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アベノミクス、官邸支配に亀裂 「強権の経済政策」を読む 

 安倍政権の7年余りは長期の経済成長と雇用拡大を実現した。しかし、大規模な金融緩和を軸とするアベノミクスへの賛否はさまざまだ。「安倍1強」といわれる政治体制の中で、官僚や中央銀行の振る舞いは大きく変化した。今年6月発売の「ドキュメント 強権の経済政策―官僚たちのアベノミクス2」(軽部謙介著、岩波新書)は安倍政権後半の政策運営を描いた。本書の内容や背景を紹介する。

 

旧主流派の反撃

 

 2018年4月に日銀の黒田東彦総裁が再任された。任期5年の総裁が2期続けて務めるのは例がない。

 しかし大規模緩和の立役者である黒田総裁だけに、「黒田の後は黒田」が既定路線とされ、17年秋には総裁続投で決着していた。波立ったのは日銀出身の副総裁の人事だった。

 本書は元総裁の福井俊彦氏と麻生太郎財務相の会談を冒頭に置いた。福井氏は本命の雨宮正佳理事(当時)ではなく、中曽宏副総裁の留任を求めた。

 雨宮氏はかつての福井氏と同じように、若手の頃から「日銀のプリンス」と呼ばれ、総裁候補としての道を歩んでいた。「進駐軍」の黒田総裁とともに、異次元緩和に踏み込んだ雨宮氏に対し、日銀旧主流派は複雑な感情を持つようになっていた。

 日銀の新旧勢力の亀裂に切り込む筆の運びには、取材の深さがうかがえる。著者は前作「官僚たちのアベノミクス―異形の経済政策はいかに作られたか」(岩波新書)で、日銀の旧主流派とリフレ派の対立を活写した。続編に当たる本書は、数字や理論の羅列にしか見えない金融政策の底流にある人間の情動に触れていく。

 

くすぶる不満

 

 覇権を確立した安倍晋三首相や菅義偉官房長官の支配によって、財務省や日銀は沈黙と服従を続けている。しかし、強力な圧力にさらされているがゆえに、その内部では多くのうねりが生じている。

 元大蔵事務次官の吉野良彦氏が現役幹部を叱ったエピソードもその一つだ。

 蔵相、総理を務めた竹下登氏を支え、消費税導入を果たした吉野氏は89歳のいまもかくしゃくとしているが、政策や人事に影響力を持っているわけではない。

 吉野氏の発言が省内で広がったことの意味は、本書で解説されている通りだろう。官邸に押されて財政出動を続けているように見える幹部への不満が、省内にくすぶっているからにほかならない。

 

劣化する統治

 

 本書は、安倍政権の賃上げ政策に多くの紙幅を割いている。

 本来は労使で決めるべき賃金交渉に、安倍首相が直接介入したことに経団連も連合も強い違和感を持った。

 だが結局は、首相がデフレ克服のために強く求めた賃上げは実現していく。旧民主党を支えてきた連合を突き放す手法を解き明かし、敵と味方を厳しく区別する首相の姿勢を浮かび上がらせた。

 円高を恐れる官邸が、米国が嫌う為替介入を財務省に命じた事実も詳述している。当時の米財務省高官へのインタビューをもとに再現された経緯によると、官邸の思いつきのような指示は米側の反対によって雲散する。オバマ大統領を巻き込んだ米政府の通貨マフィアの動きは、無風に見える為替市場の裏面で起きていたエピソードとして興味深い。

 「強権」というタイトルに込められているのは、蓄積された理論や行政手法より、ひと握りの側近や学者のアイデアに頼るアベノミクスの危うさだ。

 官邸に忠誠を示し重用される官僚がいる半面、むなしさを感じながら意欲を失っていく人材も少なくない。アベノミクスはいま、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、立ち往生している。「官邸官僚」が主役になった統治システムの劣化は覆うべくもない。

 著者は4月に長年勤めた報道機関から大学教員に転じた。記者として最後に書き上げた本書は、長期政権の功罪を問う1冊になった。

(21世紀金融フォーラム)

 

(KyodoWeekly8月3日号から転載)

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