経済
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納得いく最低賃金の設定を

 近年、最低賃金(以下、最賃)の引き上げが重要な政策テーマになっている。政府は、早期に全国加重平均が1000円になることを目指すとの方針を示している。コロナ禍の中でも、雇用を守ることが最優先課題としつつも、この方針は堅持するとしている。

 最賃引き上げ論は、引き上げが消費活性化と生産性向上に寄与することから、経済政策として有効ということや、日本の最賃水準が他の先進国に比べて低位にあることを理由にしている。

 しかし、最賃引き上げと生産性向上との関係性は、実証分析からは確認されていない。最賃額の国際比較についても、為替レートや各国の制度内容や労働市場の成り立ちも違うことを留意する必要がある。単純には比較できない。

 最賃引き上げで、慎重に留意すべき重要な点は、中小零細企業の経営に及ぼす影響だ。コロナ禍の厳しい経営状況を考慮すればなおさらのことになる。

 近年の最賃の大幅な引き上げの結果、金額改定時点で改定後の最賃額を下回る賃金額で働いている労働者の割合を示す「影響率」(全国平均)は、2012年度の4・9%から19年度は16・3%に上昇した。

 影響率の上昇は、最賃額近傍で働く労働者が年々増加していることであり、企業の賃金支払能力に余力がなくなってきたことを示しているともいえる。

 経営実態から離れた最賃引き上げは、その影響を強く受ける中小零細企業において、新規雇用抑制や雇用削減、さらには投資の手控えによる生産性向上の機会喪失ともなる。事業継続が不能となる企業すら出てこないとも限らない。

 最賃額は、既に東京都や神奈川県で1000円を超える答申が出されており、政府目標の達成後について「さらにどこまで引き上げられるのか」という経営者の不安の声も多いという。

 また、最賃額の地域間格差が拡大していることも、現行制度の大きな課題となっている。最賃額が地域間で差があることにより、隣接地域間で労働力人口の流出が起きている。

 流出を抑えるため、地域経済力を超えて、より高い最賃額に引っ張られるという問題も起きている。経済力と乖離(かいり)した最賃額は、地場産業の事業の縮小や撤退などの悪影響がある。

 現行の都道府県単位での水準設定に大きな問題がある。都府県をまたがっても同じ生活圏の地域は同水準であってよい。一方、南北差など、地域で経済力に顕著な差がある都道府県で、全域が同一の水準でよいのかには強い疑問がある。

 コロナショックによる危機的な経済情勢にあるからこそ、最賃については、従来の議論の延長から離れ、最賃額の水準が本来どうあるべきか、何を重視して制度設計すべきかといった「そもそも論」に立ち返った議論を開始することが必要ではないか。

 最賃制度見直しの方向は2点である。第一に、経済実態に即してゆるやかなペースでの引き上げの検討を行う。第二に、対象エリアを、現行の都道府県単位から、生活圏や地域経済力の実態を重視した、よりきめ細かいエリア設定に見直す。この2点が肝要と指摘したい。

(アジア太平洋研究所 主席研究員 藤原 幸則)

 

(KyodoWeekly8月3日号から転載)

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