【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】あきらめる、そしてドタキャン

2022年2月17日=1,047
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


那智大滝(和歌山県那智勝浦町)・・・遠くから

那智大滝(和歌山県那智勝浦町)・・・遠くから

▽講演会が中止に

先月2022年1月中ごろ、計画通りならばわが思いを好き勝手に語らせてもらえるとある研修会が予定されていた。しかしながらオミクロン株とされる新型コロナウイルス感染症の再流行(第6回目)により、開催3日前に中止と相成った。ただし開催地域において、この時点で感染の増加はまだみられていなかった。主催者は私に話した。

「大橋さん、ごめんなさい。このような判断になってしまって」
「とんでもないです、どうぞお気になさらずに」

当たり前だ。彼のせいでもなければ、誰かの行いがこの結果を招いた訳でもない。しかも相手はウイルスだ。われわれ人間が対処するには、かなり手ごわい。謝ることなど全く不要であります。主催者はさらに続けた。

「でも中止ではなく延期という形でぜひとも必ず開かせてください。よろしいでしょうか」
すぐさま私も返した。
「うれしいです。次なる機会、新たなる機会が、わたくしの生きる目標となりますから」

そう言ってもらえると、主催者としても本当にありがたいですと、しきりに恐縮なさる姿が電話を通してひしひしと伝わってきた。

この結果、今回の開催をあきらめた。それからの状況を見れば明らかなこの判断、すなわち「あきらめ」は正しかったと言える。全国的にコロナ陽性者が激増しているからである。しかし一方で、思いのほか感染が早急に下火となっていたかもしれない。その際には、そのまま開催できたのに、と言われたことだろう。

さらに延期となったこの会だが、次なる時には私自身の事情により開催できないことも十分にありうる。がん治療中のわが身、己の体調不良が急に生じても何ら不思議ではない。でもこんなん、考えても切りがない。切りのないことを考えるほど、現役がん患者には余裕・余力がない。だから切りのあること、できることを考えることにしている。この方がよっぽどいい。

▽あきらめたのは「1月の」開催

さて、「あきらめる」。大好きな言葉だ。なぜならばある一つのことをあきらめるからこそ、次なることを成せるからである。あきらめるのは、「事」でも、「物」でもしかり。もちろん人でも。その結果ほかの、別の新たな出会いが生まれる。誰しも体験するだろう恋愛でも同様だ。

ただしあきらめる際に、重要なポイントを挙げる。それは目的語である。

何をあきらめるのかを明らかにすることだ。今回のことで言うならば、「1月の開催」をあきらめた形で、「開催」そのものをあきらめた訳ではない。

那智大滝(和歌山県那智勝浦町)・・少し近づくと

那智大滝(和歌山県那智勝浦町)・・少し近づくと

▽生きることはあきらめない

要するに、「何を」あきらめるのかが大切だ。手術および抗がん剤としんどい治療を10カ月間がんばったにもかかわらず、肝臓に転移した。

そこで「完治」はあきらめた。でも生きることはあきらめなかった。さらにこれからの生である、余命を意識することはあきらめて、今日まで生きた日(足し算命)に目を向けることとした。だから今がある。

そしてあきらめた上で、キャンセルする。これも心地いい。キャンセルされた側はたまったもんじゃないだろうけれど、そんなん気にしてたら、しんどいがん生活なんて生きられへん。そもそも発病によって、わが人生そのものにおいて多くのモノが突然にキャンセルされてしまっている。なのでわたくしからのドタキャンもどうぞお許しくださいな。
ところで、今日は何をあきらめようかな・・・

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)、2021年10月「緩和ケア医 がんと生きる40の言葉」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

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