経済
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異なる時計で結果比較―記述式採点は不公平

 大学入学共通テストの記述式問題の出題と採点に疑問が出ている。マークシートよりも学力が正確に測れるという理由だろうが、この方式の難しさへの認識を欠いている。

 仕事柄、大学入学試験の出題と採点に携わった経験から言うと、10万人単位での受験生の答案を公平・公正に採点することは全く不可能である。

 私が所属していた大学では、出題されている大問の中の小問三つのうちの一つが、採点者2人に割り当てられていた。それも志望する学部が同一の受験生の範囲で担当する。競い合う受験生には同じ基準で採点するためである。範囲を限定しても答案は1千枚近くになる。その採点は朝から晩まで続けても10日から2週間で、なんとかめどがつくのが現実だった。

 採点者2人はそれぞれに点数をつけ、それに差が大きいときには協議し、場合によっては出題者や、その問題の採点責任者に相談する。その結果によっては、それまでの採点も見直す必要が生じるために、恐ろしく時間もかかるし緊張を強いられる作業になる。

 提案された記述式の共通テストでは、国語では大問一つの中に小問3問で構成され、解答字数は最も長い問題で120字程度を上限にしたものという。この形式は、私が経験したものと大差はないが、10万人単位の答案を、公平を期すために同じ採点者がすべて見ると、1年後でも終わっていないだろう。1千枚で10日かかるとすると、その200倍の20万枚なら2千日かかる計算になる。

 だから学生のアルバイトを使うことも伝えられているが、問題は採点者が誰であるかではない。採点基準を複数の採点者で一致させることが難しいことである。

 2人でやっても差が出るのだから、数百人という規模の採点者がいれば、基準がぶれることは誰にでも予想できる。それを考慮せず、記述式が望ましいとやみくもに信じ、その採用を推進する人たちは、非現実的な人たちである。彼らには採点の現場で起こることを想像する力が欠けている。

 共通テストの記述式採点の難しさを緩和するためには、答えに紛れのない出題をすることも議論されている。そうなれば、受験者は出題者の意図を忖度(そんたく)して、解答を書くことに集中するだろう。それは受験者が持つ創造的な力を殺してしまう。記述式のメリットもない。

 異なるテンポで動く、不正確な時計で計った競技結果を比較することに意味はない。共通テストはそんな不合理を強行しようとしている。非現実的な改革案を提起して、実現の具体策を示さないのは今の政府のいつものやり方だが、支持者たちと桜見物にうつつを抜かさずに、しっかりと受験生の現実に目をこらしてもらいたい。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly12月2日号から転載)

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