経済
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貢ぎ物外交―「脅し」を乱発する国

 参議院選挙後に具体化するといわれていた、日米貿易交渉が決着の方向に向かったという。

 しかし、この交渉は本当に対等なウィン・ウィンの結果をもたらしたのだろうか。日本政府が評価しているのは次の点である。一つは、トランプ米大統領が求めていた農産物の輸入関税の引き下げを環太平洋連携協定(TPP)の水準に抑えることができたこと、もう一つは、危惧されていた米国の自動車輸入関税の大幅引き上げを回避できる見通しになったことである。

 ただ、この結果は「あげるものはあげて取れるものは取れなかった」という言葉が示すように、かなり一方的なものである。いくら取り繕っても、菅義偉官房長官の「米国側に押し切られたとの指摘は全くあたらない」との説明は空疎である。

 トランプ大統領は自動車関税の引き上げの可能性をちらつかせて、日本側から農産物輸入関税の引き下げを勝ち取った。このディール(取引)で失ったものはない。口先だけの脅しで、現実的な利益を、支持基盤である農業者にもたらした。

 日本側も工業製品の関税引き下げの約束を取り付けたと伝えられているが、その具体的な品目は9月末まで不明である。もし、意味のある引き下げが交渉事項になっていれば、成果を誇りたい安倍内閣が黙っているはずもない。特段のメリットもない形式的な譲歩だけだから、忘れた頃に持ち出し、反発をかわすつもりではないか。

 もちろん、日本の消費者にとって米国産農産物の価格が関税分だけ下がれば、メリットはある。しかし、それほど単純な話にはならない。なぜなら、日本国内の畜産農家などをあっさりと切り捨てられるほどの余裕は、現政権にはないからだ。おそらく、何らかの方法で貿易によって被る損失の補償措置が講じられるだろう。その財源は間違いなく国民が納める税金になる。

 安い食料品価格が実現できても、それに連動する農業対策費の増加で国民負担は増えても減ることはない。

 この負担は、米国の「脅し」に屈して日本が引き受けたものである。ここまで日米関係の良好さを演出し続ける利益があるのだろうか。

 米中関係のように報復関税の応酬になる危険な状態を回避したことの意味はある。しかし、トランプ流のディールが通用することを日米交渉で示したことの罪は大きい。妥協するにしても、貿易戦争の持つ危険性を強く主張し、米国に対外政策の再考を求める気概が日本外交には必要であろう。

 それが自由貿易を尊重してきた日本の国際社会での役割だ。「脅し」を乱発する国は「信頼できる国家」とはいえない。そんな国に一方的に押し切られて貢ぎ物を差し出す日本政府には猛省を促したい。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly9月9日号から転載)

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