生活情報のコラム

【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】発病して気付いた、押しつけられる苦痛

TOMOYUKI HANAI    090_1833_4510

2021年11月25日=962

*がんの転移を知った2019年4月8日から起算

決める自由

 人間という生き物は、どうして己の価値観を、かくも他人に押しつけたがるのだろう。もし小学生の子どもが学校から帰って、そのまま遊びに行く、あるいはゲームをし始めようものならば、「宿題やってからにせーや」(やってからにしなさい)などと言ってしまう。

 だからといってわが子がその命令に従うかというと、実際にはそうでないことの方が多い。子を持つ親ならば誰しも経験しているとお察し申し上げる。

 強制・強要では、たまったもんじゃない。なぜならば自分で決める自由すなわち自律が奪われるからである。わたくしも息子にしばしば言われた。「オレにはオレの人生があるんや!」

 一方、自分で物事を決める機会を与えられたならばどうか。結果がうまくいけば満足感・充実感はひとしおだろう。そして、たとえうまくいかなかったとしてもその結果に納得できる。自己責任が取れるのである。

放任できた

 わたくしは悲しいかな、これらのことに、発病まではほとんど気付けなかった。いや、うっすら気付いていたかもしれないけれど、実行できなかった。がんを発病し、現在もがん治療を続ける中で、ようやく実行できるようになった。その理由は二つ。

一つ目。

 わたし自身「あれせぇー」、「これせぇー」と言われることに、はなはだ苦痛を感じるようになったからである。
 己に元気がある、余力があった発病前ならば、また違ったろう。実際にできるかもしれない、または「そんなん、できへんわぁー」と突っぱねるかもしれない。しかし自らが弱っていると、なかなかどちらも難しい。

二つ目。

 今まで発病後3年あまりを生かしてもらえてます。本当にありがたい。ただしそう長くは生きられない。少なくとも発病しなかった場合よりは短い生命だ。
 ならば己亡き後も家族それぞれが自律を保ち生きていってほしいから、あれやこれやと言わなくなった。家族に対するいい意味での放任だ。

“患者風”は続く

 自分が生きることにおいては相変わらず、「しょうゆ、取ってくれ」「箸もってきて、早う」などと、“患者風”を吹かせ続けております(注・『先輩風を吹かせる』のもじり)。実はわたくしちょうど1カ月前に「緩和ケア医 がんといきる40の言葉」(双葉社)を世にお出ししました。これらのやりとりは、本の72ページ・93ページです。よろしければご参照ください。

 わが友が「まさに40の押しつけやないか!」と言う。返す言葉もございませぬ。人間という生き物は、己の価値観を他人に押しつけたがる。いや己の価値観を押しつけるのが人間なんです。でもあえて言い訳させてもらえますならば、これらは押しつけではなく“お示し”のつもりであります。賛否両論あって当たり前。それでええんです。己の唯一無二である生を、ひとは各自それぞれが生きているわけですから。

大橋洋平(おおはし・ようへい)

 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。
 これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。

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