生活情報のコラム

【コラム】テロのその後の物語 映画『アマンダと僕』

(C)2018 NORD-OUEST FILMS - ARTE FRANCE CINEMA
(C)2018 NORD-OUEST FILMS – ARTE FRANCE CINEMA

 テロで家族を奪われた哀しみ。あまりに衝撃的な出来事ゆえに、事件そのものに焦点が当てられがちだが、この作品では、テロは物語のきっかけにすぎない。哀しみから人が少しずつ立ち上がっていく過程を丁寧に追った“その後の物語”、『アマンダと僕』が公開された。

 暖かい日差しのもと過ぎていく、平和なパリ市民の生活。冒頭から映し出されるこの軽やかで明るい時間が長いのは、その後にやってくる衝撃の大きさをできる限り観客に感じ取ってもらうためかもしれない。ヴァンセーヌの森でピクニックをするシングルマザーの姉を迎えに行ったダヴィッドが目にしたのは、芝生に血まみれで倒れる人、人、人…。自らの悲しみから抜け出すことさえ難しい状況の中で、目の前にいるのは、残された7歳の姪アマンダだ。一転する物語は、愛する者を理不尽に突然奪われた者の言葉にならない衝撃と、模索することすらままならない再生の道に向かうまでの、人間の底力を静かに描き出す。

 作品の背後にはもちろん、2015年のパリ同時多発テロが横たわる。アマンダとダヴィッドが自分を何とか維持しようともがきながら一日一日をやり過ごし、時折、嗚咽(おえつ)を抑えきれず堰(せき)を切ったように泣く場面を見ながら思い出したのは、バタクラン劇場でのテロで妻を亡くし、1歳半の息子と残されたアントワン・レリス氏が、SNSに投稿した名宛人のない決意の“手紙”だ。

 「君たちに憎しみという贈り物は渡さない。…もちろん、ぼくは悲しみに打ちのめされている。君たちの小さな勝利を認めよう。でもそれは長くは続かない。…ぼくと息子は2人になったけれど、世界中の軍隊よりも強い。そしてこれ以上、君たちのために割く時間はない」

 そうやってレリス氏が小さな息子と二人、日常を取り戻そうと決意した姿がダヴィッドとアマンダに重なる。自転車に乗って市内を縦横無尽に行き来するダヴィッドの背景に、テロの前も後も変わらない美しいパリの街がある。多くの人の人生を変えた出来事の前後でほとんど変わらないその街の姿は、無情であると同時に、だからこそ哀しみに暮れる人々の支えでもあったのだと実感できる。

 本作は、第75回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門のマジック・ランタン賞、第31回東京国際映画祭では東京グランプリ・最優秀脚本賞を受賞している。


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