、やや専門的になりますが、「エッジ・コンピューティング」と呼ぶ技術です。

 例えば私たちがスマホから、あるウェブサイトにアクセスして何かのデータをダウンロードしようとします。このときスマホから近くの基地局、さらにプロバイダーのネットワークを介してネット上のサーバー(通常はクラウド)に取りに行く、という流れになります。下りは逆のルートで私たちのスマホにデータが届きます。5Gはこの過程を簡素化し、ショートカットでやりとりします。

 

「多数同時接続」

 

 Q どうやってネットワーク通信を簡素化するのですか。

 A 5Gでは、最初のスマホから基地局までは同じですが、基地局の近くに分散、設置したサーバーで受け取って処理し、すぐにスマホに返すという流れです。これまでは、クラウド(雲)に一極集中させておいて使うたびに取りに行っていた情報を、ネットワークのエッジ(末端)までおろして、なるべくユーザーに近いところで処理できるようにするという考え方です。

 ネットワークはいまや情報を流す土管としてだけでなく、それ自体がソフトウエアとして機能する巨大なデータセンター網に変質しつつあります。エッジ・コンピューティングの実現のために、通信の種類ごとにネットワークの層を薄切りにして使い分ける「スライシング」という技術が貢献しています。

 Q 5Gの三つ目の特徴は何ですか。

 A 「多数同時接続」です。これは一つの基地局に大量の端末を同時に接続できるということです。4Gでは一つの基地局に同時に100台程度のスマホがアクセスすると、つながりにくくなる現象が起きますが、5Gではこれを100倍にし、約1万台が同時にアクセスしても大丈夫になります。

 あらゆる人やモノ(機器やセンサー)がネットにつながって情報をやりとりする「IoT」(モノのインターネット)の普及には欠かせない技術だといえます。また、そうして集められた膨大な情報(ビッグデータ)を人工知能(AI)が解析し、制御してくれる社会を、政府は「Society5・0」と呼び、新しい価値や産業の創出、より豊かで快適な社会生活の基盤になるものと期待されています。

 Q なぜ、そのような同時多数接続が可能になったのですか。

 A 一つには「グラント・フリー」という仕組みのおかげです。通常、端末と基地局との間で通信を始める場合には、利用する周波数や利用時間などの情報をやりとりし、基地局が事前許可(グラント)を発行した後、データの送信などが行われます。5Gはこうした手続きを省略し、まずは通行を許可してスムーズな流れを優先します。

 高速道路のゲートを開放して、料金所で渋滞するのを避けるイメージとも言えるでしょう。関連でいえば、さきほど述べた「スライシング技術」も同時多数接続に好都合です。いくら幅の広い道路を造っても、スポーツカーやバス、軽トラックなど種類や目的の異なる車が混在していてはうまく走れません。スライシングによって走行レーンを細かく分けて多種の車を整理してあげることで、トラフィック全体を効率化できるのです。※次回の(下)では5Gが私たちの暮らしをどう変えるのかを解説します。

【筆者】

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち・さとし)

 

(KyodoWeekly2020年12月28日/2021年1月4日号から転載)

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