生活情報のコラム

【コラム】剪定(せんてい)しすぎる「子育て」から、子どものサインを受け止め寄り添う「子守り」へ

満開の桜

 弁当作りを通じて子どもたちを育てる取り組み「子どもが作る弁当の日」にかかわる大人たちが、自炊や子育てを取り巻く状況を見つめる連載コラム。「弁当の日」提唱者である弁当先生(竹下和男)が、桜の剪定から教育を考える———。

桜切るバカ 梅切らぬバカ

 桜咲く季節になりました。お城の公園や川・道沿いの桜並木で全国的に有名な桜名所の多くは、ソメイヨシノという品種です。これはエドヒガンとオオシマザクラの交雑種の接ぎ木や挿し木で苗木を作った、いわばクローンの樹です。

 50本であっても100本であっても、遺伝子情報はどれも同じ。ですから、ソメイヨシノの本数が多い公園・土手や道路沿いでは、すべての樹が咲きそろい、豪華絢爛(けんらん)です。あたかも花の雲と見紛うほどです。

 もちろん散るタイミングもほぼ同時です。強い風にあおられて花びらが散る時の花吹雪の中にいると、心が高ぶってきます。堀や小川の水面を花びらが覆い尽くした花の浮き橋も、集まった花見客の深い感嘆の声を誘います。

 ただ、クローンであるために、花は咲いても実はできません。種から育った実生(みしょう)の苗木より短命で、およそ60年で老化し、枯れるといわれてきました。実際、植樹後60年ごろ、折れた枝や傷ついた幹から腐食が始まり、枯れる現象が全国で起きました。

 私が某中学校の校長時代に、尊敬するK教育長が、自宅の花見の宴に招待してくれたことがありました。夕刻から同僚らと訪問し、八分咲きの大きな桜の木の下で教育長を囲みました。

 宴がお開きになって、みんなで片付けていた時、私は桜の樹の美しさに感動したことを教育長に伝えました。教育長は次のように答えました。

 「毎年、花が散ると、感謝を込めてお礼肥えをたっぷり与えている。夏季も水やりを忘れず、剪定はししない」

 すっかり納得しました。「桜切るバカ 梅切らぬバカ」という言葉通り、桜は剪定に弱いのです。風折れや剪定でできた傷口から細菌が侵入し、樹勢が落ち、腐食が始まります。植物好きで観察癖がついている私にしてみれば、教育長宅の桜は枯れ枝が見つからず、すべての枝先に生命力溢れる花が咲き誇り、奇跡といえる素晴らしさでした。

 「桜の樹が喜ぶはずですね。でも、これは?」。私は、太い幹の眼の高さにある、5センチほどの枝に咲いている花を指さしました。「それなら、この位置に新しい枝を出して、花を咲かせたりしないはずなんです。台風などで枝が折れませんでしたか」

 すると、教育長は突然、「あっ!」と声を上げました。促されて樹の裏側に回ると、高さ4~5メートルあたり、手首ほどの枝が切られていました。「電線に枝が触れる心配があったので、去年の夏に切った」。

 樹は成長しながら、実にバランス良く樹冠を大きくしていきます。日当たり、水加減、風向き、周囲の樹木との日照・根張争い、肥料具合・・・。

 植えられた環境下で最大の光合成をするために、太陽の光をできるだけ多く浴びようと、意欲的に枝葉を展開していきます。そのため、新しく大きく伸ばした枝葉が、自分の古い枝葉を日陰にしてしまうことも。そうすると、コスパ(費用対効果)の関係で、不要になった枝葉のエネルギー補給をストップさせ、落枝させるのです。

 この場合、傷口処理の準備が整ってから落枝するので、細菌の侵入は防げます。でも、電線を避けるための枝の剪定は、この樹にとって不意打ちでした。

剪定された枝葉にこれまでさえぎられていた太陽の光が、幹にまで直接届き始めたのです。そして樹皮に隠れていた潜伏芽が光に反応して、「ここに枝葉を出す価値あり」と判断し、もう枝葉を出さなくても良くなっていた幹から、新芽を出したのです。

 この時、教育長も、おそらく私と同じことに思いをはせていたのでしょう。

 K教育長宅の桜の樹に起きたことは、子どもたちの心と身体にも起きています。

 子どもを取り巻く人的・物的・自然環境は、常に流動的です。少し奇異に感じる子どもの言動には、それなりに背景があるのです。

 望んでいない弟の誕生で葛藤する兄、障害を持った姉の世話にかかりきりの母を支えようと息切れする妹、いきなり暴力を振るいがちな子の隣の席で不安な子、コロナ禍のマスク着用で友だちの顔色をうかがえずイライラする子、同居の病弱なお爺ちゃんが心配でマスクをしていない子・大声で騒ぐ子を前に落ち着かない子・・・。

 修学旅行や運動会、遠足などの学校行事に大きな制限が入り、友だちとの距離が広がり、交流が減り、普段の授業形態も変動が激しい。緊急事態宣言やまん延防止対策で大人たちの不満があふれる社会の中で、子どもたちもストレスをため込んでいます。

 コロナ禍は、K教育長宅の桜の樹が被った「不意打ちの剪定」です。一つの災いに、樹も子どもたちも全身で対応しようとしています。

 「近頃の親は子どもを育てようとする。それが間違い。子どもは自ら育つのだから、見守っていればいい。子育てでなくて、子守りでいいんだよ」

 こんな言葉を、桜守(さくらもり)と呼ばれた庭師が言っています。K教育長の教育観、そして学校経営観、教育行政観も、この言葉に尽きるものでした。

 ちなみに、青森県の弘前城公園には、樹齢100年を超えたソメイヨシノが約300本もあるそうです。この長寿は、単なる放任主義から生まれたわけではありません。桜守たちがリンゴ果樹栽培の技術を活かして剪定し、殺虫剤や肥料を適切にやり、土の入れ替えをしたおかげで、樹勢を回復したというのです。

 「子守り」も同じです。災いの渦中にあるわが子にどう接するべきかは、親や教師、つまり大人たちが、子どものサインを感じ取ることからスタートするのです。自分が出したサインを受け止めてもらえたと感じた時、子どもはその大人を信頼し、自分が伸びる方向に歩み始めます。

 私にとってK教育長は、20歳ほど先輩の憧れの教師でした。一度だけ、地域の小学校社会科研究大会で、K先生の研究授業を見せてもらったことがあります。その時の私は26歳でした。K先生が提示した学習課題に集中し、授業中に少しずつ成長していく子どもたちを眼前に見せられ、ショックを受けました。

 K先生の言葉と動きは、常に穏やかでした。大声も激しい動作も必要としない深い信頼関係が、その研究授業までに築かれていたからです。その子たちの担任になった時から、それぞれの子どもをありのままに受け入れ寄り添い、成長を喜び褒める、「子守り」を積み重ねていたのです。私は自分の日常の授業の安直さに、大いに恥じ入りました。

 以後、私が退職するまで40年近く、師であり、上司であり、目標でもあったK教育長から、退職後の私の「弁当の日」の活動にも温かな助言をいただいていましたが、今春に亡くなられました。

 心よりご冥福をお祈りしたく、この文章をしたためた次第です。

竹下和男(たけした・かずお)
 1949年香川県出身。小学校、中学校教員、教育行政職を経て2001年度より綾南町立滝宮小学校校長として「弁当の日」を始める。定年退職後2010年度より執筆・講演活動を行っている。著書に『“弁当の日”がやってきた』(自然食通信社)、『できる!を伸ばす弁当の日』(共同通信社・編著)などがある。

 #弁当の日応援プロジェクトは「弁当の日」の実践を通じて、健全な次世代育成と持続可能な社会の構築を目指しています。より多くの方に「弁当の日」の取り組みを知っていただき、一人でも多くの子どもたちに「弁当の日」を経験してほしいと考え、キッコーマン、クリナップ、クレハ、シジシージャパン、信州ハム、住友生命保険、全国農業協同組合連合会、東京ガス、日清オイリオグループ、ハウス食品グループ本社、丸大食品、雪印メグミルクとともにさまざまな活動を行っています。

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