「ほかに適当な人がいない」幸と不幸

 5月11日までとなっていた新型コロナウイルス緊急事態宣言が、今月末まで延長された。政府のこれまでのコロナ対策やワクチン接種に対しては、多くの国民が強い不満と不安を抱いている。だが、菅義偉内閣の支持率は約40%で下げ止まり、「危険水域」といわれる30%未満まではまだまだ余裕がある。

 明確な政治理念や目標を掲げない菅首相は、岩盤支持層に支えられているわけではない。なのに、なぜ40%を維持できているのか。先月の共同通信社の世論調査では、「支持」の最大の理由は「ほかに適当な人がいない」で51%に達し、2番目の「首相を信頼する」は17.6%にすぎなかった。

 もっとも、ほかに有力な選択肢がないことは、菅首相の功でもなければ罪でもない。むしろ7年8か月に及ぶ安倍晋三前政権の負の遺産だといえる。安倍首相(当時)は総理総裁への野心のない議員を重宝して主要ポストを歴任させ、次世代を担うべき人材の育成に本腰を入れなかった。例えば財務大臣や官房長官は終始同じ人物であったし、幹事長も4年以上にわたって二階俊博氏が務めた。

 吉田茂首相(当時)が自らの力を強めるために頻繁な内閣改造を行ったのが、「短い閣僚任期」の始まりだとされる。だが、1955年体制では頻繁な内閣改造・党役員人事によって、官僚主導が強化される結果となった。「官僚たちは、わずか1年在任の大臣よりも、事務方トップの次官を見て仕事をした」(経済官庁OB)という。

 その一方、総理総裁を目指す議員はさまざまなポストを経験でき、またふるいにかけられた。党三役のうちの二役と、外相や蔵相(現・財務相)といった主要閣僚を務めれば、「将来の総裁候補」と目された。中曽根康弘首相(当時)や小泉純一郎首相(当時)など、時の首相も、競わせながら複数の後継候補を育てた。「かつては次世代の育成も、リーダーにとって重要な責務だった」(元衆院議員)のである。

 その点、安倍氏には合格点は与えられない。海千山千の長老議員を有力ポストに就け続けることは、政権運営や保身のためには有効であっても、人材育成の面ではマイナスに働いている。もとより各派閥が次世代のリーダー候補を先頭に立てていないことにも大きな原因がある。本来、派閥の領袖は「総裁候補」であるべきだが、現在は必ずしもそうはなっていない。

 例外はいる。安倍政権で一貫して日の当たるポストを歩き、安倍氏がひそかに期待を寄せた数少ない一人が岸田文雄前政調会長である。政権前半の4年半は外相も務めた。だが、国民的な人気が高まらない上、去る4月25日の参院広島の再選挙で力量を発揮できなかったことから、菅首相に代わる「適当な人」にはなり得ていない。

 最近の「安倍再々登板説」には、菅政権の評価が芳しくないにもかかわらず、代わり得る人材がいないことも影響している。安倍前首相の周囲は積極的であるし、本人もまんざらでもないようであるが、「また安倍政権となれば、自民党の人材難を証明するようなもの。さすがに3度目はないだろう」(自民中堅議員)との見方が一般的である。

 永田町でむやみに足の引っ張り合いが繰り返されては困るが、代わり得る人材がいることで、政権に緊張感がもたらされることは間違いない。コロナ対応にしてもオリパラの開催問題にしても、消極的な理由で4割の支持率を維持している政権に国家の進路を委ねることに、何とも形容しがたい歯がゆさを感じている国民は少なくない。

【筆者略歴】

 本田雅俊(ほんだ・まさとし) 政治行政アナリスト・金城大学客員教授。1967年富山県生まれ。内閣官房副長官秘書などを経て、慶大院修了(法学博士)。武蔵野女子大助教授、米ジョージタウン大客員准教授、政策研究大学院大准教授などを経て現職。主な著書に「総理の辞め方」「元総理の晩節」「現代日本の政治と行政」など。

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