経済
政治・経済・国際の解説・分析記事

水道事業の行方―守るべき国民生活とは

 

 清潔な水の確保は生活の基本的な要素である。蛇口をひねれば水がふんだんに利用できるという利便性は、災害のたびに使えなくなると痛感するが、日常的には意識されることは少ない。そのため私たちは、無関心にすぎたかもしれない。

 この水道事業で重大な問題が生じている。国や地方自治体が運営している水道事業に関する基本法制が改められ、事業の運営権を民間に移すことが可能となったからである。

 民間の知恵を借りることで、改善できる官営の事業分野があることは間違いないが、上水道がそうした方式になじむかどうかは議論が尽くされていない。上水道は公共財的な性格が強い。それはライフラインの基本的な要件であるだけではなく、疫病の流行などを防止する公衆衛生上からも必要だからである。

 しかし、料金の安さもあって事業の継続性を脅かす収入不足になり、効率性や料金値上げの自由度が高まると民営化策が模索されてきた。その結果が今回の改正に盛り込まれている。

 事業の継続性を脅かしているのは水道管路などの老朽化である。厚生労働省によると、2016~20年には管路の更新費用だけで1兆円という巨額な費用が発生すると予測されていた。他の施設の更新も含めればその1・5倍に達する。国民1人当たりで見ると、月額1千円ほどの負担となる。

 施設の老朽の度合いなどは地域によっても異なっているから、現事業主体ごとに費用負担を受益者に求めると、自治体によっては極めて大きな負担が発生し、地域間の格差は拡大する。

 水道事業の運営費は料金収入によって賄うべきかもしれないが、管路などのインフラについては、民営化では解決は見通せず、政策的な資金投入が積極的に展開されるべきだ。老朽化が進む現実は、そうした政策課題がおざなりにされてきたことを如実に示している。

 安倍晋三政権は、隣国の脅威を理由に国の安全を守るために、防衛計画の大綱を改定し、年々防衛関係予算の増額を図っている。国の安全保障も大事だが、生活のインフラを維持することは、それと同じくらい重大な政策課題であり、国が優先的に予算配分すべき問題である。

 高度成長期には上下水道だけではなく、道路や橋、港湾設備などは余裕のある財源を追い風に多額の投資が行われた。こうして整備が進んだ国民生活の基盤も経年劣化は免れず、更新の時期を迎えている。必要な更新投資は今後も増え続ける。

 外からの脅威に目を奪われては、肝心なことを見落とす。平和の維持に国民の合意があるのは、国民一人一人、健康で文化的な生活が持続することを望むからである。その生活の基盤への投資を怠っては、守るべき国民生活が内側から崩れてしまう。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

 (KyodoWeekly12月31日号から転載)

PR特別企画
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ