経済
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「はじめの一歩」~MMT① 賛否渦巻く経済理論

「はじめの一歩」~MMT②:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2020-03-31_2636120/

「はじめの一歩」~MMT最終回:https://www.kyodo.co.jp/ecm-news/2020-03-31_2636132/

 「政府は公債残高を気にせず、積極的に財政出動すべし」「貨幣の価値の源泉は、それをもって納税義務を果たせること」―そんな主張を掲げる「現代貨幣理論」(MMT)という学説が関心を集めている。停滞感の強い国内経済を浮揚させる特効薬になるという声がある一方、主流派経済学者の間では、財政再建に逆行する暴論だと異端視する見方も多い。果たして、どういう理論なのか、国内経済の現況と照らし合わせつつ、その中身をひもといてみる。

 

 Q MMTとは、そもそもなんのことですか。

 A 「モダン・マネタリー・セオリー(Modern Monetary Theory)」の頭文字を取ったもので、通常「現代貨幣理論」と訳されます。ごく簡単に言うと、自国の通貨を持ち、自国通貨で債券(国債)を発行できる国はデフォルト(債務不履行)に陥る心配はないので、政府は財政赤字や国債の発行残高(債務残高)を気にすることなく財政出動できる、というものです。

 また、貨幣の価値の源泉はそれをもって国の税金を納付できることだとも説明します。お札は券面に1万円、5千円と印刷しただけでその額面の価値を皆が認めます。それは国がそのお札によって納税するよう国民に義務を課しているからで、その貨幣に対する揺るぎない需要を裏付けていると、また、その貨幣を自ら発行できる政府は、景気対策のためにどんどん供給してもよいとします。

 ただし、そのためには、外国との貿易などの経常収支が黒字であること、変動為替相場制であること、インフレが起きていないことが条件とされます。経常赤字であったり固定相場制であったりすると、外貨準備が不足した場合、相手国との関係においてデフォルトに陥ってしまう恐れがあります。

 Q どんな人たちが提唱した学説なのですか。

 A 1990年代に米国の投資家、ウォーレン・モスラー氏、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授らが提唱した学説ですが、もとはマクロ経済学の代表的存在であるケインズの系譜につらなります。2018年11月にニューヨーク州から連邦議会下院選に立候補し、女性最年少で当選したアレクサンドリア・オカシオコルテス氏(民主党)がMMTを支持したこと、ケルトン教授がかつて民主党のサンダース上院議員の政策顧問を務めていたことなどから注目を集めました。

 Q 財政出動が行き過ぎると政府の債務残高がさらに増えてしまい、悪化している財政が破綻してしまいませんか。

 A 確かに日本の政府債務残高は国内総生産(GDP)の約2・3倍と、先進国中でも突出して高い水準です(表①参照)。社会保障基金の債務などを除いた国と地方の長期債務残高でみても、ほぼ2倍の水準に膨らんでいます(グラフ②参照)。「経済再生なくして財政健全化なし」の号令の下、政府は債務残高の対GDP比率の安定的な引き下げとともに、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の25年度までの黒字化を目標として掲げて取り組んでいます。そのさなかに、無秩序な国債の乱発などもってのほかだという批判が起こるのは当然と言えます。

 ただ、MMTも野放図な国債の発行を推奨しているわけではなく、あくまで財政出動による景気対策を優先し、いったん景気が上向いて経済が自律的な回復軌道に乗れば、国債の発行を減らせばよいという論理立てです。高齢化に伴う社会保障費の増大に対しても消費税率引き上げのような増税でなく、財政出動で賄うべきだ、と主張します。

表①=主な国の債務残高/GDP比と順位(188カ国中)

グラフ②=国及び地方の長期債務残高と対GDP比率(年度末、18年度は実績見込み、19年度は政府案)

 一方で、MMTを支持する論者は根本的な発想を切り替えるべきだとも説きます。貸借対照表(バランスシート)を想像してもらえば分かりますが、そもそも政府の借金(債務)というのは民間の資産(債権)です。政府が誰からお金を借りているかといえば、国債を買ってくれる民間の金融機関ですし、さらに言えばそれを買い取る日銀です。

 政府が借金を増やすことは、つまるところその分、民間の預金残高が増え、それが新たに機械を購入したり、労働者を雇い入れたりといった形で「富」を創出することだと表現できるでしょう。国債のほとんどが国内の、しかも身内のような機関で消化されている現状に照らせば、デフォルトの危険は事実上ないというのがMMT学派の説明です。

 Q しかし、国の借金はいつか誰かが返さなければならないし、それは将来世代にツケを背負わせるものだと、国や政治家は説明しています。

 A もちろん、借金は消えてなくなるわけではありませんし、GDP比で見た残高をきちんと管理し、減らしていく努力をすることは必要です。それは国際的な要請でもあり、例えば欧州連合(EU)は債務残高をGDP比60%以下とするよう、財政協定で定めていますし、米国は39年度までに45%まで削減する目標を掲げており、財政規律の重要性は世界共通の認識として疑われていません。

 一方、MMT学派はこの問題を議論する上での言葉遣いというか、概念を問いただします。そもそも「借金」とか「赤字」といった用語は、個人や家計からすれば、できれば避けたい悪いものというイメージですが、国家財政からすれば、それは「必要な支出」であり、経済を回していくための欠くべからざる費用だと主張します。

 家計や企業が一切、借金をしなくなったらどうなるでしょうか。皆が倹約に走り、マイホームの新築や新車の購入を諦めれば、住宅着工や自動車販売台数は落ち込みますし、企業がおカネのかかる設備投資を見送れば、工場や店舗は造られず、雇用は生まれません。貸付先がなくなって銀行も商売あがったりとなり、失業も増えるでしょう。

 つまり、健全な借り入れこそが経済を回し、暮らしを豊かにしていく源泉だと考えれば、「国の借金は悪という単純な発想では問題の本質を見誤る」というMMTの説明にも一理あります。

  Q 財政出動を積極化し、国債をたくさん発行して景気対策が行き過ぎれば、インフレが起きる危険が高まりませんか。

 A 国内の消費者物価指数をみてみましょう。17年以降、前年同月比プラスに転じてからも1%未満で低位安定しており、政府・日銀の目標である2%にはまだ遠く届きません。黒田東彦・日銀総裁のリーダーシップの下、13年春に開始された、いわゆる異次元緩和はある意味で、なりふり構わぬ国債の買い入れ(現金の供給)とも言えましたが、それでもなお、デフレを脱却しきれていない現状を考慮すると、インフレ率が極めて高いハイパーインフレを心配することなど笑止と、MMT支持者は説明します。

 まさにこうして国債発行を増やしつつも、インフレが起きていない日本こそ、MMTを現に実践しているではないか、MMT理論の正しさを証明しているではないかと、ケルトン教授らは指摘します。国会で質問を受けた麻生太郎財務相も黒田日銀総裁もそれを否定していますが、表面上、日本経済の実態がMMT理論を裏書きしているように見えてしまう一面があるのもまた確かです。

 Q 日本では太平洋戦争の終戦直後や1970年代の石油危機で経験したインフレの苦しみが今も語り継がれています。

 A 深刻なインフレが国民生活に与える混乱や負担は計り知れず、なんとしても阻止しなければなりません。一方で、その当時と異なり、グローバル化、IT化が進展した現代では、極端なインフレが構造的に起こりにくくなっているという指摘もあります。

 原材料は、より安価な調達先を求めて世界中にサプライチェーン(部品の調達・供給網)が張り巡らされ、デジタルネットワーク化により価格比較情報は瞬時に駆け巡り、最安値でのオファーは国境を超えて共有されます。アマゾン・コムなど巨大プラットフォーマーの存在もこれに一役買っており、歴史が目撃してきたインフレの教訓を現代の先進国にそのまま当てはめてよいのかどうかは議論の余地がありそうです。

 いずれにせよ、MMTと主流派経済学との主張はどこまで行ってもかみ合いません。次回は国債の流通と日本銀行の役割に光を当てながら、MMTの考え方をさらに追究します。(続く)

[筆者]

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち さとし)

 

(KyodoWeekly11月25日号から転載)

 

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