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官には甘く、民には… ―日産ゴーン会長逮捕

 数日来、日産自動車のカルロス・ゴーン会長の逮捕で大騒ぎになっている。カリスマ的な経営者として称賛の的であっただけに、衝撃が大きいのだろう。

 しかし、執筆時点(11月26日)では、逮捕容疑は有価証券報告書への虚偽記載。たかが虚偽記載にしては、騒ぎが大きすぎる。

 虚偽の記載が法令に違反する犯罪であることは疑いない。ただ、役員報酬が過小に記載されていたとしても、それによって株主の利益が大きく損なわれただろうか。役員報酬の総額は毎年株主の同意を得て枠がはめられている。報道されている範囲の情報ではそれを超えた報酬ではない。高すぎる報酬にはもちろん批判はある。

 しかし、株主が同意した範囲の支払いに過ぎない。それに役員報酬は企業価値には影響がないから、株価に影響することはない。確かに5年間で50億円という数字を聞くと、庶民感覚とのずれも大きいが、それだけのことに過ぎない。

 仮に年10億円が配当に回されたとしても、日産の発行済み株数は42億株なので1株あたりの金額は23銭。900円の株価に対して0・03%にしかならない。配当に回しても株主の利回りにはほとんど影響はない。

 もちろん、日産の最大株主ルノーにとっては少なくない金額かもしれないが、当面は推移を見守る姿勢だ。反応が鈍いように見えるが、むしろ日本の騒ぎ方が異常なのである。逮捕容疑の内容ではなく、著名な経営者逮捕の衝撃に反応しているのである。

 そのためもあってか、さまざまな臆測が広がっている。会社の資金を個人的な使途に使っているなど役員としての責任と義務からの逸脱があるというものである。そうした違法な行為がこれから明らかになれば、事件は「たかが」と言ってすまされるものではなくなるだろう。

 反響が大きいことは十分に予想されたことだから、そのくらいの展開のシナリオが検察サイドでは描かれているのではないか、と考えられている。

 だから、これ以上、この事件について論評するのは慎重にした方がよさそうだ。捜査の進展をしばらくは見守るべきかもしれない。

 しかし、たとえば公式の行政記録を改ざんするのも、重大な犯罪行為だとすると、前年以来の財務省が行った不法な行為について、それに関与したことが明確な責任者の逮捕もせず、不問に付した司法当局の判断に比べて、あまりにも大きなギャップを感じざるを得ない。

 官には甘く、民には厳しいということではないと思いたいが、そんな疑念を払拭(ふっしょく)するためにも今後の捜査で、ゴーン容疑者らの重大な犯罪行為を明らかにしてもらいたい。そうでなければ、司法取引という新制度の適用事例として記録されるだけになる。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly12月3日号より転載)

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