経済
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「パチンコ産業史」の示唆―外国人材、高い志こそ

 サントリー文化財団主催のサントリー学芸賞の本年度受賞作品が発表された。その政治・経済部門の受賞作にちょっと目を引く作品があった。韓載香(ハン・ジェヒャン)著「パチンコ産業史」(名古屋大学出版会)。学術研究の視野の外に置かれていたパチンコ産業の歴史に照明を当て、経営資料などの発掘に基づいた本格的な実証研究を評価した選考委員の鑑識眼には敬服する。

 著者は現在、北海道大大学院の准教授だが、韓国人として、日本の在日韓国・朝鮮人社会に関心を持ち、その研究の一環として、在日の人たちが多く関与しているパチンコ産業の分析に取り組んだ。

 留学生だが、韓国政府の資金で派遣されてきた学生ではない。漠然とした志を抱いて来日し、大阪の在日の人たちが多い町に住み込んで、皿洗いのようなアルバイトをしながら、大学への入学を決意したという。京都大学から東京大学へという勉学の歩みは、平たんではなかった。

 「パチンコ産業史」の「あとがき」には、この著者が大学入学準備のため、ビザ延長で訪れた入国管理局の1日が回想されている。長く順番を待たされる中で募る不安、延長理由を説明する書類を突き返されないように必死に窓口の担当者に、まだ片言の日本語で説明するときの緊張感などが、抑え込まれた筆致で語られている。

 「私の在留目的がどう日本社会に役立つか」。これを示さなければ、在留延長は認められないというのが、著者が入管で刻みつけられた実感であった。

 そして、その経験は、大学に無事入学できても、毎年1回は繰り返され、大学院を修了して就学ビザから就労ビザに切り替えられた後も年中行事のように必ず訪れる。そのため、著者の研究業績が学界でも認められるようになっても「自分が日本にいる意味、役割、貢献の仕方」を意識しなければ、研究を続けていくことすら許されない、と著者は強迫観念のように持ち続けてきた。

 外国人材の受け入れ拡大が議論されている中で、このような現実をどう受け止めるべきだろうか。著者は、韓国政府の選抜を経て優秀な人材として留学してきたわけではない。高い志を持って誰にも負けない研さん・努力を日本で積んだことによって、日本の学会でも際立った業績を上げた人にのみ贈られる栄誉を手にした。

 特定の分野に限って日本が認める優秀な技能者だけを受け入れる政府原案は、いかにも日本の都合だけを振り回した身勝手なものだろう。日本で磨き上げれば光り輝く原石はいくらでもいる。それを育てる努力は棚上げにしたままの外国人材の受け入れ計画は、どう取り繕っても安上がりに労働力不足を解消したいという日本の事情を優先したものにすぎない。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly12月17日号より転載)


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