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【コラム】音楽への渇望を解放する場所 映画『パリに見出されたピアニスト』

(C)Recifilms - TF1 Droits Audiovisuels - Everest Films - France 2 Cinema - Nexus Factory - Umedia 2018
(C)Recifilms – TF1 Droits Audiovisuels – Everest Films – France 2 Cinema – Nexus Factory – Umedia 2018

 好きなことに没頭している時、人は“解放”されている。その世界に酔いしれ、時間を忘れ、本来の自分の在りようが外界のすべてのしがらみから解き放たれる。「マチュー」がピアノを弾いている時がそうだ。だからこそ、行き交う人の中でその演奏に立ち止まる人がいた。フランス映画、「パリに見出されたピアニスト」が公開された。

 パリ郊外の荒れた地域で育ったマチューは、盗みを働き警察に捕まるのも二度目のちょっと“札付き”。だが、「ご自由にお弾き下さい」と鉄道の駅に置かれたピアノの前では、抑えきれない衝動に背中を押されて鍵盤に指を置く。小さい頃から学びたくても経済事情が許さなかったが、地元の仲間には口が裂けても言えない“ピアノ好き”。普段は自分の中に押し込めている音楽への渇望が、駅のピアノに乗り移る。ほとばしるようなその演奏に才能を見出した名門音楽院、コンセルヴァトワールのディレクターは、自らの進退をかけて彼のコンクール出場を決め、パリ市内の屋根裏部屋を貸して住まわせ、練習をスタートさせる。

 四角い低所得者用団地と、パリのオスマニアン建築のアパルトマン。彼の居場所の風景が、“郊外の貧しい若者に才能を見出す裕福なパリの師匠”という、フランス映画定番のシンメトリーを浮かびあがらせる。反抗的な若者をコンクール出場まで導いていく師弟関係の詳細は読者の観劇に任せるとして、魅かれるのは音楽の“在り場所”とマチューの姿だ。

 フード付きのパーカーを着たマチューが、ザックを足元に置いて弾き始める駅のアップライトピアノ。周囲の人ごみの間を縫うように流れるバッハ。そして師に見出され、音楽院の一室に置かれたグランドピアノを弾くマチューはまだ、窃盗の実刑の代わりに公益奉仕として音楽院の掃除をする身。だが、そのハンガリー狂詩曲は、入り口でその演奏を聴く音楽院の学生たちを驚かせる。そして自分のすべてをぶつけるようにラフマニノフを奏でるマチューは、師であるピエールのジャケットを借りて着ているものの、襟からはパーカーのフードがのぞいている。マチューの起用に反対したピエールの妻が言う、「バンリュー(郊外)の若者」を象徴するような服装だ。

 舞台での演奏にふさわしい姿で作品に登場するマチューの、奏でる音を観客は聴くことができない。混雑する駅の構内とは対照的な音楽ホールで、彼の指先が鍵盤の上をどんな風に走るのか。「指先で」(au bout des doigts)という原題の持つ響きが、ラストの印象を長く観客の胸に刻みつける。

Text by coco.g

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