経済
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雇用対策に高齢者の視点を―ご都合主義に陥るな

 

 安倍晋三首相は10月22日、未来投資会議で企業の継続雇用年齢を65歳から70歳に引き上げる方針を表明した。雇用拡大によって経済成長路線の実現を図りたい政府の狙いは明白だろう。つまり、働く高齢者を増やすことで、人手不足の解消や年金制度などの安定を図ることが意図されている。

 「高齢者の希望、特性に応じて多様な選択肢を許容する方向で検討したい」との首相の説明の言葉に、どのくらい雇われる側の高齢者の視点が生かされているだろうか。

 働く人が増えれば、そして労働生産性が著しく低下しなければ、経済的な産出量は増え、その分だけ経済成長がかさ上げされるだろう。しかし、そうした「成長」が私たちの幸福につながることは保証されていない。

 働きたいという希望を持つ人たちが、その機会に恵まれることの重要性は言われるまでもない。ただ、高齢者の中には年金生活への不安から働かなければならない、という事情で雇用継続を希望している人たちも多い。そうした判断に追い込んでいるのは、財政再建を先延ばしにし、社会保障給付を削減し続け、将来の安心を奪ってきた政府の経済政策運営にある。

 公的な給付をしっかりと確保して、余裕のある状態で働き方を選択できるようにすることが政府の責任であろう。そのことを棚上げにしたまま、高齢者雇用を拡大するとの方針表明は、自らが生み出した社会的問題を国民一人一人の自己責任に帰して解決を求めているに等しい。

 仮に70歳までの雇用機会が確保されたとしても、現在の法的な枠組みがドラスチックに改善されない限り、定年年齢の引き上げではなく、再雇用による雇用継続が広く採用されることが予想されている。

 現行の再雇用制度は、一般的には定年前の給与を大幅に減額することを前提にした運用となっている。人件費の増加を抑えたい経営の事情が、このような運用の理由である。しかし、仕事の中身が大きく変わらないままに、給与の減額を強いる現行制度の妥当性は疑わしい。政府は働き方改革という政策の提言の中で「同一労働・同一賃金」の推進を明言している。

 もしそうであれば、再雇用に際しても、この原則に沿って時間当たり賃金は同一にすべきである。現行のような減給を前提とする再雇用制度が高齢者雇用の拡大の中で生き残るとすれば、政府の働き方改革は、一貫性のないご都合主義に陥るだろう。

 こうした点に思いが至らないのは、経済成長の実現にばかり目を奪われて、その下での国民生活の実態に対する理解が不足しているからである。目線を下げない限り、見るべきことは見えてこない。どんなに美辞麗句で自らの政策を飾っても、国民の心に響くことはないだろう。

(東京大名誉教授 武田 晴人)

 

(KyodoWeekly11月5日号より転載)


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