経済
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「はじめの一歩」~MMT② 日銀の役割をどう評価

「はじめの一歩」~MMT①:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2020-03-31_2636091/

「はじめの一歩」~MMT最終回:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2020-03-31_2636132/

 「自国通貨を発行する国は財政赤字により破綻することはないから、積極的に歳出を増やして経済を上向かせるべきだ」と主張する「現代貨幣理論」(MMT)。あたかも財政規律を否定するような学説には異端視する見方が多いが、一方でデフレ脱却の道筋が見えない現状の日本経済の特効薬だとする声もある。日本銀行の役割や政府との関係も踏まえながら、MMTの理論をさらに深掘りしてみる。

 

 Q MMTに従えば、日本ではまるで「打ち出の小づち」のようにお金を刷れる理屈になりますが、国の借金が増え続けるのはやはり不安です。日本の国債に対する信認がひとたび揺らげば、国債価格は暴落し、金利が急騰して、国内景気に冷水を浴びせかねません。

 A まずは国債の価格と長期金利の推移を見てみましょう。もし「日本の財政は先行き危ないから、国債はなるべく持ちたくない」と金融機関が考えれば、国債の人気は下がり価格は下がります。これは額面に対する利回りの上昇、つまり長期金利の上昇を招くはずですが、現実の市場では低位安定が続いています。新発10年物国債の利回りはマイナス0・1%前後で推移しており、今年初めにマイナス圏に突入して以降、水面下に沈んだままです(グラフ①参照)。

 これが何を意味するかというと、国債の人気は依然として根強く、金融機関がたとえマイナス利回りであっても入手したいと、国債の入札に応じている実態がわかります。少なくとも現状を見る限り、日本国債に対する市場の信認は揺らいでいないと評価できるでしょう。一方で財政再建への努力は国際公約でもありますので、着実な実行が求められます。

グラフ①=新発10年国債利回り(%、日本相互証券調べ)

 Q つまりは日本が財政再建に向けて着実に取り組むという期待があってこその国債の信認ではないですか。そもそもなぜ、金融機関は「持っていたら損をする」マイナス金利の国債を購入するのですか。

 A それは国債という金融商品が持つ極めて高い流動性ゆえ、と説明できます。マイナス金利の国債を満期までただじっと持ち続けていたら、償還時の価格は買値を下回ってしまいますが、国債の価格は流通市場で日々変動しています。買値より少しでも高く日銀に転売できれば利ザヤが稼げるので、金利動向を見ながら手元資金を運用するのに好都合です。

 このほか、金融市場では社債や株式などさまざまな商品が売買されていますが、国債との組み合わせで売買されることが多く、国債はそれ自体が金融商品であるのと同時に、金融商品の市場流通を媒介する極めて便利な手段なのです。

 実際に政府が国債を売り出して、これを購入するのは民間の金融機関ですが、金融機関は購入した国債を日銀に売って現金に換えますから、巡り巡って国債発行残高の4割ほどは日銀に保有されているのが実態です。日銀はいわば日本政府の子会社ですから、政府の借金といってもごく身内で持ち合っているわけで、そもそもデフォルト(債務不履行)の心配はないという見方もあるでしょう。

 なお、日銀が国債を直接引き受けること(財政ファイナンス)は法律で禁じられています。それは中央銀行が通貨を発行して国の財政赤字を直接穴埋めすることを意味し、財政の規律上好ましくないとされるからですが、黒田東彦日銀総裁の「異次元緩和」以降、鮮明になった国債の流れ(日銀への還流)をみると、実態としてあまり違いはないと言えるかもしれません。

 なお、日銀はいったん民間に売り出された国債を時価で買い入れることで現金を供給したり、逆に国債を売って余剰資金を吸収したりします。こうして通貨供給量(マネーサプライ)を調節し、金利水準を望ましい方向へ誘導しています。これが公開市場操作(オペレーション)と呼ばれるもので、国債は金融政策の重要な運用ツールとしての役割も担っています。

 Q 日銀は中央銀行として政府から独立した存在です。物価の番人として行動し、政府の言いなりに国債を引き受ける義務はないのではないですか。

 A 世界各国の歴史をみると、ときの政治勢力から中央銀行に対して、通貨供給を増やし、金利を下げるといった緩和的な金融政策を求める圧力がかかりやすい側面があります。

 もし、中央銀行が政権に迎合して金融政策を行えば、場当たり的な人気取りに利用され、長期的な物価の安定や経済の持続的な成長が損なわれる可能性があります。そこで金融政策は中立的、専門的な機関(中央銀行)に委ねることが経済の安定的成長に資するとされ、日本銀行法でもその旨が定められています。

 一方、同法は金融政策が「政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とも定めています。金融政策に関する事項を協議する金融政策決定会合に代表者が必要に応じて出席し、意見を述べたり議案を提出したりできるのは、そのためです。

 Q 政府の借金といっても、かなりの部分は日銀から借りているという実態を、どう評価したらいいのでしょうか。

 A MMTを知る上で、政府と中央銀行を一体的にとらえる「統合政府論」の考え方を押さえておきましょう。

 「国の財務書類」の中の貸借対照表を見ると、国の負債合計は1238兆円(2017年度末)と、資産合計の670兆円を大幅に上回っていて、これは大変だという印象を持ちます(図②参照)。しかし〝連結子会社〟である日銀のバランスシートを見てみると、日銀の資産の方には、国から引き受けた国債460兆円あまりが積み増されて、政府単体の負債超過額568兆円をかなり埋め合わせてくれるように見えます。

 財務省などは、日銀のバランスシートの右側にある当座預金や発行銀行券などの負債が同時に連結会計上の負債にもなるのだから、負債超過の状態は変わらないと、「統合政府の負債相殺説」に反論します。しかし、これに対しては「日銀の当座預金や現金は返済の必要は事実上なく、これらを借金カウントするのは適切でない。ましてやこれが膨らんで財政が破綻すると財務省は本気で考えているのか」(経済評論家の三橋貴明氏)との再反論もあります。統合政府のバランスシートの評価もやはり、両陣営で見解が異なります。

図②=国のバランスシート(2017年度末)

 Q MMTは景気対策のためにはためらわずに財政出動せよといいますが、どんな使い道を考えているのですか。

 A MMTの主張で興味深いのは、財政政策とセットで雇用対策を用意している点です。具体的には「就業保証プログラム」と呼ぶ仕組みで、すべての求職者が少なくとも最低賃金レベルでは働けるよう、政府が公共事業などの仕事を用意するものです。財政支出はそのために充てることもできます。

 不況時にはこの制度によって誰もが失業せずに済み、賃金の下落を防ぎますし、逆に好況になれば、民間企業がこの人たちを採用して求人ニーズを満たします。人手不足から賃金が高騰するのを防ぐ効果があり、インフレの阻止を期待できます。政府は不況時には同プログラムへの財政支出を増やし、好況時には減らすことで景気の安定を図れると説明しています。

 Q 官民で労働力を調整し合うといっても、単純作業ならともかく多様な職種でうまくいくでしょうか。

 A 確かに、就業保証プログラムが労働力の調整弁として一定の役割を果たせるとしても、企業の求人ニーズは多様な業種や職種にわたりますし、高い技能や専門性を必要とする場合、うまくマッチングできるとは限りません。

 また、高齢化の進んだ日本では、年金受給と税金の兼ね合いで賃金水準が選ばれる場合があり、労働力需給と賃金とが必ずしも連動しない可能性はあります。今年4月、外国人労働者の受け入れ拡大がスタートしたことと同プログラムの関係も見極める必要がありそうです。

[筆者]

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち さとし)

 

(KyodoWeekly12月16日号から転載)

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