生活情報のコラム

静かな無垢の受難 実話を基にしたイタリア映画「幸福なラザロ」

(C)2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE
(C)2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF/ARTE

 善を善と認識しないほどの、無垢な存在が満たす幸せに浸る観客。だが劇場を出る時、反転した世界に追い出されてしまうような不安に駆られるかもしれない。そろそろ我々は、天に見放されてしまうのではなかろうか、と。心を満たした静寂という真水を、こぼさずそっと持ち帰りたくなるような作品だ。映画『幸福なラザロ』が公開された。

 イタリアでは1982年に小作制度が廃止されているが、この法改正を隠して農民たちを隔離し、搾取し続けた貴族の実話が物語のベースになっている。作品の中で描かれるラザロは、そんな侯爵夫人の農園で何も知らずに働く一人の青年だ。周囲が望む通りに働き、どんな言葉や仕打ちにも怒らず、彼の心はいつも凪いでいる。そして村の隠蔽は暴かれ、農民は解放されるがラザロは…。

 実際の事件に加えて作品の土台にあるのは、聖書の「ヨハネの福音書」に登場する“復活のラザロ”だ。オルガンの音に誘われ、通りかかった教会にラザロたちが入っていく場面がある。中にいる修道女は「今日は関係者だけだから」と彼らを追い出し、オルガン奏者に演奏を続けるよう促すが、どんなに鍵盤をたたいてもオルガンが鳴らない。心を鎮めて目を開けば見える光が、なかなか見えない現代の自分の“鏡像”が、作品のあちこちに見え隠れする。どんな過酷な環境の中でもおだやかな表情で過ごしてきたラザロが、追い出された教会の外で初めて流す涙の意味が、胸を締め付ける。

 観客が一瞬息をのむ音が聞こえるような結末。エンドロールの直前、車道を“逆走”する一匹の狼に、行かないで!と叫びたくなるのはなぜだろうか。

text by coco.g

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