【対談】2021年、教育のデジタル化を真面目に考える(後編)

 コロナ禍でいやがおうでも急速に進む教育のデジタル化。本来は教育現場を効率化させるはずの技術だが、負担が増えるだけの状況に、教師たちは悲鳴を上げている。中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授と、スマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリアの山脇智志社長が、日本の教育の未来について話し合った。

前編:https://b.kyodo.co.jp/politics-international/2021-03-01_7461991/

大学の学費は何に対してのお金なのか

 山脇 当たり前なんだけど教育における受益者っていうのは子どもなんです。私は小学生、特に低学年が気になりました。児童にとっては学びの型みたいなものをつくるのが低学年における一つの大きな目標だと思います。今回みんな家にいるということは、そのほとんどを家庭に依存せざるをえない。

 つまり親に丸投げです。自立できてる子どもがいたとしても結局保護者にすごく依存してしまっている何カ月間があったわけです。実は前回の対談で岡嶋さんが言われたように、この1年間、この数カ月が子どもたちの未来にものすごく意味を持ってくるんじゃないかなと思います。

 岡嶋 オンラインでの授業が正しいのか、正しくないのかという議論が最近多くなりました。

 山脇 例えば大学です。ニュースなどでも大学の講義がオンラインに移行したことで恩恵を受けたというものもあれば、講義だけではない本来あるはずの大学生活とか学友やサークル活動が失われたことにガッカリしてるというものもある。もちろん大学は高等教育機関ですが、同時にコミュニティーとか社会自体でもあるわけじゃないですか。

 結局それができてないのに何で同じお金取るんだ、みたいな意見もあったりします。「大学って何なのか」っていうことを考えるすごくいい機会だし、大学に払う学費と呼ばれているお金が、何に対してのお金なのかっていうのを考える機会になるのだと思います。

止めてはいけない「学びの多様化」

 山脇 個人的には自分の大学という体験から、今の子たちはかわいそうだなと思います。まだまだ次の第二第三の例えば亜種みたいなものが出てくることも含めて社会というか、世界がもう全くもって変わってしまったということを前提に話は進めなければならないはずです。

 岡嶋 多分僕らが今まで言ってきたこととか、やってきたことが試されてると思うんですよ。

 曲がりなりにも民主主義がいいよねとか、双方向なコミュニケーションができる、可視化された、多様性のある世の中がいいよねとか、教育は大事で子どもの未来のために最優先される事項だとか言ってきたわけじゃないですか。

 でも意外とそれが「おためごかし」で、何か優先度が低い方に回されちゃってるぞってのが、すごく強く露呈した瞬間だったと思うんです。多様性とか学びの広がりとか言いつつも、結局「半年くらい授業しなくても、なんとか取り返せるだろう」「対面と紙でやる授業こそがいいんだ。コロナの影響が去ったら、そこに戻していくんだ」っていうふうに上位層に座ってる人たちが考えていると、さまざまな箇所から見えてきてしまった一年でした。

 でも、これから起こるであろう環境の変化とか、今まで言ってきたこと、やってきたこととの整合性、今の価値感というのを考えれば、本当の意味での「学びの多様化」は絶対に止めてはいけないんです。ですから、山脇さんのおっしゃっていることに同感ですね。

 Zoomなどの遠隔システムを使った授業は手法なども含めてまだまだ発展途上でしょう。未成熟であるかもしれないけど、これが一つのベースとなればいい。それらの「もがき」があって、初めて前に進めると思うんです。現場のがんばりや運用の工夫では課題は解決できず、何か別の教育プラットフォームをこれから作っていく必要があるのかもしれません。

先生たちの業務改革

 岡嶋 何か変わらなくちゃいけないという点では、社会のコンセンサスができてると思うんですけど、例えばかつて学校に通うのに鉛筆とノートを用意せずに行く人はいなかったように、いまの学校教育ではもう当たり前のようにコンピューターが必要だと考えるべきです。その覚悟はまだ行き渡ってないのが現実です。

 通信や情報が必ず学びのために必要なんだということを、せっかくの機会ですから社会の合意を取り付けて、僕らはそれを前提にこれからの教育サービスを考えていく必要があると思います。

 そして教員へのサポートをちゃんとしていかなければならない。繰り返しになりますが、箱があるだけじゃ駄目なんです。いまだに紙のプロセスで生産性の悪い業務をやっている上に、慣れないリアルタイムでのリモート授業をどんと載っけられたら、ただでさえいっぱいいっぱいの先生は潰れちゃいますよ。職業として、そこに就く人がいなくなってしまいます。ここは思考を切り替えていかないといけません。

 山脇 私、GIGAスクールって素晴らしい政策だと思います。本当にこの速度感で配備できて教育のデジタル化が実現できれば単に学力とかではなく、教育のさまざまな課題を解決する大きなきっかけになるはずです。

 子ども一人一人に端末が配られて、インターネットを使って接続できるようになることと同じくらいに、先生も1人1台のコンピューターを持つことができるようになった。ここの意義が非常に大きい。

 われわれがこの1年、公教育と向かい合う中で見えてきたのは、学校における先生たちの仕事の量、内容、そしてそのプレッシャーみたいなものでした。これをまず何とかしないことには、そもそも子どもたちがもっと悠々と学ぶことができない。私たちの出した回答は、先生たちにスポットを当てて、実はこのGIGAスクールの意味を先生たちの業務改革をしていくしかないということでした。この春からその成果を出して行きます。ここができないことには本当の意味での教育におけるデジタル化はできないでしょう。

改善しない現実に幻滅

 山脇 約1年間、現場を見ていく中で感じたのもありますが、もう一つ個人的な経験に影響されたこともあります。

 友人の一人から、秋に公立中学校の先生を辞めると告げられました。辞める理由というのが、本来教育ではないもの、例えば毎日の机のアルコール消毒だとか、同じ授業も1日2回転しなきゃいけないなど、今までも忙しかったのに更に忙しくなったことで全て限界になったのだと。GIGAスクールでデジタル端末が他の自治体よりも早く導入されて、それまでもデジタル活用に積極的であったその人は、デジタル化によって改善されることも期待したそうです。しかし結局、特に何も変わらないまま、ただただリアルに動ける人間としての業務だけが増え続けたことで幻滅をしたそうです。「自分は教育への夢を持って教員になって入ったんだけども、現実が一向に改善しない」と寂しそうに言っていました。これが自分にとってはショックな出来事でした。その人からは私たちのような外部の人間ではうかがい知れない教育の魅力や夢を聞いていたことが、私にとって教育を理解する糧になっていた。それがプツリと切れてしまった。

 それらの要因を経て、やはりこれは先生を何とかしなきゃいけないなっていうのが一つの大きな契機になりました。教育のデジタル化において、先生たちがもっと教育に集中できる、生身の人間にしかやれないことに時間を割けるように、校務支援のデジタル化を革命的に進めていくことにしました。

 岡嶋 もうコロナ以前の元通りの世界に戻ることはない中で、教育のデジタル技術を用いた支援は必ずなされなければなりません。ただ、どんな分野でもそうですが、ずっとその業界の中にいた人だとそれまでの常識を超えるのは、本人の資質や覚悟だけでは困難です。立法や行政のサポートが必要です。

 教育って国をつくる根本の事業ですから、そこで手を抜いていいはずはないんですよきっと。いま疲弊している小、中、高等学校の先生たちに、教育に集中してもらうための新しい枠組みが必要です。

 古い価値観や常識が、これからの教育の阻害要因となるなら容赦なくそれらを外し、なくしていく努力をしていきましょう。

人類の先輩だからこそ言えること

 山脇 コロナ以前はある程度予測できていた「未来」というものがもうほぼ予測できないのが「現在」です。不確実であるし不安定でもあるし、これまで以上に複雑になった「現在」の積み重ねをしていかなきゃいけない。個人的にはまだ未成熟な子どもたちがこういう時代にどうやって生きていくのかっていうことを教育の中で学ぶ機会をつくってほしい。

 こういった誰が教えてくれるか分からないことを、いち早く教育というものの中に植え付け、染み込ませるのはすごく重要だし、先生がそこに対して、1人の人間として分かることと分からないことを生徒と一緒に学ぶような機会を期待したいのです。

 子どもたちでも自分で調べれば、全てがインターネットで分かってしまいます。人間同士として立ち向かったときに、数年前に生まれ、生きて経験をしてる人類の先輩だからこそ言えることだったり、その立場っていうものを、私は教育の中でもやってほしいなと思ってます。岡嶋さんは大学の先生ですので、学生たちとリアルでもバーチャルでも相対していく中で、どのようにご自身の教育をやろうと思ってますか?

 岡嶋 教育において、大学であろうと個別のカスタマイズは必要なんだと考えています。教育において先生と生徒の数の比率はすごく大きな問題ですよね。少ないに越したことはないのだけど、コストの関係で小学校でも40人以上のクラスになったりしています。

 これまではコストを下げようとすれば、人を集めることで効率化するしかなかった。それがITを使えば緩和できるようになりました。生徒一人一人に見合った、カスタマイズされた教育を提供するためのコストは下がっています。

 先生が先生にしかできないことに集中してもらうために、ITは貢献できるというのが僕の考えです。いまは過渡期ですし、さえない実装で真逆のイメージを持たれている側面もあると思いますので、まずは自分が実践していかなきゃいけないと思っています。

 既存のLMS(学習管理システム)を使ったりとか、デジタル空間でのコミュニケーションツールを使ったりすることで、現実的な予算や体力の範囲で改善は可能です。理想にはほど遠いかもしれないけど、まず始めることが重要でしょう。「リモート化された授業の比率が…」といった目先の指標だけにとらわれるのではなく、一人一人にカスタマイズした教育を実現していきます。もちろん今後もコミュニティーとしての大学を機能させていくことも必要です。

 教員である僕たちが生き残っていくための術としてもそれは大事だし、いまだに教育の自動化などに言及すると批判を受けたりすることもありますが、僕らがまず先鞭(せんべん)をつけて実際にやっていくこと、そしてトライアンドエラーの中で成果を見せていくことがこの状況を変えるキーだと考えています。

 太古から、人が抱える問題を解決してきたのは技術ですし、技術そのものが新たな問題を生み出すことがあっても、それを乗り越えるのもまた技術です。それを見せていきたいなっていうのが2021年のテーマですね。

【対談者略歴】

 山脇 智志(やまわき さとし) キャスタリア株式会社代表取締役社長。鳥取県出身。NYでの留学・就職・起業を得て日本に帰国。2006年にスマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリア株式会社を設立。海外の教育組織や関係者との深いネットワークを持つ。共著に「プログラミング教育が変える子どもの未来 AIの時代を生きるために親が知っておきたい4つのこと」(翔泳社)、「教養のSNS: ソーシャル時代の技術とセキュリティについて考える」(先端社会科学技術研究所刊)、訳著に「ソーシャルラーニング入門」(日経BP社刊)。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。

 岡嶋 裕史(おかじま ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「思考からの逃走」(日本経済新聞出版)、「インターネットというリアル」(ミネルヴァ書房)など。

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