経済
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報復の連鎖―国民不在の外交

 日韓の経済関係が悪化の一途をたどっている。日本が実施した輸出管理上の手続き変更は、安全保障に関わる貿易管理上の正当な措置という説明であった。これに対して、韓国は日本側の指摘に該当する事実はなく、徴用工問題などへの報復だと反発し、今度は日本向け輸出手続きを改め、規制を強化した。

 韓国側が日本の主張に根拠がないということであれば、具体的な説明を求め、疑義があれば日本が直接にこれを確認する道を拓(ひら)くように冷静に対応していれば、こじれることはなかったかもしれない。

 しかし、安倍晋三首相が8月6日に日韓関係について「最大の問題は国家間の約束を守るかどうかという信頼の問題」と発言したことから、日本の狙いが徴用工問題であることは明白となった。これでは、貿易問題と徴用工問題は別だといくら主張しても、国際的には通用しない。

 この強硬な態度は参議院選挙には有利には働く一方、支持率が落ちかかっていた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権の支持率も引き上げた。対決姿勢が政権への求心力を高めるとすれば、両国とも簡単には態度を改めないだろう。

 対外危機をあおることで政権への支持を強める手法は、古くからあるし、今ではトランプ米大統領の得意とするものだ。安倍政権は、トランプ氏亜流の強硬な外交方針の危うさを自覚しているのだろうか。そして、この強硬さは、米国が駐留経費の負担増や貿易面での譲歩を声高に要求している交渉でも貫かれるのだろうか。米国に譲歩を強いられる埋め合わせを韓国に求めているのではないか。

 明治日本は、脱亜入欧と称して欧米に追随しながらアジアへの侵略・支配にまい進した。その時のゆがんだ世界観がそのまま現政権を支配している。

 自由な貿易がそれぞれの国民経済に与える利益は、制限された貿易では得られないほど大きい。これは経済学では常識とされる。特に貿易制限による産業の萎縮と需要の不足などによる雇用面での悪影響や物価上昇は、消費者である国民に大きな負担を強いるものとなる。

 報復措置の応酬となっている経済外交政策は、貿易の利益に代わるような利益を国民にもたらすことは考えにくい。憲法改正のために、支持率を高く維持したい安倍政権には都合はよくても、この外交方針は国民不在の国民の利益を無視したものだ。

 国民感情を敵対的な方向へとあおる政治手法は、外交手段としては下策(げさく)である。たとえ相手国が国内事情からそうした手段に訴えても、同じ手段で対抗・報復するのは児戯に等しい。

 「外交の安倍」を誇っているが成果に乏しく、このままでは日韓関係に最悪の事態を招いた首相として〝安倍晋三〟の名前が歴史に残ることになる。もう少し大人になってほしいものだ。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly8月26日号から転載)

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