生活情報のコラム

【こんな夜にはクラシックギター】 「ギター協奏曲」は、ギターとオーケストラをつなぐ“架け橋”

アランフェス宮殿
アランフェス宮殿

 クラシック音楽のジャンルの一つに、独奏楽器とオーケストラが競合したり協調しながら合奏する「協奏曲」(コンチェルト)という楽曲形態がある。独奏楽器のパートは高度な技巧と音楽性を発揮できるように書かれており、独奏者(ソリスト)とオーケストラ双方の演奏を一度に楽しめる、いわば“一粒で二度おいしい”楽曲である。

 独奏楽器としては、ピアノやヴァイオリンのための協奏曲に名曲・有名曲が多いが、他にもチェロ、フルート、クラリネット、サクソフォン等々、さまざまな楽器のための作品群があり、その中にはギターも含まれる。

 オーケストラ楽器ではないギターにとって、「ギター協奏曲」はオーケストラと絡むことが出来る数少ないチャンスでもあるが、その歴史は19世紀初頭にウィーンで活躍したギタリスト兼作曲家のマウロ・ジュリアーニ(1781~1829)、パリで活躍したフェルディナンド・カルッリ(1770~1841)やフランチェスコ・モリーノ(1768~1847)らの作品に遡る。中でも同時代のベートーヴェンとも親交があった(彼の第7交響曲初演にチェロ奏者として参加した記録がある)ジュリアーニは3曲のギター協奏曲を残しており、特に第1番(作品30)は有名である。

 そしてその後の100年以上に渡る空白期を経て、「ギター協奏曲」は20世紀半ばに2人の偉大なスペインのギタリスト(及び彼らに協力した3人の作曲家)によって“再興”されることになる。

レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ
レヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ

 まずその1人は、マドリッド王立音楽院ギター科教授で世界的なギタリストだったレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ(1896~1981)。すでに何曲かのギターソロ曲を献呈されていた作曲家ホアキン・ロドリーゴ(1901~1999)に、「ギター協奏曲」を作曲するように促し奏法上のアドバイスも与えた。ロドリーゴは病気のため3歳で失明していたが、マドリッド南方のスペイン王室の宮殿や庭園のある緑豊かな保養地であるアランフェスの印象や、ゴヤが描いた18世紀の宮廷の様子をモチーフに、3楽章からなる「アランフェス協奏曲」を1939年に完成させた。

 翌40年にデ・ラ・マーサを独奏者としてバルセロナで行われた初演は大成功を収め、以後この曲はあらゆるギター曲の中で最も有名な“名曲”としての地位を得るとともに、ロドリーゴを20世紀スペインを代表する作曲家へと押し上げるきっかけとなった。

 特に第2楽章(アダージョ)の美しく哀愁に満ちたメロディーは忘れ難く、後にマイルス・デイビス、MJQ、ジム・ホール、チック・コリア、渡辺香津美、川崎燎、ポール・モーリア(「恋のアランフェス」)などジャズ、ポピュラー系のアーティストにも取り上げられて広まっていく。

アンドレス・セゴビア
アンドレス・セゴビア

 そしてもう1人は、20世紀最高のギターの巨匠だったアンドレス・セゴビア(1893~1987)。彼はギターの音楽的地位をピアノやヴァイオリン並みに高めることを生涯の目的の一つとし、そのために重要な作曲家に質の高いギター曲を書いてもらうこと、そしてオーケストラとの共演によるギター協奏曲も不可欠だと考えており、その思いが結実したのが、マリオ・カステルヌォーボ=テデスコ(1895~1968/イタリア→アメリカ)の「ギター協奏曲第1番ニ長調作品99」(1940年初演)、マヌエル・ポンセ(1882~1948/メキシコ)の「南の協奏曲」(1941年初演)の2曲である。ともに知名度では「アランフェス協奏曲」に及ばないが味わいは劣らない佳曲である(いずれも初演者はセゴビア)。

 このように、同時期に当時の2大ギタリストだったデ・ラ・マーサとセゴビア、そして自らはギターを弾かない3人の作曲家による、古典期以降途絶えていた「ギターをオーケストラと協演させる」という新しいジャンルへのチャレンジによって、「ギター協奏曲」が100年以上の時を経て“再興”されたことは単なる偶然ではなく、目に見えない“時代の波”を感じさせる出来事であったといえるだろう。

 なお、アランフェス協奏曲の成立にセゴビアが絡まなかったのは、セゴビアは1936年に始まったスペイン内戦を避けるべく南米に渡っており、ロドリーゴが作曲を手掛けていた時期にはスペインに不在だったこともある(帰国は1952年)。しかしプライドの高いセゴビアは、ライバルたるデ・ラ・マーサ絡みで完成した「アランフェス協奏曲」を評価せず、ついに演奏することはなかった。さりとてロドリーゴとは不仲だったわけではないので、自分のための新たなギター協奏曲を所望して「ある貴紳のための幻想曲」を献呈された(1954年)。この曲は美しいが、ロドリーゴのオリジナルではなく17世紀スペインの宮廷音楽家ガスパール・サンスの楽曲をテーマに書かれており、正直なところセゴビアにとってはいささか物足りない内容だったようだ。

 またロドリーゴはその後も4つのギターのための「アンダルシア協奏曲」、2つのギターのための「マドリガル協奏曲」、「宴の協奏曲」などのギター協奏曲を書いているが、率直に言って、いずれもがとても「アランフェス協奏曲」のあの美しいメロディを書いた作曲家の手になる作品とは思えない凡作(失礼!)ばかりなのは、どうしたことだろうか。

 さて「アランフェス協奏曲」のCD(LP含む)は、セゴビアを除く世界中の名手たちが録音しているため、筆者の手元にあるだけでも50枚を超えるが、廃盤になったものや未入手のものなども含めればその数はもっと多く、ポピュラーに編曲されたものを含めればさらに上積みされよう。

 また「アランフェス協奏曲」は実演の機会も増えてきており、例えばNHK交響楽団は昨年10月にはアレキサンドル・ヴェデルニコフ指揮で朴葵姫(パクキュヒ=アイドルばりのルックスと実力を兼ね備え人気急上昇中)と、今年1月にはファンフォ・メナ指揮でカニサレス(サイモン・ラトル指揮ベルリンフィルとも共演したトップ・フラメンコ・ギタリスト)と共演している。

 4月も14日(金)と15日(土)に、鈴木大介(作曲家・武満徹に「今まで聴いたことがないようなギタリスト」と評された俊英)と新日本フィルハーモニー交響楽団(ペドロ・アルフテル指揮)が共演するので、ぜひお聴きいただきたい!(両日ともすみだトリフォニーホールで14時開演。問い合わせは03-5610-3815)

 ギター協奏曲といえば「アランフェス協奏曲」の人気と名声が突出しているが、今日では武満徹、林光、野田暉行、吉松隆、藤家渓子ら日本人作曲家による作品群も含めて100曲以上がラインアップされている。

 ギター(ファン)とクラシック音楽(ファン)を繋ぐ、いわば“架け橋“として、興味を持っていただければ幸いである。

宮林淳

Jun Miyabayashi

1956年東京生まれ。1978年上智大学卒業後、現在に至るまで音楽とは無関係のメーカー勤務の傍らコンサート通いを続け、1980年代からクラシックギター専門誌「現代ギター」に記事を執筆の他、ギター関連のCDのライナーノートやコンサートのプログラム解説なども手掛ける。 “日本一ギターのコンサートを聴いている男”を標榜してギターと音楽をこよなく愛し、2014年秋には、スペインのリナレスで開催された「第21回アンドレス・セゴビア国際ギターコンクール」のゲスト審査員も務めた。カーマニア、プロレスマニアでもある。


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