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【コラム】報復より未来を 映画『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』

(C)2019 Resistance Pictures Limited.
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 言うはやすしだが、実際に自身や身近な人を苦しめた相手を前に、復讐(ふくしゅう)という想念を打ち消すことができる人は多くはないだろう。それをしたのが、フランスの著名なパントマイム・アーティスト、マルセル・マルソー。ナチス・ドイツに支配されたフランスで、多くのユダヤ人の子どもたちを助けた姿を描いた『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』が公開されている。

 フランス北東部のストラスブールに生まれたマルセルは、チャップリンに憧れ、父親の反対をよそにパントマイムに熱中していたが、ナチスに両親を殺されドイツ国境を渡ってきた孤児たちを保護する活動に加わる。生きる気力を失い座り込む子どもたちの前で、哀しそうな顔をするマルセル。だが、大きな手のひらが顔の前を通り過ぎると、魔法のように笑顔が現れる。シンプルで音のないマイムに子どもたちはひきこまれ、少しずつ気力を取り戻していく。

 ナチスの勢力拡大でフランス南部に避難。レジスタンスに身を投じるが、肉親を殺され、ナチスへの復讐に固執する仲間に、「ナチスを一人殺すより、一人でも多くの子どもを救いたい」と、子どもたちを連れてスイスへ逃避行。言葉も音もないマイムを、出自を語ることが死を意味したユダヤ人の言葉にならない苦痛が支えているように見え、映画「独裁者」などで有名なチャップリンとマルセルが重なって見える瞬間がある。

 マルセルの父親はアウシュビッツで亡くなっている。作品に登場する「リヨンの虐殺者」と呼ばれた親衛隊員、クラウス・バルビーは、レジスタンス弾圧の任務で多くのユダヤ人を殺害しているが、戦後、その経験と情報収集能力を買ったアメリカ、ボリビア、イタリアなど各国で偽名を使い、実業家として成功。フランスに「罪人」として引き渡されたのはなんと1983年だ。

 コロナ禍で一席空けではあるが、一時期よりは人が戻っている劇場。それでも他の作品と異なり、圧倒的に年配者が多いのは、第二次世界大戦を扱う映画の特徴かもしれない。戦争は現代の日本人の多くにとって遠い過去、歴史の一部だ。だが、ポピュリズムの台頭と時を同じくして新型ウイルスとの闘いを強いられ、人種や宗教、経済的格差による軋轢(あつれき)が顕在化する中で、相手を非難するのではなく、文字通り「黙して」未来のために尽力するマルセルから学べることは多い。

text by coco.g

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