「はじめの一歩」(上)=DX 会社のカタチを問い直そう

 

 「デジタル・トランスフォーメーション」、略して「DX」と呼ぶこの用語がいま、企業社会を席巻している。デジタル技術を駆使して事業モデルを変革する取り組みを意味し、新たな成長の手がかりを得るキーワードといえる。折しも新型コロナウイルス感染症の拡大が、多くの企業にDXを急がせている一面も否めない。DXとは何か、どう実現するか、またどのような課題があるのか考えてみたい。

 

挑戦

 

 Q まずは「DX」という言葉の意味を教えてください。

 A Digital Transformationの略です。なぜDTではなくDXかというと、英語圏ではtrans-のことを「X」と表記することが多いからです。「~を超えて」「~と交差して」を意味するtransを同義のcrossを略した「X」と書く用法が由来のようです。

 DXの意味するところは、デジタル技術やIT(情報技術)、データを使って、ビジネスモデルやサービスを大胆に変え、顧客満足を高めたり新たな価値を創造したりすることです。

 Q ITを使った業務の効率化や省力化なら、多くの企業がすでに実施しているのでは。

 A はい。実はそこが、DXが最も誤解されがちな点なのです。従来のIT化は、事業の基本的な枠組みはそのままに、部分的な効率化や省力化を図るにとどまりました。目先のコスト削減には効果的だったかもしれませんが、長い目でみて売り上げを伸ばす要素は見当たりません。

 DXは、インターネットや人工知能(AI)、ビッグデータなどの技術を活用して、事業全体を組み替えるという挑戦である点が大きく異なります。それは従来のやり方にとらわれず、会社のありよう、姿かたちをも問い直す先に、新たな成長戦略を描く取り組みです。お客さんの層が大きく変化することや、ライバルの顔ぶれが一変することもあり得ます。

 Q 長年なじみのお得意さんを失ったり、創業以来のブランドイメージを損なったりするリスクを伴いませんか。

 A そうした「のれん」の伝統としがらみが、逆に日本企業のDXには大きな障がいとなっている一面があります。とりわけ現状、うまくいっている(ように見える)企業、従来の成功体験に安住している企業には、そもそもDXの意義や必要性が理解されにくいでしょう。

 しかし5年後いや3年後に、お客さんが同じ場所にいてくれるでしょうか。ライバル企業は、手の内を知り尽くした同業者ばかりでしょうか。市場の様相が突然、激変して弱者が駆逐されてしまうことは、アマゾンやネットフリックス、メルカリなどの急成長を間近に見てきた私たちはよく知っています。

 

変身

 

 Q 確かに、ネットでは、より便利でより安価なサービスへの乗り換えが起きやすいですね。

 A デジタル技術を武器に、こうして市場秩序を根底から覆してしまう参入者を、ディスラプター(破壊者)と呼びます。これらディスラプターはグーグルやアップルなど「GAFA」に象徴されるように、自らが構築した巨大なプラットフォームに市場をまるごと移し替えてしまう、いわゆる「勝者総取り」のインパクトを持つことも少なくありません。

 DXはいまデジタル世界で起きている革新を踏まえて、自社の事業の競争力を見つめ直し、自らを「再定義する」営みとも言えるでしょう。言い換えれば、自社がこの社会に生かされている意義を問い返し、その先にどんな価値や顧客満足を生み出せるのか、「次なる成長の糧」を探る作業ともいえます。

 Q 正直なところ、あまりイメージが湧きません。具体的な成功例を教えてください。

 A 象徴的な事例が米国のネットフリックスです。同社は1997年に創業したときは、見たい映画をウェブで申し込んだ客に、DVDを郵送するという事業でした。その後、顧客のデータベースを分析してお薦めの作品を提案するレコメンド機能を導入します。

 2007年にはビデオ・オン・デマンドによるストリーミング配信を開始、さらに自社でオリジナルのドラマ制作と配信を始めるなど、データとデジタル技術を活用して巨大なコンテンツプロバイダーに変身しました。

 Q なるほど。顧客ニーズに合わせて、ビジネスの壁を自ら壊してきた様子が分かります。

 A 国内でいえば、建設機械メーカーのコマツ。人手不足に悩む建設現場にICT(情報通信技術)を持ち込み、課題を解決する「スマートコンストラクション」を実践しています。たとえば、ドローンを飛ばして測量や調査を行うほか、ドローンの撮影画像から設計図面や施工書類も作ります。ショベルカーにカメラを搭載し、前方の地形を認識して掘削した土の量を計測したり工事の進捗状況を管理したりもします。

 建機の販売やメンテナンスにとどまらず、建設現場で発生する作業工程全体のオペレーションを、デジタル技術を使ってサポートする。これは建機メーカーという枠組みを超えた、ある種、コンサルティング業への変身ともいえるでしょう。

コマツはITを駆使して、建設現場で発生するさまざまなニーズをサポートする

「陣屋コネクト」

 

 Q たしかに、ものづくり企業コマツのイメージとはかなり違った印象を受けます。

 A 次にご紹介したいのは、神奈川県鶴巻温泉の老舗旅館、「元湯 陣屋」の取り組みです。10億円もの負債を抱え、一時は倒産も危ぶまれましたが、クラウドを基盤にデータ分析と原価管理を徹底したほか、仲居さんらスタッフがiPadを携行して情報共有やタスクの分担を進めるなど現場作業を効率化。10年で売り上げを倍増させたほか、旅館では珍しい週休3日制も導入するなど、見事に再生させたといいます。

 代替わりした経営者夫妻は、おもてなしを信条にまず旅館が目指すべきコンセプトを掲げて経営戦略を立案、その改革を実現するための基幹システムを構築しました。「陣屋コネクト」と名付けたこのシステムは、同じような悩みを抱えるほかの旅館に外販するほどのヒットとなり、参加した旅館をつないだ交流ネットワークビジネスにも発展しています。

ワークマンプラスは店頭で、ユーザーのコメントを販促に生かす

データ経営

 

 Q 危機の中で商売の原点を見つめ直すと、目指すべき方向性が見えてくるのですね。

 A そのほか作業服販売のワークマンもユニークです。工事現場などで働く人のための丈夫で機能性に優れた作業着の専門店ですが、2018年に、アウトドアの新市場を狙った新業態「ワークマンプラス」の出店を始めて以降、売り上げを急速に伸ばしています。

 それを支えるのが、徹底したデータ経営です。在庫管理のデジタル化と完全自動発注はもちろん、試行するマーケティング策の実施店と未実施店の効果を検証する独自のテストなど「店頭の科学」を追求します。平日の朝夕はプロ向け、昼間と休日はアウトドア客向けに陳列を変えるなどの工夫もそんな試みの一つです。

 Q ワークマンのテレビCMなどをあまり見ませんが、どうやって知名度を高めますか。

 A 広告宣伝費をかけない一つの工夫は、アンバサダー・マーケティングと呼ぶ手法です。ワークマン商品のファンで、かつ情報発信力のあるヘビーユーザーを同社の「アンバサダー」に認定し、彼らに製品の評価や説明役を担ってもらう試みです。

 お客さんを店頭のPOPのQRコードからアンバサダーのブログやSNS(会員制交流サイト)に誘導し、そのコメントを通してお客さんの購入意欲につなげます。実際にこれまで、ブロガーやユーチューバーといったインフルエンサー(情報発信力と影響力の高い人)がワークマン商品を紹介して話題となったことにヒントを得た、独自のメディア戦略といえます。

 Q DXに一つの正解はなく、要はアイデア勝負ということが分かりました。

 A はい、その通りです。DXには百社百様のやり方があるということです。アビームコンサルティングの安部慶喜氏は著書「DXの真髄(しんずい)」(日経BP)の中で、多くの日本企業にとって、高度成長から安定成長を遂げた成功体験と、その後の環境変化に対応できず組織にしみついた「習慣病」からの脱却こそがDXのカギと説きます。

 次回はそもそもDXとは何か、日本で注目を浴びた経緯と理論に踏み込んで考えます。

「はじめの一歩」(中)=https://b.kyodo.co.jp/business/2021-09-28_7588474/

「はじめの一歩」(下)=https://b.kyodo.co.jp/business/2021-09-28_7588481/

【筆者】

知的財産アナリスト

竹内 敏(たけうち・さとし)

 

(KyodoWeekly8月9日号から転載)

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