経済
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口約束―通用しない現実無視

 日米貿易協定の承認を求める議案が国会に提出されたが、その内容は、予想通り曖昧なうえに、一方的な内容となった。

 日本政府は、自動車関税の引き上げを阻止したという成果を強調するが、それを確認するような文書はない。8月末にトランプ米大統領は、日本車への追加関税を「もし私が望めばできるが、現時点では考えていない」と回避する考えを表明していたから、引き上げ回避は既定路線だった。トランプ政権は支持基盤強化のために農産物の輸出拡大の可能性を広げたが、日本は何も得なかったという疑いが、合意発表時から濃厚だったが、疑いは現実となった。

 安倍晋三首相は、トランプ大統領が今回の協定を尊重すると首脳会談で表明したことを根拠に、日本がこれ以上不利になる交渉はあり得ないと主張する。しかし、協定文書にもその付属書類にも裏付ける文言はなく、将来の交渉内容についても新しい疑問が生じている。共同声明の日本語訳では「日米物品貿易協定について、また、他の重要な分野(サービスを含む)で早期に結果を生じ得るものについても、交渉を開始する」としている内容が正式な協定文書では、物品貿易協定に該当する英文がなく、交渉は物品に限定されていないことである。

 日本が米国との交渉で数々の公表されない秘密協定を結んできたことは歴史の中で明らかにされている。それに加えて、国内向けの説明のために仮訳された文書が、作為的に誤訳されていることは問題だろう。

 日本のように政策文書・記録を軽視する国はほかにないが、米国には通用しない。いずれはサービス貿易も含む包括的な交渉を要求するだろう。その時、文書に記されていない口約束が守られることはない。

 安倍首相は共同会見でトランプ大統領に促されてトウモロコシの輸入に言及したが、帰国後の国会答弁では、これは約束したものではないと説明している。しかし、この理屈が通るのであれば、トランプ大統領も協定の趣旨を尊重するという発言に拘束されることはなく、「望めばできる」ことになる。

 トランプ大統領が安倍首相の意のあるところを忖度(そんたく)することはないから、これから日本は曖昧な合意のツケを嫌と言うほど払わされることになる。

 これまでも口先だけの公約や説明でお茶を濁してきた安倍首相である。教育の無償化も子育て支援も働き方改革もすべて、実施過程では問題が噴出して有効な対応もできずに放置されている。選挙民に受けそうな言葉ばかりを並べて政権維持を図る手法が通用し続けることはない。不屈の敢闘精神を示したブレイブ・ブロッサムズ(ラグビー日本代表)の躍進に声援を送った国民に、「ほどほどに収まった」という現実無視は通用しない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly11月4日号から転載)

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