経済
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関税戦争―米国追随と国民の利益

 

 トランプ米政権が仕掛けた報復関税が米中間の激しい対立を生み、中国政府は「関税戦争」と表現して、対決姿勢を強めている。世界はこの対立の行方に息を潜めている。

 自由な貿易が望ましいという、第2次大戦後に確立し、米国が世界に唱道してきた原則が180度方向転換した印象がある。 しかし、それが私たちにどのような未来をもたらすのかは不透明で、不安ばかりが募る。

 1980年代に日米で貿易摩擦が発生し、日本品の輸入制限が問題になったとき、経済学者たちは、そうした措置が両国の消費者にとっては不利益をもたらし、不適切だと主張した。保護主義の政治的主張が威勢良く選挙民の心を捉えたとしても、保護主義の不利益は選挙民を痛めつけることになる。

 米国の圧力下に対抗しながら自由貿易体制を守ることを国際社会に訴え、世界貿易機関(WTO)の成立に力を尽くしてきた日本は、なぜ米国や中国の動きに異議を唱えないのか。米国追随が国民の利益に反することを自覚していないのか。

 報復関税はWTOでも貿易不均衡の解決手段として認められている。

 しかし、今回の問題が米国の主張するように中国側の不公正な貿易が原因とする根拠は明確ではない。かつての日米摩擦でも米国は一方的な主張を繰り返したが、不均衡の根本的原因は、日米両国の産業競争力の差にあった。ITなどの分野で米国の復権があるとはいえ、米国産業の競争力の劣化は否定しがたいところであろう。

 今回の事態は、90年前の世界大恐慌の時代に米国が採用した保護関税措置と対比され、その危険性が指摘される。1930年6月に制定された「スムート・ホーリー法」は、2万品目以上の輸入品を対象に関税を40~50%引き上げるというものであった。

 この米国の動きに対応して同年秋以降にヨーロッパ諸国が輸入制限的な措置に踏み切った。英国はポンドを基軸通貨とするスターリングブロックを形成することになり、世界経済のブロック化が進展した。この措置が世界貿易の縮小を加速したことは歴史研究が明らかにしている。

 ただ、加速したとはいえ、報復関税が大恐慌の原因であったとする学術研究は少ない。分かりやすいが根拠に乏しい通俗的理解とされる。

 1929年秋の株式市場の暴落に始まる米国の不況は、国際的な資本移動を阻害し、関税戦争が勃発する前年の30年にはかなり深刻化していた。他国の関税の引き上げによって輸出が減退する以前に米国は深刻な需要不足に陥り、回復不能な困難に直面していた。

 自国に問題があるのに他国に原因を求めるのは政治の常套(じょうとう)手段だが、警戒すべきは、こうして排外主義が強まり、深刻で修復不能な対立に陥ることである。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly6月10日号から転載)


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