デジタル庁に見る改革の難しさ。ハードルはどこにある?

 

 皆さんこんにちは。本日はデジタル庁の話から。

 デジタル庁をめぐる報道が止まりせんね。

 4月にデジタル監の石倉洋子氏が体調問題により退任、5月にはデジタル庁自ら庁内の職場環境把握のため実施した内部アンケート結果には「激務」「風通しが悪い」など不満が多数、立て続けのメール誤送信で個人情報が漏えいするなど、デジタル庁の改革の動きに対して逆風とも取れる報道が相次いでいます。

 5月末の衆議院予算委員会の中で「デジタル庁の実績が見えない」と批判を浴びたというニュースが掲載されていましたが、これに対する国民の声はさまざまです。

 「ロクに議論せず、国民の声も聞かない、デジタル庁は廃止せよ!」「デジ庁はロードマップ敷いてやっているのに、そこには一切反応せずに批判を繰り返すだけじゃ建設的じゃないよね」「1年でわかりやすい実績出せるならそもそも新庁なんかいらないでしょ」などなど。(Yahoo!ニュースのコメントより抜粋)

 これをお読みの皆さんはデジタル庁の現状をどう感じますか?

 これだけ報道が多く、批判も応援も含めコメントも多いということは全国民の注目度が高い証拠でしょう。
コロナ禍で浮き彫りになった「紙ハンコ問題」、人による目視や常駐を義務付けたいわゆる「アナログ規制問題」など、「どこかおかしいな」と思いつつこれらを長年放置してきたことが積もり積もって今に至るわけですね。これを変えていくことはまさに「大改革」と言えますし、当然時間もかかり痛みも伴うでしょう。

 さて、このデジタル分野の改革に取り組まなければならないのは国だけではなく企業も同様です。
特に国と同じような課題を抱えているのが大企業でしょう。

 デジタル庁に関する報道を人ごとと思って高みの見物をしているあなたの会社は大丈夫ですか。
実は同じ状況に陥っていないでしょうか。

 

国にも大企業にも共通する「デジタル改革のハードル」

 

 デジタル庁に副業で参加されている民間のコンサル会社の方の声を聞いたことがありますが、「想像をこえる紙文化で驚いた」そうです。一応システム的なものが存在したとしても、実際にほとんどの工程ではわざわざ印刷して運用しているそうで、もうこれは「文化」とか「伝統」の域だとおっしゃっていました。なかなかの根深さですね。

 デジタル庁が推進している改革に対するハードルには、その他にどんなものがあるのでしょう。
大企業のDX推進をお手伝いするドリーム・アーツの視点から思いつくことを挙げてみます。
・縦割り組織、部分最適で非効率
・抵抗勢力の存在
・変わらない価値観(根強い紙文化)
・デジタル・リテラシーの低さ
・発注丸投げ体質から抜けきれない(デジタル・リテラシーとも関連)
・失敗を許さない風土

 このさまざまなハードルは、そっくりそのまま大企業にも当てはまることではないでしょうか。
私たちのお客さまの中には、デジタル改革を推進されている方も多くいらっしゃいますが、実はこのような壁にぶつかり断念されてしまうケースもあります。

 しかし壁を一つ一つクリアしながら地道に前進している大企業さんもいらっしゃいます。
今日はそんなデジタル改革真っ最中の事例をご紹介しようと思います。

 

ケース1:新しいチャレンジへの刺客「抵抗勢力」

 

 最初の事例は交通インフラを支えるA社。「人の命」を預かる事業ということもあり、新しい取り組みへのハードルは高い企業です。とはいえ、このご時世ですから紙業務からは脱却しなければということで、経営企画部を中心にデジタル改革を開始しました。

 しかし、程なくして最初のハードルが出現したのです。

 手始めに業務のデジタル化をお願いした人事・総務部の方々が「今までのやり方で困っていないのに、なぜ変えなきゃいけないのだ」と、抵抗勢力になったのです。

 現場の社員は日常業務を抱えています。現状のプロセスに影響を与えるような変革は「マイナス要素」として認識され、抵抗に結びついてしまうのでしょう。

 そこで、経営企画はこの抵抗勢力との交渉はいったん横においておき、「人事・総務は今のやり方では困っていないと言ってはいたが、今のこの状態を本気で変えたいと思っている人はどこかにいるはずだ」と、他部署でデジタル改革に賛同してくれる人を探し始めました。

 幸い、社内のチャットスペースにて他部署含めての悩み相談の場があり、そこで紙業務に課題を抱えている人を探して、2カ所の事業所の社員へ声をかけたのでした。

 話し合った結果、自分達の課題解決につながるなら、と快諾をもらい現在はそのメンバーを中心に改革を進められています。

 もちろん「抵抗勢力を説得する」というシナリオもありますが、今回は同じ志を持つ仲間を探すことに切り替えました。実はそれには理由がありました。

 今回の抵抗勢力出現の際、発起人の経営企画の方々は少し反省したそうです。

 最初の人事・総務の方々への呼びかけ方は、(トップダウンプロジェクトで、当然やってもらえるものと思っていたこともあり)、目的や、未来のあるべき姿をきちんと説明しなかったことが大きな原因だったのではないかと思ったのだそうです。

 その反省もあり、他部署へ声をかける時には、「なぜ変えなければならないのか」という意義や真の目的、「その改革が成功した先にあるワクワクするような未来の姿」をイメージさせるように意識してコミュニケーションしたのだそうです。

 もしこの辺りを人事・総務にしっかりと説明して、お互い議論もできる場も用意すれば少し違ったのかもしれないとおっしゃっていました。この後、いったん抵抗勢力になってしまった人事・総務も再度巻き込む必要が出てくるので、その際はアプローチの仕方を変えて臨まれることでしょう。

 

ケース2:失敗から学べるか?

 

 次の事例は金融関連のB社。

 こちらはIT部門の方々がデジタル改革を推進中。非IT部門が自らデジタル化を進めていく「デジタルの民主化(※1)」に共感され、そこを目指そうとしていますが、かつて「デジタルの民主化」に近い考え方であるEUC(End User Computing ※2)で失敗しており、それを繰り返したくないという気持ちからこの再チャレンジに反対する人が出てきました。今回の抵抗勢力、実はそのIT部門の上司です。

※1:デジタルの民主化:現場部⾨(⾮ IT 部⾨)が⾃らデジタルを活⽤し、全社のデジタル化を加速させること
https://www.dreamarts.co.jp/democratization/
※2:EUC:End User Computing。情報システムを利用して現場で業務を行う従業員や部門(エンドユーザー、ユーザー部門)が、自らシステムやソフトウエアの開発・構築や運用・管理に携わること

 少し前述のEUCについて補足しておきましょう。もう数十年前のことですが現場の非IT部門がシステムのソフトウエア開発や運用に関わるEUCという流れがありました。Excelのマクロなどを思い浮かべていただくとわかるかもしれません。そのEUCにて非IT部門が積極的にシステムを作った結果、アプリケーション乱立、個別最適、ブラックボックスでメンテナンス不可能、などさまざまな問題が浮き彫りになり、IT業界では「EUCの悪夢」として語り継がれることがあります。今回反対している上司も、かつて開発権限を非IT部門に渡したところ、統制が効かなくなり無法地帯になった苦い経験をされていました。

 

 私たちドリーム・アーツが提唱している「デジタルの民主化」は、同じく非IT部門が自分たちの業務を自らデジタル化することだと定義していますが、当時と比べ今はテクノロジーが進化しており、ノーコード(プログラミング不要)で直感的に簡単にシステムが作れるような時代です。ガバナンスを効かすための機能や運用ノウハウも日々進化しており、単純に当時の状況と比べられるものではありません。

 しかし、上司の方は、数十年前の悪夢を現場で体感していたこともあるため、なかなか新しいテクノロジーや世の中の流れを見ようとせず、過去の失敗におびえているようにも感じました。

 IT部門の方々は上司を説得する方法を考えようとしましたが、その前にこの「デジタルの民主化」の流れに賛同してくれる非IT部門がいるのかいないかを把握しておきたいなと思ったところ、動きがありました。

 今回の取り組み(ITツールの導入)に関しては、事前に社内報で全社へアナウンスをしていたのですが、それを見た非IT部門から問い合わせが殺到したのだそうです。

 IT部門からのアナウンス内容は「このITツールを導入して社内のデジタル化を進める」とだけ記載しており、「デジタルの民主化」のことは記載していませんでした。にもかかわらず、非IT部門の方々は自らツールの内容を調べ、「こういうことができるのなら自分たちもやってみたい。運用や統制にも協力するから」と言ってくれたそうです。これを聞いて私は驚きましたが、時代は変わるものですね。

 「今やノーコードツールを用いて自分たちで業務を変えていくという時代だし、今やらなかったらずっと紙は残り続ける、そんなのやってられない」と現場の方々はおっしゃっていたそうです。

 予想外に本気のメンバーが集まり、これはやるしかないとIT部門の皆さんも決心し、上司を説得し始めています。まだ上司の説得はうまく行くかはわかりませんが、私たちも伴走している最中です。

 失敗経験のある抵抗勢力への説得には時間がかかるかもしれませんが、当時経験された方がいるということは、失敗の分析ができるということもあり、逆に大きな強みになると感じました。

 失敗の原因を正しく理解し、原因を追求し、全体像を捉え、失敗にしっかりと向き合うことで次の失敗確率をかなり下げることができるのではないでしょうか。

 上司の方がしっかり過去の失敗に向き合い、未来に生かせてもらえることを期待します。

 

改革プロセスに当てはめてみる

 

 A社は新しいことへのチャレンジ、B社は過去の失敗からのリベンジ。それぞれ状況は違いますが、改革には必ずハードルが出現します。今回は「抵抗勢力」というハードルに限定してお話をしましたが、この後にも冒頭に挙げたようなたくさんのハードルが出てくることでしょう。

 ジョン・コッターの「リーダーが変革を成功させるための8段階プロセス」をご存じでしょうか。
コッターは大規模な変革が進まないのは、八つの「つまずきの石」が原因であると言いました。
そして、これらのつまずきの石を乗り越え、大規模な変革を推進するために、8段階のプロセスが有効であると主張しました。

出典:”The New Rules:How to Succeed in Tosay’s Post-Corporate World”J.P.Kotter 著 Free Press 刊 (1995)より作成

 A社とB社の事例は、抵抗勢力が出現した⑤「障害を取り除き行動を促す」の状態にありますが、A社もB社も③「変革のビジョンと戦略を立てる」をしっかり言語化しない状態で進んでしまい、結局⑤にぶち当たったのではないでしょうか。

 A社は反省して③を言語化し、④の兆しも見え、この後⑤をクリアする状態は見えてきそうです。

 B社はたまたま周りの人が先進的だったので、このまま④にスムーズに進みそうですが、しっかり③を言語化しないと、上司の壁はなかなか厚そうです。

 さまざまな事例を見ていると、実は⑤で止まってしまうお客さまが多いのが現実です。

 障害を取り除く前に焦って⑥「小さい変革を成功させる」の実績を作ろうとしてしまうことが多いように感じます。「まずは小さな成功を」とはよくいわれるのですが、その前にある階段を焦って飛ばしてしまうのは、後戻りができない状況になり得るのだなと思います。

 A社もB社もまだ改革の途中。焦らず一つ一つハードルを越えていってほしいと願います。

※補足:ちなみにコッターの8段階プロセスは、変化のスピードが激しい今の時代に合わせた形で2014年にアップデートされていますが、いったんここではアップデート前の1996年時点のモデルを元に記載しています。伝統的な階層組織の中で機能するのはこちらだと考えたからですが、従来のヒエラルキーにとらわれずに動ける大企業であれば、新しいモデルの方がマッチするかもしれません。ちなみにアップデートされたものは「デュアル・システム」といい、「階層型組織や管理プロセスをベースにした従来のオペレーティングシステム」と「迅速かつ柔軟に対応できるネットワーク型のグループで構成された新しいオペレーティングシステム」が協調して動くというものです。とは言え、アップデート版もオリジナルモデルがベースになっており、オリジナルは現代においても変革を推進するリーダーにたくさんの洞察を与えてくれるのではないかと思います。

 

改革は1日にしてならず

 

 冒頭で出したデジタル庁の話に戻ってみましょう。

 困難にぶち当たっているデジタル庁も手をこまねいているわけではなさそうです。縦割り打破をもくろみ首相トップで臨時行政調査会(通称:臨調)を設置したり、積極的に民間からデジタル人材を増員したり、人不足や低いデジタル・リテラシーの底上げに関しては積極的にSaaS(Software as a Service)を採用し、ノーコードで非IT人材が業務をデジタル化できるように進めているなど、改革は進んでいるようです。が、おそらく大きな抵抗勢力があちこちに出現していることでしょう。

 今デジタル庁には使命感を持って外部からジョインしている方々がいらっしゃいます。この方々が元々の古い文化に染まってしまう前にまたは諦めてしまう前に、一つ一つのハードルを越えて、じわじわとポジティブな変革の色へ染めていってほしいものです。コッターの⑥「小さな成功」の兆しが見えてきたら、潮目は変わるかもしれません。しばらくデジタル庁の動きに注目してみましょう。

 私たちのお客さまも日々DXや「デジタルの民主化」の実現において改革を進めている最中です。
今回はデジタル庁になぞらえて、まだ成功していない奮闘中の事例を挙げてみましたが、これらの改革もおそらく数年の時間はかかるでしょう。

 改革というと派手に聞こえますが、実際は本当に地道なものです。

 そして、改革は1度だけすればいいものではない。コッターの最終段階は⑧「変化を定着させる」ですが、これは文化が変わる、ということとイコールではないでしょうか。これこそが真の「トランスフォーメーション」だと思います。

 この連載をお読みの方の中でも、改革を推進する中で大きな壁に立ち向かっているリーダーの方がいるでしょう。改革は1日にしてならず。地道に一つ一つの壁を乗り越えていきましょう。

 そして、デジタル庁の今後にも期待しましょう!

 

【この記事の執筆者】
金井 優子(かない ゆうこ)
株式会社ドリーム・アーツ 社長室 コーポレートマーケティンググループ ゼネラルマネージャー
大手SIer出身。データ分析・活用をきっかけにシステムエンジニアからマーケティングに職種をチェンジ。現在はコーポレートマーケティング業務で自社のブランディング確立に奮闘中。
企業サイト: https://www.dreamarts.co.jp/

【前回の記事】
第1回 「デジタルの民主化」の世界へようこそ! 家族のコロナ騒動で気づいたデジタルのすごさ
https://b.kyodo.co.jp/business/2022-04-01_7699390/

第2回 「デジタルの民主化」の世界へようこそ! 大企業の“ヤバい”ITベンダー依存問題、依存と自律の狭間で揺れる心理とは
https://b.kyodo.co.jp/business/2022-06-09_7746784/

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