経済
政治・経済・国際の解説・分析記事

誰のための改革なのか―〝忖度〟白書から考える

 1956(昭和31)年度の経済白書は「もはや戦後ではない」という言葉を流行語にした。この白書は高度成長の前夜にある日本について、これからは技術革新が必要であり、経済復興の勢いに乗っているだけでは将来の見通しは立たないという意味で「戦後ではない」と断言した。

 翌年度の白書は「速すぎた拡大とその反省」という副題のもとで、二重構造の解決が必要であることを指摘した。このように当時の経済白書は、成長期待が高まる中で、その楽観的な雰囲気に冷や水を浴びせながらも、日本経済が進むべき道を的確に示していた。

 翻って、令和最初の「経済財政白書」は、ニュースにもならないほど注目度は低下している。日本経済の構造的問題に切り込んで、進むべき方向を指し示す迫力に乏しいからだろう。

 たとえば、この白書では、「高齢者や女性、外国人らを含む多様な人材の活躍を促すことが望ましい」として、長期雇用や年功的賃金制度を特徴とする「日本的雇用慣行」の見直しが重要だと強調している。

 ただ、この指摘に新鮮味はない。安倍晋三内閣が提唱している政策メニューをなぞるだけの作文だからだ。これほどに官庁エコノミストたちの分析力と政策提言能力は劣化してしまっている。

 財界は、長期雇用の改革に積極的である。企業業績を短期間に回復するためには聖域のない雇用調整への道を拓(ひら)くことが望ましいからだ。

 しかし、日本的雇用慣行の恩恵は、大企業の正規男子従業員だけの特権であり、中小企業では労働移動率が高く、女性労働者の長期雇用は想定されていなかった。労働力市場の流動性は高度成長期も高かった。だから、この主張の妥当性に根拠はない。

 現状は、働く人たちから見て問題点が多いことは間違いない。それを改革する基本的視点は、働く人たちにとって何が望ましいかである。企業経営に望ましいことではない。

 誰のために改革するのか。経済成長は目標ではなく、実現されるべき目標は、国民生活の改善と向上である。改革が働く人たちの生活不安を高めることなく、働きやすい未来を作ることが目指されるべきだ。

 そのような改革を進めるための政策は何か。その政策の有効性を国民に理解してもらうためにどれだけの努力が払われているのか。公務員の使命は政権を支えることではない。本来の使命を忘れて政権の政策をなぞるだけの〝忖度(そんたく)白書〟は、税金の無駄遣いでしかない。

 考えてみれば、長期雇用と年功賃金がもっとも強固に維持されているのは、公務員である。その安全地帯にいる人たちから、「日本的雇用慣行」を変えるべきだと言われても、誰も聞く耳は持たないだろう。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly8月5日号から転載)

PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ