政治家の語学力

 一国のリーダーの語学力、とりわけ英語力は、首脳会談の“潤滑油”になる場合が多い。もっとも、外交官出身の吉田茂氏や通訳経験もある宮沢喜一氏など、わが国では英語力を駆使できた首相は、ほんの一握りである。サミット(先進国首脳会議)などの場での雑談の際、日本の首相が一人でポツンと立っていることは珍しくなかった。

 「ロン・ヤス関係」を築いた中曽根康弘氏は英語を話せる印象を与えたが、実際はパフォーマンスの色合いが濃かったとされる。ただ、大正7(1918)年生まれの人にしては、実に上出来であった。一方、細川護煕氏も訪米時などには英語を使う場面があったが、本人は発言や演説の内容よりも、むしろ発音と見栄えばかりを気にしていたという。

 たとえテレビの前だけであっても、英語を話せる首相は“国際派”に映りやすい。原稿の棒読みだったとの批判はあったものの、安倍晋三首相(当時)の米国議会演説も、日米両国でそれなりに高い評価を得た。とはいえ、首脳会談や交渉の際には正規の通訳を介さなければならないため、英語力の有無は会談の成果と直接は結び付きにくい。

 時代の変化であろう、最近は英語を自由自在に使える政治家がすこぶる増えた。9月の自民党総裁選に立候補した4人は、いずれも英語を話す。河野太郎氏は米国の大学を、また野田聖子氏は米国の高校を卒業している。高市早苗氏は米国議会での勤務経験がある。茂木敏充幹事長と林芳正外相はいずれもハーバード大学で修士号を取得している。

 本人の奥ゆかしさも手伝って、岸田文雄首相の英語力が話題に上ることは稀である。だが、岸田氏は幼少の頃、米国の公立小学校(いわゆる現地校)に通っており、「準帰国子女」の範疇(はんちゅう)に入る。確かに英語による演説やあいさつを聞けば、何となくネイティブの響きが感じられる。少なくとも日本語と同様、「ヒアリング(聞く力)」にはたけているのかもしれない。

 「オレみたいに英語がチンプンカンプンな者より、話せた方がいいに決まっている」(自民年配議員)との指摘はその通りかもしれない。一国の首相であれば、なおさらである。しかし、政治家であれば、流ちょうな英語で空疎な内容を語るよりも、通訳を介してでも中身のある発言、心を動かす発言の方がはるかに重要である。

 恥じらいのためか、それとも“出るくい”になりたくないためか、語学力以前に、一般的に日本人は自己主張を不得手としている。国際会議などでも、日本代表団がただ黙って相づちを打ったり、メモを取ったりする姿が目立つ。米国には、「国際会議で名議長となるには、インド人を黙らせ、日本人をしゃべらせなければならない」との冗談さえある。

 就任から2カ月以上が過ぎたが、岸田首相の“正体”はまだ見えてこない。「紳士的」「協調的」といったプラスの評価がある反面、「優柔不断」「無機質」「自己主張がない」とのイメージも持たれている。中には「悪い人ではないだろうが、何を考えているのか、腹の内が皆目わからない」(自民中堅議員)との見方もある。

 外交を“売り”にしている岸田首相は、一刻も早く訪米したいようである。しかし、どの言語であれ、魂が入っていなければ、人の心は動かないものである。逆に気持ちや信念、人間味さえ込められていれば、結局はどの言語を用いてもいいのかもしれない。菅義偉首相(当時)は意思伝達力の低さを批判されたが、現時点では、岸田首相も決して高くはない。

 国会では今週からいよいよ予算委員会での論戦が始まった。単に国民の納得につながらない“丁寧な説明”が繰り返されるだけであれば、たとえ英語が話せても、「外交の岸田」には大きな期待を持てないかもしれない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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