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市民が農業政策の形成に参加 ドイツの「緑の週間」リポート

ベルリン中央駅前を埋め尽くす集会の参加者=1月20日、ベルリン市内

 コメの生産調整の見直しや農業協同組合の改革など、安倍政権は官邸主導で農業政策の転換を図っているが、ドイツでは市民が積極的に政策形成に関わり、持続可能性、責任、公平などがキーワードになっている。1月に首都ベルリンで開かれた「緑の週間」(IGW)の概要を報告する。

 

 「緑の週間」は正式名を「ベルリン国際グリーン・ウィーク」といい、1926年(昭和元年)に始まり、90年の東西ドイツ再統一以降、食品、農林水産、畜産、園芸など総合的な世界最大級の見本市に発展した。

 83回目の今回は、ドイツ農民連合やドイツ食品飲料産業連盟などがスポンサーとなり、1月19日~28日にベルリンメッセを会場に開かれた。

 展示スペースだけで11・6ヘクタールもあり、生きた家畜を展示し動物園のような会場もあれば、優良馬の展示を兼ねたポロの屋内競技場まであって実際に試合をしていた。ドイツ国内の各州、海外66カ国から1660事業者が出展、一般にも有料(1日券15ユーロ)で公開されており、40万人以上が訪れた。

 日本ブースでは、有機栽培の緑茶や清酒を展示していた。昨年まで参加を中断しており「日本が復帰!」というのが、ちょっとした話題になっていた。

 ドイツ連邦政府の食料農業省(BMEL)は「農業は社会の中心にある」というテーマで展示し、経済協力開発省(BMZ)も別途、「フェアトレード」(公正貿易)をテーマに、綿花の栽培・繊維の流通について説明していた。オーガニック(有機農産物)の独立した展示場があり、「生産比率は20%を目指す」(クリスチャン・シュミット食料農業相)という。一時期ほど急激ではないが、ドイツでは有機農産物が着実に普及している。

 

農業版ダボス会議

 

 「緑の週間」の期間中に開かれる世界食糧農業フォーラム(GFFA)には、産官学約2000人が参加し、国際政治・経済について各界の指導者が自由に意見交換する世界経済フォーラム(ダボス会議)の「農業版」といった存在だ。

 その中核として1月20日に開かれた農相会合には、69カ国、国際獣疫事務局(OIE、パリ)や国連食糧農業機関(FAO、ローマ)など国際機関の代表ら計約80人が参加した。日本からは、例年通常国会の時期と重なるため、農相に代わって農水審議官が参加している。

 GFFAの今年のテーマは「持続可能で責任ある効率的な畜産の未来をつくる」。シュミット食料農業相は「温室効果ガスの排出量の約15%が畜産部門で生じている。畜産物の需要の高まりとパリ合意の目標達成との間で、公正なバランスを取る必要がある」と述べた。

 FAOの代表は、特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬が効きにくくなる薬剤耐性(AMR)について、「食の安全の観点から現実の脅威であり、既に人間や動物に影響を与えている」と指摘し、人畜共通感染症の面からも国際協調を急ぐべきだと強く訴えた。

 背景には、途上国や新興国で食肉の需要が高まり、薬剤に依存した大規模生産が加速しているという先進国側の認識がある。持続可能な畜産業にするためには、国際的なルールが必要だという理屈だ。

 

3万人集会

 

 閣僚会合と同じ1月20日、ベルリン中央駅前は約3万3千人の群衆で埋め尽くされていた。各自持参した鍋や釜をしゃもじで「カンカン」とたたきながら、思い思いのプラカード、旗、風船などを掲げ、トラクター群とともに駅周辺を行進した。

 プラカードの標語は「企業化された農業ではなく家族農業を守れ」「グリホサート(除草剤の成分)に反対」「野菜をもっと食べよう」「蜂の音を聞こう」「豚を(豚舎から)解放しよう」など、さまざまだ。

 「ザット(もうたくさん、うんざり)!」というプラカードも目立った。「何が」というのを直接書かず、自分たちの頭で考えさせるところがドイツらしい。シュミット食料農業相は「多国籍企業による流通支配(は、うんざりだ)」という解釈を示した。

 バイエルン州から来ていたアルバート・シュミットさん(63)は「ドイツだけでなくすべての先進国で、産業界や金融機関が政治に強い影響を与え、オルガルキー(少数独裁体制)の傾向が強まっている。自分たちの権利を取り戻したいと望んでいる市民が多くいることを政治家に示さないといけない」と参加の動機を語ってくれた。

 日本でも、かつては学生や市民団体の大規模な集会や署名活動が行われてきた。農業や食品に関しては協同組合が指導力を発揮して政策に関わってきた。しかし「安倍1強」体制になってからは、国会前などで抗議集会が開かれても単発で終わることが多く、具体的な政策形成に結び付いていかない。政権側は「ガス抜き」くらいにしか感じていない節がある。

 安倍政権の農業政策の立案には、市民団体どころか農水省の審議会すら関与することが減り、官邸直結の規制改革推進会議が主導する形で、農業のビジネス化を促している。まさしく「上から」の改革だ。ベルリンでは、見本市に参加するビジネスや自治体、閣僚会合を主催する行政、大集会に参加する市民らが、重層的に政策決定に関わっていた。農業分野に限らないかもしれないが、市民社会の成熟度の落差を感じた。

 

[筆者]

共同通信編集委員

石井 勇人(いしい はやと)

 

(KyodoWeekly4月9日号から転載)


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