経済
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国のかたち、どう変えるのか―ビジョン見えない新政権

 経済学者ケインズは、株式市場は「美人投票」だと評した。それは、誰が美人かを投票で決めるもので、その当選者に投票した者が賞金を得るものである。そのために、投票者は自分の基準ではなく、誰が当選するかを予測して投票する。そうしないと賞金にありつけないからだ。だから、「勝ち馬に乗る」ことが投票者の行動基準になる。

 自民党の総裁選挙は、これと同じ原理が働いたようだ。誰が次のリーダーにふさわしいか、誰の政策にこの国の未来を託すことができるかなどは、議論の俎上(そじょう)に載せられることはなく、誰が勝ちそうかだけが帰趨(きすう)をいち早く決めた。

 政策を議論すべき政治家たちが政策を棚上げにしたまま行動する。菅義偉新首相は政治主導を強調し、人事権を振りかざして官僚組織には官邸に従順であることを求める。政治家に十分な政策立案能力があり、政策を真剣に議論する心意気があるならそれもよいだろう。

 ただ、選挙地盤への奉仕に熱心でも政策立案に必要なスタッフを十分にもたない日本の政治家に期待はできない。

 どんな分野の政策でも、そのアイデアをブラッシュアップするためには、知恵を出し合って衆議を尽くす必要がある。その議論に誰が参加するのか、まさか、安倍晋三政権のように側近の思いつきによるマスク配布の再来はないだろう。

 一方、政策に関する専門知識を持つ官僚組織から出る異論をあらかじめ排除しては現実的な政策は妥当なものとはならない。

 官房長官時代の記者会見などで垣間見えた「異論に耳を貸さない」という強圧的態度では、透明性のある政策決定にはならない。密室の官邸主導を政治主導と勘違いされては困る。

 コロナ対策にしても経済対策についても、すでにさまざまメニューが出されている。この分野で新政権の新鮮味を出すことは難しい。そうした中で、規制改革など従来の延長線上にある政策に加えて菅首相はデジタル庁の新設や不妊治療の保険適用などを打ち出している。行政事務のデジタル化は望ましいだろう。保険適用を拡大することも異議はない。

 問題なのは、そうした個別政策からは、この国のかたちをどう変えようとするのか、というビジョンが全く見えないことである。個別の政策課題に対する政策立案には専門的な知恵がいる。政治指導者として大事なことは、それらを全体として政策構想にまとめ、新内閣が目指す方向を説得的な言葉で語ることだろう。新首相は国民からみて「おかしなこと」が多いから規制改革を進めると強調する。

 しかし、公文書改ざんなど前政権が犯した「おかしなこと」にふたをしては、国民のための規制改革という言葉も、ご都合主義の空疎で信頼できないものにすぎない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly9月28日号から転載)

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