今秋の党大会に向け権力闘争激化か 習近平指導部の内憂外患

 

【筆者】

中国ウオッチャー 龍評(りゅう・ひょう)

 

 中国はコロナ禍に悩まされて、出口が見えない。経済の失速は目に見える形となった。市民生活にまで影響を及ぼし、大国の自信を失いかねない。外交面で米国に責められ、ますます孤立している。

唯一の友人であるロシアのプーチン大統領に望みをかけたが、ウクライナ情勢の長期化で行く末はぼやけている。これは今の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席が臨んだ中国の局面だ。

その上、今年の秋に開かれる第20回党大会にむけて権力闘争が激しい。最近になって、民間から習氏へ反対する動きが加速しただけではなく、指導部からも異なった声も報道を通して見られるようになった。習氏が治める中国はいま岐路に立たされ、中国最高指導部の権力図にも影響を与えている。

 4月29日、中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)副報道局長が珍しく笑顔で米国との〝友情〟を次のように紹介した。

 「中米両国人民は一向に友好の感情を持ち合わせています。(中略)ご臨席の記者たちは時代の潮流と民心に従い、正能量(ポジティブの思考)を持って中米両国人民の相互理解と信頼の橋とする役割を発揮して、米中関係にプラスになることを大いにしていただきたいと存じます」

 周知の通り、趙氏はツイッターで「米国がコロナを武漢にもたらした」と公言し、米国に抗議された。以来、彼は米国を敵視する言葉を連発し、それで重用され、「戦狼(せんろう)外交」の筆頭人物になった。記者会見で米国のことになるといつも不機嫌な表情になって外交官離れの言葉で罵倒するので、「趙戦狼」というあだ名までつけられた。このような筋金入りの反米人物である趙氏が、突然笑顔で中米友好を語ると世間を騒然とさせた。

 同じ日に中国駐アメリカ大使の秦剛(しん・ごう)氏が米国のマスコミ「Des Moines Register」に記事を掲載し、米中の農業分野での協力を持ち上げて「米中関係の希望が大いにあり」と記した。

 これまでの言動と違って、同じ日に中国対米関係の重要人物2人が豹変(ひょうへん)し、米国にやさしく言葉をかけたことは内外の中国人を戸惑わせた。もしかしてこれは中国政府の対米政策が変調したことを意味するのではないか?と。

 

▽新しい方針 

 

中国にいる政府筋の筆者の知人は「4月29日に中国政府は政治局会議を行った。会議で習近平の激進政策は批判され、コロナ、対米外交、ウクライナ情勢について新しい方針が決められた。中国経済は大幅に低迷し、米国からの圧力も大きかったからだ」と教えてくれた。

 確かに、国営通信の新華社は4月29日に中共中央政治局会議が行われたと報道。会議はゼロコロナではなく「現在の経済情勢などを分析し、人材発展計画を審議した」と。「コロナは防ぐ、経済は安定させる、安全に発展する」と強調し、コロナが経済発展に対する影響を最小限にすると会議は求めた。会議に関する報道はかなり長いが、報道の約3分の2が経済発展を確保することに重点を置いた。

こうして経済の安定を強調することはかえって危機が存在し、情勢が緊迫することを意味するだろう。1カ月を超えた上海のロックダウンが経済に与えたダメージは計りしれない。すでに約277億元の損失が生じたと中国の社交SNSで議論されている。5月11日、上海市が655億元の市債を発行し、債務に当てることにしたほどだ。なによりこれは上海だけではなくほぼ全国の各都市に経験されたのであった。

 経済の圧力が大きいだけではなく、アメリカから緩みのない圧力も無視できない。4月22日に中国中央銀行が主催した緊急会議が開かれた。中国の主要銀行幹部のほかに外国の銀行幹部も参加させた。議題は「如何にして中国の海外資産を保護し、アメリカがロシアを制裁した影響をさけるか」とシンガポールの「聯合早報」が報道した。

イギリスの「ファイナンシャルタイムズ」はさらに踏み込んで「中国は3万2千億ドルの外貨資産を保有し、如何にして中国の海外資産をまもれるかと中国証監会主席易会満が提案を求めた」と。ロシアがウクライナを侵略したあとアメリカが発動した制裁が留意しているも中国側の幹部が言及し、中国側の外貨資産を日本円とユーロに変える説も浮上したが否定された。アメリカに隠された政府要人を含めて中国の金持ちたちの危機感は露わにされた。

 中国政治局会議が行われた直前の4月26日に、アメリカ衆議院が習近平氏の名を冠した方案が通過した。それは「Assessing Xi’s Interference and Subversion Act」である。この法案は中国がロシアに対する援助をとがめる目的だ。中国指導部や中国の大手企業に与える影響ははかりしれない。

そのほぼ同じタイミングでアメリカの国務長官ブリンケン氏が中国に関する重要談話が行うと公表されたが、コロナ感染によって延期された。アメリカ上場企業監視委員会も中国企業に赤信号を出した。中国の米上場企業は追い出された危機にさらされた。一連のことは中国の動きと合わせてみると中米政府が常に情報を交換して連動するようにみえるであろう。ブリンケン氏の対中談話の延期も偶然と言い難い。

 

▽変化した対米態度

 

 以上のような内外の一連の圧力は、まず中国政府のロシアに対する報道の調子を変えた。

 ウクライナがロシアに侵略されてから、中国外交部のスポークスマンからマスコミまで頑としてロシアが侵略したと認めなかった。

しかし、4月30日になって、新華社が初めてウクライナの外務大臣ドミトロ・クレーバ氏のインタビューを掲載し、ロシアがウクライナを侵略したと数回言及した。その後の5月3日、新華社がスペイン「国家報」に掲載されていた、ウクライナのゼレンスキー大統領のインタビュー記事を転載した。一連の報道はあまりに以前と違ったので、中国人の親ロシア派やプーチン大統領のファンたちが戸惑うばかり。記事の書き込み欄に「ゼレンスキーは悪い人ではないのか? なぜ彼のインタビューを」や「立場を変えた?」などが続出した。中国政府のウクライナ情勢に対する方針の変化がいかに激しいかがうかがえた。

 また、前述したように中国政府の対米態度も変えさせたようだ。長い間、米国批判ばかりの共産党機関紙、人民日報系の「環球時報」などの政府系マスコミからの米国の批判は少しずつ減少し、ほぼゼロだった日本批判の記事が増え始めた。

「環球時報」は1日数回の携帯ニュースAPPを発信している。なんと5月1日から9日まで全部で16本の日本ニュースが配信された。「日本は北大西洋条約機構(NATO)のアジア化の裏切り案内人になってはならない」や「日本の最大危機」のようなタイトルばかり。日中関係において要注意の動向だ。

 

▽激しさ増す権力闘争

 

 あと数カ月で習氏の進退に関わる第20回党大会が開かれる。それに向かって権力闘争も激しさを増した。4月28日午後8時10分に、中国天津日報(電子版)は天津市市長の廖国勳氏が病死したと公表した。まだ59歳で病気だという情報もなかった。4月25日に彼は市の汚染防止会議を主催したので、突然の悲報でさまざまな臆測を引き起こした。天津市政府が公表した死因は突発な病気で応急手当をしたが救えなかったと言った。

しかし、その2時間前の午後6時29分にも、香港のマスコミ「明鏡追撃」のキャスター岳戈氏が廖氏の死を自分のツイッターで公表した。死因は病気ではなく自殺であった。

 廖氏は習近平派だと知られており、今年の秋に行われる第20回党大会でさらなる昇進がささやかれていた。だから彼の急な死についても、注目度は並ではない。流れて来た内部情報によると彼は、27日の午前中に中央紀律委員会に事情聴取され、午後2時ごろに自分のオフィスで首をつり、夜10時過ぎに発見されたという。

 起因は医薬会社「天津康希諾(CanSino Biologics Inc)」と天津九安医療から大きな利益供与を受けたようだ、と通報され、中央紀律検査委員会が調査に乗り出したとのことであったという。

これも習氏の反対勢力の攻撃だとうわさされた。そのうわさに合わせるかのように、中国語社交マスコミで習氏の地位が危ないとの情報が多く出てきた。「ゼロコロナ政策や個人崇拝などが批判された」とか、「彼の過ちはとがめないことを条件に、第20回党大会で李克強(り・こくきょう)氏が中国共産党総書記になると約束させられた」など、本当のことのように語れられた。

 さすがに中国政府は無視できなくなり、急いでうわさを否定するかのように政治局常務委員会義を開いた。この政治局常務委員会議は原則週に1度行うと決まっているが、新華社や中国政府網で調べてみると、4月に常務委員会の会議が行われたという報道は一つもなかった。5月5日の会議は急きょ報道させたという可能性は排除できない。

 5月5日の政治局常務委員会は前の政治局会議の方針と逆になって、「ゼロコロナ総方針を断固と動揺せずにして、わが国の防疫方針を歪曲、疑い、否定するあらゆる言動と闘争する」ことを強調した。新華社の報道文言からみると習氏の地位は安泰のままだ。

 

写真はイメージ

▽ゼロコロナ政策

 

 しかし、絶対的とは言い難い。知り合いの政治専門家が「闘争」というキーワードに注目した。それは中国指導部内部にゼロコロナに対して反対意見があることを示したと分析した。

上海が習氏の指示に従い無理やり、ロックダウンの措置をとったが、北京はまだ実施されていなかった。報道でゼロコロナ方針は一応肯定された形になったが、実際に北京では行われていない。

 最近になって、習近平派の幹部が汚職で告発されたり、元湖北省書記の応勇(おう・ゆう)氏のように“窓際族”にさせられたりして、彼が目指した左路線への逆風は大きくなったようだ。

5月10日に、オーストラリア秘密情報局(ASIS)局長Paul Symonが中国の官員たちの中に、われわれとの関係に興味を示す人々が多くいる兆しがあると公言した。これはオーストラリアに中国の秘密情報の提供者が増えたことを意味すると「フランス国際ラジオ」中国語版が評した。だから最近、「反習派」の諸説はほぼ海外から出てきたわけも説明がつくと考える。

 長い間、マスコミから消えていた電子商取引(EC)最大手アリババグループの創業者、馬雲(ば・うん)氏が再び話題になった。日本のマスコミも報道したように「馬氏」は国家安全に危害を与えた疑いで逮捕されたもようだ。それでアリババの株価が大きく下がってわずか数分でおよそ3兆3600円の損失が出た。これも実に妙なできごとで、前後のできごとをみると政治闘争が見え隠れてしている。

 前述した4月29日に、中央政治局会議が行われて経済発展を確保すると決めた。同じ日に香港の「南華早報」が次のような報道をして話題となった。「中国政府は大手ITなどの企業に対する厳しい監督を止めて、企業が中国経済にさらなる大きな役割を発揮することを求めた」と。

 やっと中国政府はゼロコロナより経済を重視するように転換したと喜んだ矢先に、5月3日に中国中央テレビ(CCTV)は杭州市国家安全局が「馬某(馬氏)」を逮捕したと公表。杭州にはアリババの本社があるので、「馬」という名前から連想すると、中国人であれば脳裏にまず馬雲氏を思い出すであろう。市場は早く反応した。アリババをはじめ、小米集団(Xiaomi Corporation)、BaiduなどIT企業の株価は下がる一方であった。

 そして「環球時報」の元編集長の胡錫進(こ・しゃくしん)氏がすぐ自分の「微博(ウェイボ)」(短文投稿サイト)で公安部門に確認し、馬氏は馬雲ではなく、名前は漢字三つの馬氏であったと訂正した。

中国政府系マスコミもそれに従うように「馬某某(馬氏氏)」で報道を改めたが、もう遅かった。やっと5月10日、香港の「鳳凰網」が馬雲氏はアリババの社員と歓談したと報道した。アリババの「親友日」というイベントに出席したと説明すると同時に、個人SNSから出てきた彼に関するうわさも否定した。

 2020年にアリペイが米国上場を阻止されて以来、渦の中心にある馬氏はずっと沈黙したままだ。だから中央テレビの逮捕報道は「敲山震虎(山を揺すって虎を脅す)」と見る中国人は少なくない。シンガポールの「聯合早報」も「CCTVの報道は馬雲をはじめとする中国の民営企業家たちに発した警告だ」と分析した。これは明らかに4月29日の中央政治局会議の趣旨と相反するメッセージだ。中国の企業家たちにアメとムチで管理する兆しなのか? それでもゼロコロナを堅持して政治レガシーにしたい習近平派の反撃なのか? 真相は闇のままだ。

 近頃の中国では、外交やコロナ政策および経済など、あらゆる分野で右往左往することが頻繁に生じるようになった。イデオロギーを武器に中国共産党の赤い政権を守ることを優先する習近平派と、経済をよくして国際社会と融和路線を唱える李克強首相との争いの表れであろう。海外のマスコミも注目して習氏の権力図の変容を頻繁に取りあげるようになった。「ウォールストリートジャーナル」が5月11日に次のような報道をしたことは意味深であった。

 「中国共産党内部で習近平の政策に対する不満が大きくなった。(中略)最近、中共中央党校のアンケートで習近平がイデオロギーを経済発展より重視することに対する心配の声が多かった」とし、李氏がすでに習氏の影から脱出したと強調した。

 海外からも習近平氏に吹く逆風が大きくなったと見ているようだ。

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