国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)において、小泉進次郎環境相は、日本の「石炭中毒」に対する批判の包囲網にさらされた。
石炭火力発電が温室効果ガスを削減する上で障害になり、国際的には電源の転換が進められている中で、日本政府は原子力発電に固執し、その再開までのつなぎの意味も込めて、石炭火力に依存するエネギー供給計画にこだわり続けている。それが小泉氏を縛り付けている。
東京電力福島第1原発の事故によって、日本は原子力発電の危険性を身に染みて感じたはずだ。しかし、その後のエネルギー政策は、再生可能エネルギーなどの技術開発・経済性の実現に大きく立ち後れた。再生可能エネルギーの費用が高いと主張しているのは、日本政府くらいだが、そうした情報に国民の目が向かないことに乗じて、政策転換の必要性を認識せず、放置してきたのが安倍晋三政権である。
経済成長を最重要課題とする限り、将来のエネルギー需要は増大するとの前提で議論が進められるが、少子高齢化・人口減少を考慮すれば、エネルギー需要が急増するのは考えにくい。だから、生活環境にも自然環境にも優しい電源への転換は、将来世代に対して現役世代が果たすべき重大な責務となる。
識者の中には、日本の石炭火力の技術水準は高く、他国のそれよりも温室効果ガス排出量は少ないと指摘する者もいる。その通りかもしれないが、それでも排出削減という目標から見れば、優先すべき順位が間違っていることは確かだ。
歴代首相の中では群を抜いて海外を歴訪している安倍首相が国際的な潮流の変化になぜ気が付かないのか。口先だけの友好関係を誇示していても、緊急の課題に対する感度の鈍さは、目を覆うばかりだ。
戦後体制を見直し、憲法改正を実現するという後ろ向きの問題にこだわり続けることが、どれほど将来に向けた政策論議をおざなりにさせているかを自覚すべきだ。与野党ともに、そして経済界も政策課題の選択に誤りがないように、時代の変化に敏感になる必要がある。
たとえば、株主第一主義を標榜(ひょうぼう)していた米国では、主要企業の経営者団体であるビジネス・ラウンドテーブルが「幅広い利害関係者に配慮した経営」を推奨する声明を2019年8月に公表している。株主本位にこだわっているのは、いまや日本だけになりつつある。この風向きの変化を日本政府は政策立案に反映しているとはいえない。
日本は長期にわたる安定的な経済状態を維持している。問題は、優先順位を見失い、時代遅れになった政策にこだわり続けていることである。このままでは、史上最長の政権は、後世の歴史家に「失われた時代」と評されかねないと自覚すべきだろう。
(東京大名誉教授 武田 晴人)
(KyodoWeekly1月20日号から転載)