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「はじめの一歩」 コロナ禍の世界・日本経済の行方

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、日本を含めて世界全体の経済活動が大打撃を受け、歴史的な景気後退(リセッション)に陥りました。現状がどれほど深刻なのか、回復に向けてどのような道筋をたどるのか、また「新しい日常」は経済の面からどのような姿になっていくのかをまとめました。(編集部)

 

 Q 経済の悪化ぶりはリーマン・ショックを超えたといわれています。

 A それは統計で明確に分かります。日本の実質国内総生産(GDP)改定値は、緊急事態宣言が出された2020年4~6月期に28・1%減少しました。リーマン・ショック後の09年1~3月期の年率17・8%減より大幅な落ち込みで、戦後最悪のマイナス成長を記録しました。

 米国の4~6月期GDP改定値は同様に年率で31・7%減と、統計が残る1947年以降で最大の落ち込みです。ユーロ圏GDP改定値は年率で約40%の減少でした。主要国で一番厳しい状況になったのがロックダウン(都市封鎖)の導入と解除がともに比較的遅かった英国で、4~6月のGDPが速報値段階で年率59・8%のマイナスとなりました。

 Q リーマン・ショックとの違いは。

 A 当時は住宅バブルの崩壊をきっかけに、過剰なリスクを背負った金融機関の連鎖的な経営破綻への不安が高まった結果、相互不信が広がった金融市場に経済の「血液」となるお金が出回らなくなり、企業や家計が十分な資金を確保できず日常の活動に支障を来し、設備投資や消費が冷え込みました。

 実体経済が血行不良を起こし、生産から所得、支出へと順番に悪化していった形です。今回のコロナ・ショックは、感染拡大防止のためのロックダウンやその他の規制措置を通じて人とモノの移動が突然止まり、部品調達などのために企業が構築したサプライチェーン(供給網)が世界中で寸断されるのと同時に、消費や投資もなくなりました。

 つまり、経済の流れの全ての地点を一挙に直撃したわけです。雇用の面でも、リーマン・ショックより今回の方がもっと深刻な様相を呈し、コロナ・ショックで失われた雇用の規模は、リーマン・ショックの何倍にも達するとの試算も出ています。

 米国の失業率は4月に世界恐慌以降で最悪の14・7%まで跳ね上がりました。リーマン・ショック後でもピークは10%でした。日本は米国に比べると、リーマン・ショック時も今回も、失業率はそれほど上がっていません。しかしこのまま企業の売上高低迷が長期化し、倒産件数が増加してくれば、さまざまな政策支援で支えられている雇用が大幅に悪化する可能性は否定できません。

 Q 痛手が大きかった産業や企業にも差があるのでしょうか。

 A はい。リーマン・ショックは当然、金融・証券業界や不動産などがまず厳しい逆風にさらされ、その後体力が落ちた金融機関から融資を受けられなくなった企業などに影響が波及しました。

 これに対してコロナ・ショックはサプライチェーンの混乱が自動車など世界的な物流に依存する業種に打撃を及ぼした上に、移動制限や感染拡大懸念を背景に航空会社や飲食業、小売業をはじめとするさまざまな接客サービス業の売上高が急降下しました。日本でも、インバウンド(訪日外国人客)に依存してきた多くの観光関連産業で突然需要が消えてしまったことの影響は甚大です。

 日本の上場企業は4~6月期の合計利益が前年同期に比べて5割以上も減少し、33業種のうち空運や鉄鋼など11業種が赤字を計上しました。ただ在宅勤務拡大に伴うITサービスや各種機器の需要増で、情報通信や電機などは底堅い業績になっています。

 Q 政策面ではどんな対応が取られましたか。

 A 日本政府は2020年度の補正予算を2度編成し、企業の資金繰り支援や売上高が急減した中小企業・個人事業主への家賃支援、ひとり親世帯への給付金などさまざまな形の経済対策を打ち出しました。規模の点でもリーマン・ショック時に実施された対策を上回っています。

 欧米でも事情は同じです。米国はこれまで計3兆ドルの家計・企業支援策を発動。欧州でも財政出動に慎重だったドイツが積極的な歳出拡大方針に転じ、欧州連合(EU)はコロナによる経済的打撃が特に大きかった加盟国を支援するため、初めて共同で資金を調達して「復興基金」を立ち上げることに合意しています。

 ドイツや英国、オーストリアなどは相次いで付加価値税率を引き下げ、消費喚起につなげようとする動きも見られます。世界全体で見ても、財政支出総額は既に10兆ドルを超え、リーマン・ショック時の2倍以上になったとみられています。ただ各国ともこうした対策の財源の多くを国債発行で賄っており、パンデミック収束後の財政健全化が共通の課題として浮上しています。

 いったん緩めてしまった財政規律を取り戻すのが難しいことは、過去の事例からも明らかです。

 Q 今後順調な景気回復は期待できますか。

 A パンデミックの状況と有効なワクチンや治療法の実用化がどうなるか分からないという点で、先行きは非常に不透明です。

 国際通貨基金(IMF)は6月下旬に公表した世界経済見通しで今年の成長率がマイナス4・9%まで落ち込み、来年はプラス5・4%に持ち直すと予想した上で、さらなるロックダウンが必要になる事態などが起きれば、成長率がもっと下振れするリスクがあると警告しました。

 パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、今の経済低迷が「われわれが経験したことがない」厳しさで、この先の道筋はウイルスを抑え込めるかどうかに左右されるとの認識を示しています。景気回復が「V字型」で急速に進むとの声は乏しく、低調な期間が長引く「U字型」や改善がなかなか見通せない「L字型」の予想が優勢です。

 日本についても、基本的に7~9月以降は成長率が上向いていく見通しです。経済財政諮問会議の年央試算では、2020年度と21年度の成長率はそれぞれマイナス4・5%とプラス3・4%でした。

 ただエコノミストの間では、GDPの水準がコロナ前のピークだった昨年7~9月まで戻るには早くて3年、遅ければ5年はかかるとの声が広がっており、受けた傷の深さがよく分かります。

 Q 世界経済をけん引する国・地域は。

 A それが見当たらない点も、不安材料です。リーマン・ショック後は、中国が巨額の財政支出を行って世界経済を支える役割を果たしましたが、その後債務問題に苦しみ、今回は経済対策を「小出し」に打つ方針のように見受けられます。

 中国は世界で最初にコロナの感染拡大が起きた後、いち早く経済活動が再開され、景気は回復の兆しを見せ始めたとはいえ、すぐに加速しそうにもありません。中国以外の新興国もかつてのような高成長は難しくなっています。

 いずれも債務の膨張に苦しんでいたところに、コロナ対策の財政支出でさらに借金を重ねてしまったからです。それに比べればまだ余力がある米国は、大規模な経済対策を実施して景気浮揚を図っていますが、新型コロナの感染拡大が続いていることに加え、11月の大統領選が波乱要素になります。

 現在世論調査で優勢な野党・民主党のバイデン前副大統領が現職のトランプ大統領に勝利した場合、法人税率の引き上げや資産課税強化などが行われ、企業や市場の心理を冷やす恐れがあると指摘されています。

 一方、トランプ氏が再選されると貿易摩擦が尾を引き、世界経済の足を引っ張る可能性があります。またどちらの候補が当選しても、経済から安全保障まで幅広い分野にまたがる米国と中国の対立は簡単に解消されないとの見方も出ています。

 最悪のシナリオは米中対立がさらに深まり、大恐慌後のブロック経済化と似たような両国経済の完全なデカップリング(分断)が起きる事態です。世界貿易機関(WTO)は4~6月の世界のモノ分野での貿易量が過去最低に落ち込んだと発表していますが、デカップリングが現実化すれば、貿易はさらに沈滞してしまう危険をはらんでいます。

 Q ただ米国の株価は最高値圏で推移しています。

 A 株式市場はワクチン開発や景気回復についてかなり期待が先行しています。実体経済の弱さに比べて株価が高過ぎるとの見方も根強く、大規模な金融緩和で創出された巨額のマネーが市場に流入している側面は否定できません。

 株高を主導しているのは巨大IT企業で、アマゾンやアップルなどこれらごく一部の銘柄に投資家の資金が集中している状況を危ぶむ声が出ています。もっともこうした企業の事業はパンデミックがもたらす逆風を受けにくく、業績がしっかりしているから買われているのは確かです。

 コロナ前から進行していたとされる「第4次産業革命」の柱に位置づけられているのは巨大IT企業や新興ハイテク企業とのつながりが深いモノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、ビッグデータで、そうした技術は社会的距離の確保が必須となったコロナ共存時代に一層の発展が見込まれています。この将来性も、株価上昇の原動力かもしれません。

 Q コロナがマクロ経済面でもたらした構造的な変化は。

 A 例えば長期的なグローバル化の進展に急ブレーキが掛かったのではないでしょうか。パンデミックの前から、欧米などで格差拡大助長の原因とみられたグローバル化と移民受け入れへの反発が広がっていましたが、コロナ・ショックで人やモノの移動が物理的にできなくなり、企業がサプライチェーンの再構築を迫られたり、出稼ぎ労働者たちが本国に引き揚げざるを得なくなったりという事態が生じました。

 そして世界的な往来がいつ全面的に再開できるのかは全く読めません。またコロナ禍による大幅な所得の落ち込みや大量の失業で格差がさらに拡大し、これが社会不安や消費の持続的な縮小、教育などへの投資減少などを通じて、長期的な経済成長を押し下げかねないとの懸念も出てきています。

 米国では、黒人男性が白人警官から暴行されて死亡した事件をきっかけに、人種差別に由来する雇用や所得の格差に対する不満が改めて爆発し、社会を分断しています。こうした問題への対応としては、従来の社会保障政策に基づく支援は限界に達しつつあることが露呈しました。パンデミック収束の出口が見えず、いつまでも失業保険や休業補償などを給付し続けることは不可能です。

 その中で、政府が全ての国民に最低限の生活費を継続的に支給する「ベーシック・インカム」など抜本的な新政策を導入し、格差是正に取り組む必要があるとの議論が世界各地で起きています。

 さらにインフレを心配する声もあります。主要中央銀行が相次いで大規模緩和に乗り出している上に、FRBが雇用増大のために物価上昇率が一定期間高めに推移することを容認する新たな方針を公表したからです。

 実際、市場ではインフレに強いとされる金の価格上昇が続いています。これまで物価が下がり過ぎて経済に悪影響を与えていただけに、物価がある程度上向くのは望ましい形ですが、果たしてうまくコントロールできるかが問題です。

 もう一つ、感染リスクという意味で、人口が密集する都市の経済活動が抱える問題点も浮き彫りになりました。日本ではかねてから東京一極集中の是非が議論されており、首都機能分散や地方との連携などが進むかどうか注目されます。

 Q コロナ共存時代の企業の取り組みは。

 A テレワークの普及、社会的距離を含めた感染防止対策の徹底などコロナ禍をきっかけとした生活習慣の変化と、発展を続けているデジタル通信技術をどう融合させるか、企業の模索が続いています。

 折しも第5世代(5G)移動通信システムが世界中で本格的に導入されようとしています。パンデミックとともに一躍有名になったビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」をはじめとする新しいインフラを積極的に活用したサービスが続々登場し始めました。例えば銀行は、ビデオ会議システムを使った顧客の資産運用、住宅ローンなどの相談や手続きに乗り出しました。

 不動産業界では、物件の購入希望者が実地で確認しなくても済むオンライン内見を行っています。外出ができなくても自宅で医師の診察が受けられる遠隔医療サービスも特に米国などで提供する企業が増加中です。製造現場の工程管理、物流倉庫の監視といった分野ではITやロボットを駆使して遠隔操作による非接触の作業が採用されています。

 人々の生活の質向上を目指し、多様なデジタル関連サービスを共同で展開しようとする業種の垣根を越えた取り組みも見られます。レジャーの面では、遠くに出かけたり、大人数のイベントを開催したりするのが難しくなっている中で、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)を用いて疑似体験を提供するサービスの広がりも予想されます。

 Q 非接触という面でキャッシュレス化の行方は。

 A パンデミックを契機に、紙幣は不衛生だという考え方が強まったのは間違いないようです。また「巣ごもり消費」の主役となったのはネット通販で、買い物はQRコードや電子マネー、クレジットカードなどキャッシュレスの決済手段が大勢です。コロナ禍が収束した後も、国によってペースに差はあっても現金離れが基本的な潮流になるでしょう。

 ただ現状では課題もあります。例えば今の電子マネーは民間企業が発行しており、発行元が経営破綻した場合、利用者が損失を被ってしまいます。対照的に現金は中央銀行が発行し、高い信用力があります。そこで日本銀行を含めた各国の中銀は、世の中の流れを見据えた上で、現金に代わり得るデジタル法定通貨を発行することに前向きになっており、問題点や具体的な仕組みなどの検討作業を進めているところです。

 キャッシュレス先進国の一つとされているのがスウェーデンで、現金使用率はゼロに近づいており、公共交通機関などでは既に現金が使えなくなっています。同国でも、経済的あるいは身体的な理由からスマートフォンを持てず、電子決済ができない人たちへの対応はどうするのか、また通信障害時などの脆弱(ぜいじゃく)性が課題として浮かび上がってきています。

 Q 日本経済に突きつけられた課題は。

 A コロナ・ショックを受け、4~6月期実質GDPの金額は、年率換算で約485兆円と東日本大震災後の2011年4~6月期の水準まで目減りしました。

 安倍晋三首相が12年12月の第2次政権発足以来、金融緩和、財政出動、成長戦略を3本の矢として推進してきたアベノミクスですが、円高是正や株価押し上げに一定の成果を上げたものの、経済を長期的に安定した成長軌道に乗せることができないまま、いったん幕を下ろしました。公的部門の借金は膨らむ一方で、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化達成時期の見通しが既に20年度から25年度に先送りされているにもかかわらず、現状では25年度の黒字化も絶望的な状況です。

 金融政策を見ても、日銀は黒田東彦総裁が13年4月に「量的・質的金融緩和」を導入した後、14年10月にこれを拡充、16年1月にはマイナス金利を採用するなど相次いで大胆な緩和措置を講じましたが、2%の物価上昇率という目標は絵に描いた餅のままです。

 新政権が船出しますが、財政面では追加的なコロナ対策が必要になる場合、新たに「コロナ債」の発行で対応する可能性があるとの見方が聞かれます。金融政策は物価目標が達成されなくても、長期金利を低位安定させてきた点が重視され、これまでの枠組みが維持されそうです。

 ただどちらにしても手詰まり感が強いことは間違いありません。コロナ禍に加えて少子高齢化といった構造要因にも苦しむ日本経済の底力を引き上げるには、生産性向上などにつながる有効で具体的な成長戦略を一刻も早く実行する以外に突破口はなさそうです。

 

(KyodoWeekly9月21日号から転載)

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