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「一律10万円給付」を考える―選挙民から票を買う行為?

 政府は追加経済対策として、国民1人当たり現金10万円を給付する方針に転換することを表明した。マスクの次は現金である。国民を物乞いのように見ているのではないか。「所得制限なし」の一律給付には疑問がある。まさか、提案した公明党の山口那津男代表が受け取るつもりはないだろうが、休業要請が生んでいる現実に対する正確な認識を欠いている。

 個人事業主などについては、所得の減少に対する補償を考えることは必要だろうし、休業で雇用機会を失い、所得が減少した人には補塡(ほてん)が不可欠だろう。

 中小企業でも休業は大きな痛手だが、これまで政府は、補償はできないと言ってきた。その補償とは何を意味しているのだろうか。売り上げ減少分をすべて補塡する必要はそもそもない。なぜなら、売上金から支払われる賃金部分は、雇用調整助成金制度を援用すればよい。

 店舗などの賃料や借入金の元利払いの資金などは、一部補償対象とするとしても、5カ年据置無利子融資などの制度を使うこともできる。納入業者の支払いも同様に措置できる。

 そもそも事業が休止されれば、原材料などの購入も止まるから、その資金負担が際限なく増加することはない。だとすれば、休業要請に伴う補償の何ができないと言うのか。

 大事なのは、困っている人たちに必要な手当てが届くことである。薬は病んでいる人たちにだけ届けばよい。だから、スピードを重視して、政府の助成措置実施まで、民間金融機関につなぎ資金を融資するよう安倍首相が得意の「要請」をすればよい。

 多くの事業者は健全な経営力を持っているから、この急場をしのげる手段を提供するだけでよい。だから給付でなく貸し付けでも有効だし、彼らの力量を信じれば、危機が去って経営が軌道に乗れば貸与された資金を返済することはできる。

 つまり、経営危機に直面している企業に対しては、既存の制度を組み合わせれば、かなりのことはできる。多額の補償資金を用意する必要はない。具体的提案をきちっと組み立てれば、十分効果が期待できる。派手ではないから、選挙に響くインパクトはないが、今は、そんな計算をする場合ではない。

 所得の多寡によって、休業の影響度によって、10万円給付の意味は異なる。一律給付はその差を無視して、選挙民から票を買う行為に堕している。政権支持率低下に対する危機意識はあっても、国民が直面している本当の危機には鈍感な者だけが、こんな提案に同意する。

 外出自粛の率先垂範と言わんばかりに、自宅でくつろぐ映像を流す首相の鈍感さは度を超している。不眠不休の態勢で感染防止対策に当たる人たちの最高指揮官としての自覚はなく、自分が感染しないことが最優先されているのだろう。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly4月27日号から転載)

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