【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】医療現場でのコミュニケーション~現役がん患者・緩和ケア医の独り言

2022年3月25日=1,083
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


コミュニケーションとは何か。今さらわたくしが述べるまでもない。みなさんが日々実践しておられることやから。あえて辞書をひもとくならば、『社会生活を営む人間の間で行う知覚・感情・思考の伝達』(広辞苑第7版、2018)となる。かえって分かりにくくなったかな。簡単に言えば、対話なのに。

ナガシマリゾートにあるコースターと大観覧車=1月30日、三重県桑名市(筆者撮影)

ナガシマリゾートにあるコースターと大観覧車=1月30日、三重県桑名市(筆者撮影)

▽情報のやり取り

医療現場でのコミュニケーションには2種類あるそうだ。2008~18年まで10年かけて対人援助スピリチュアルケア研修で学んだ。がん発病前のことだ。

一つは「情報をやりとりするコミュニケーション」である。たとえば病院受診時、医者と患者の間では、
「今日はどうしましたか?」
「おなかが痛いんです」
このあと、どのように痛む、いつから痛むのか、などと矢継ぎ早に質問が飛ぶ。これは医療現場では通常、問診と呼ばれる。

また診断の結果や治療方針などが医者から患者に伝えられる場面では、「検査の結果、“がん”が見つかりました。周りに広がっているので手術はできず、抗がん剤治療となります」と説明される。

そして治療が予定通り行えた場合、あるいは治療しないことを選んだ場合に分けてそれぞれに、例えば○年生存率○%などと詳細に説明される。

もちろんこれらのコミュニケーションは診断と治療において必須だ。特に問診に至っては、かなり個人情報に踏み込んだものでも、患者は包み隠さず医者に開示する。患者がそうする理由はただ一つ。不調の原因を探り当てて、病を治してほしいからである。

しかし残念ながらこのやりとりで、「先生、オレの話を聞いてくれてホントにありがとう」などと、医者に感謝したくなる患者は恐らく皆無と言えよう。なぜなら問題を解決するために聞かれているだけだからだ。これを「問題解決志向型コミュニケーション」とする。これでは患者が満足できるものからはほど遠い。

▽傾聴

もう一つは問診のような情報のやりとりをするのではなく、コミュニケーションすること自体で、相手である患者が満足するためのものである。「傾聴(けいちょう)」と医療現場では呼ばれる。傾聴とは文字通り、「聴くこと」である。

この場合、医療従事者は何を聴けばよいのか。原理はとりわけシンプルだ。相手が満足するためのコミュニケーションなのだから、相手の言い分を聴けばよい。苦しむ患者が相手ならば気がかりを。うれしいことを話したい相手ならば、それを聴けばいい。ただそれだけのことなのに、なかなか難しい。

実際に、己の話を聴いてもらえたと実感できている患者は意外と少ない。がん仲間と接する中で、そんな声をよく耳にする。なんでなん。やっぱり医療従事者からすると、患者の話を聞いたときに、診断と治療のような問題解決型の側面を優先してしまうからかな。

でも、がんの治療がたとえ不可能になったとしても、生きることはできるし、生きたいと思うことも極めて自然だ。その場合、医療従事者は解決するべき問題もない。しかし「傾聴」は、そんなときこそ必要になる。

長良川から伊勢湾岸自動車道そして鈴鹿山脈を望む=2月1日、三重県桑名市(筆者撮影)

長良川から伊勢湾岸自動車道そして鈴鹿山脈を望む=2月1日、三重県桑名市(筆者撮影)

▽「共感」は患者のため

ひょっとするとがんの場合に限らず、いや医療現場のみならず福祉さらには教育現場などでも、「私の話を聞いてくれてホントにありがとう」は少ないのかもしれない。

「聴いてもらえた」は「分かってもらえた」につながる。これが「共感」である。つまり医者が共感することは必ずしも必要ではなく、患者が「分かってもらえた」と実感できることが「共感」のカギとなる。

もしみなさんの中に医療従事者がおられましたならば、ここで質問。
「傾聴するのは、誰のために?」
多くはこう答えるだろう。患者のために、患者が満足するためにと。

その通りです。でもその先には・・・そうなんよ。己に返って来るんよ。
傾聴は人のためならず。患者が、相手が「ホントにありがとう」と満足してくれたら、こちら医療従事者も、満足しますよね。絶対に。
最後に、一(いち)がん患者からのお願いを申し上げます。
「まずは話を、させてくれぇ!!!」

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

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