【対談】2021年、教育のデジタル化を真面目に考える(前編)

 コロナ禍は、教育現場でのデジタル化の遅れから、子どもたちにとって、長期間にわたる教育上の悪影響を与えてしまったのではないか―。日々成長する子どもたちに“待った”はない。中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授が、スマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリアの山脇智志社長と、今、教育現場で何が起こっているのか、どうすればいいのかについて話し合った。

タブレットの整備がゴール?

 岡嶋 昨年の今ごろにも山脇さんと対談しました。

 山脇 コロナの影響が本格化して、教育への影響に関して討論しました。それがウェブメディアで記事になり、私の周りでは結構評判になりました。改めてその記事を読んでみたのですが、約1年たっているのに公教育の世界は根本的な解決ができていない、進化してないじゃないかってという感想です。

 岡嶋 全く同感です。確かにGIGAスクールのように行政の政策で生徒1人1台のデジタル端末の整備自体は進んでいます。しかし、それ自体が目的化されてしまっていて、「うちの市は1人1台タブレットを持たせた」ということで満足しちゃっている。地方自治体、そして教育委員会の人にはこれがゴールなんだ、と思ってる人たちがまだたくさん残っているのかと驚きました。

 山脇 その先が見えていない。

 岡嶋 一人一人にカスタマイズされた教育とか、先生の負担を軽減して子どもへの教育に集中してもらうために、教育プロセスを自動化させることに意味があるのに、全然そっちには頭がいってない。ハードをそろえるところまでで、ソフトのことをあまり考えてない。さらにその上にあるサービスとしての教育は想像の圏外です。

中央大学国際情報学部の岡嶋裕史教授

 山脇 ほとんどの人がそうでしょうが「移動と集合」という二つの要素において、これほどの行動に制約を受けることは人生でほとんど初めてのことです。昨年は公教育に対してコミットしていこうとしました。あらゆる事象を想定して教育を続けられるようにするという。

 岡嶋 ECPと呼ばれる教育持続化計画ですね。

 山脇 その中心においたのがスマートフォン。多くの家庭にあるだろうし、コンテンツはデジタル、手段としてインターネットでやっていきましょうということを言ってきました。

いくつかの教育委員会や学校とお付き合いしてきた中で感じたのが、岡嶋さんが言われたように、結局その「物」が入ることが目的化していって、それを使って何をやるだとかその結果、どこを目指すっていうところが、おろそかになっている。もちろんその言葉としては設定されているし、教育委員会が達成しなきゃいけない目標だとかあるんだけど、あまりにもそれが現実と乖離(かいり)している。現場が分かれば分かるほど、その言葉が空虚なものに思えて、悲しくなりさえしました。

ロックダウンは「強制終了」

 岡嶋 現場はやはり対面であることに価値があると思い続けています。Zoom(ズーム)が多くの教育の現場で導入されましたが、オンラインでできることはしょせんこれなんだろうっていう判断をされています。

 山脇 デジタルやネットの可能性を甘く見てはいけない。

 岡嶋 それは強く言いたい。感染症の有無にかかわらず、教育は大きな問題を抱えています。異論を承知で言えば、それを超える力として最もポテンシャルを持っているのはテクノロジーです。仮に近い将来に感染症の状況がよくなっていったとしても、継続していくべき取り組みです。これから社会の在り様も間違いなく変わるでしょう。そんな中で自分ができる範囲でやっていきたいなと思います。

 山脇 昨年の春は山手線とかも空気を運んでいるような状況でしたが、だんだんと往来も増え、会社のオフィスや学校に人が向かうようになりました。でもまた寒くなってきて、ロックダウンになった。この状況は「強制終了だなと。コンピューターでソフトを開き過ぎたり、何か無茶な処理をして画面が止まってしまったり、ソフトウエアが終わってしまう事象です。いろいろあって結局パーンと止まってしまったり、いきなり落ちてしまうっていう強制終了みたいなものが社会に現れたよなって思いました。

 岡嶋 昨年の対談でも事象を「アップデート」という言葉で表現していたのが印象に残っています。

 山脇 どうしても私たちITの世界に身を浸すとコンピューターの用語とかデジタル的な概念でモノや事を表現してしまいます。メモリを増強しようだとか、新しいコンピューターに変えようとかっていうような、その先に目指すものや目指したいものがあってそれに向けて手段を変えていくってのが結構当たり前ですし、制限された中でどううまくやるのかと。例えばコンピューターがどうしても多数のソフトウエアを立ち上げると、メモリがいっぱいになって遅くなるんだったらメモリ落としながらやろうかとか、なんかそういうことだと思うんですよね。ところが教育の世界ではそうではない。ただ立ち尽くしてしまう。例えば今回緊急避難的にとりあえずZoomだってことで、みんなZoomで授業をやりましょうということになった。

 岡嶋 事前の環境整備も不十分な状況で。

 山脇 これまで行われていた教育をそのままオンラインに移したって面で移行しやすいことはあったかもしれない。でも問題は家にコンピューターがなかったり、インターネット環境がない、という家庭もあったりする。そういったところにおいても市町村や教育委員会は何かできるんですかって言っても、結論何もできない。ここで義務教育は実は前提条件として「移動と集合」が必須条件で、そうじゃなくなった瞬間に義務にできないということが分かってしまった。

全国一斉、Zoomにアクセス

 山脇 Zoomに関してもリアルタイムでやることにはもちろん意味はある。時間を固定することで、特に小学生などまだ自律しづらい生徒には時間の固定こそが教育であるということになるはず。ただし、日本全国で授業の開始時間は同じですから、そうなるとZoomのようなパワーを必要とするサービスはサーバーやネットワークへの負荷はとんでもないものになります。動画の画面が止まったり、音声はブチブチ切れてしまったりしてまとも授業もできないこともある。また受講する生徒も慣れていないこともあります。それをもって「だからネットはだめだ」とはしてほしくはない。

 岡嶋 柔軟な発想が必要になりますね。

 山脇 そうなったときにじゃあ何するか。時間をちょっと変えましょうとか、いろいろやりようがあるんだけどもどうしても画一的にやらざるを得ない。単にフィジカル(物理的)な教育からオンラインに場所を変えただけではなく、もっとオンラインの本質に向き合った変化を起こすべきだと考えます。

 岡嶋 それこそ変えていきたい部分です。同じ時間に集まることの意味や、それを維持するためのルールも重要です。でもそれだけが「教育」だと固定してほしくない。状況が変わり、柔軟に対応して、結果として生徒や学生にとって利得のある教育を行う。過去からの金科玉条を墨守することだけが良いことではないと、一人一人のステークホルダーは理解しているのに、集団になると変革ができないんですよね。

価値観や世界観もアップデートを

 岡嶋 すごく象徴的だと思うのが、緊急事態宣言の前後でも単にメモを読み上げるようなPTAの集まりを実施した学校です。SNS一つですむわけじゃないですか。リスクを取って集まる必要はどこにもない。みんながみんな集まりたいわけでもないでしょう。でも、集まらないと学校への忠誠心が疑われる…と考える親御さんが多いんです。集まることのメリットはありますが、思考停止的にそれにすがるのはもうやめたい。まして、忠誠心の踏み絵なんて。それで「合理的思考を教える」って理念を掲げても、無理でしょう。

 山脇 理念と行動がちぐはぐですね。

 岡嶋 「多様性」とか言うだけならいくらでも言えるけど、実行レベルに追いついていない。どの時間にも学んでいいとか、学びの手段にも(特に非常時には)いろいろあっていいとか、教育にまつわる価値観や世界観自体をアップデートしていかないと、何も変わらないし、動かないって思います。

 山脇 ちょっとGIGAスクールの話をしたいと思います。全ての小学生や中学生に1人1台タブレットもしくはコンピューターというものをちゃんと配備しようというものです。もちろん予算的に足りないだとか、端末の供給体制が時間的に間に合わないだとか、生産量が足りないなどのいろいろな問題が噴出していました。実際に配備されていく過程を踏まえて、そのコンピューターを使って何をやるのかと、つまりその上に乗っかっているアプリケーションだとかサービスに関してはやっぱりなかなか追いついてないですね。私たちは今年度、経済産業省のEdtech導入補助金を使って二つの自治体で公教育におけるデジタルツールの導入を実証実験的に行いました。それをやっていく中で気づいたことというのは、あまりにもその教育委員会や教育の現場で準備ができていなかった。

 岡嶋 まず下地の部分からやらなきゃいけなかった。

 山脇 インフラの問題はもちろんあります。ネットワークが貧弱なものだったり、Wi-Fiルーターがなかったり、あっても古くて十分な人数がアクセスできないなどいくらでも。何よりもやっぱり人の問題が大きい。ITについて知識を持っていたり、高い興味や関心を持っている先生はいます。ただその人たちは圧倒的に少数です。IT企業である私たちが前に進んでいく速度と教育の現場にある課題がブレーキになり、速度感があまりにも違うことでのロスが多かった。

日本は二つの国に分かれていた

 山脇 もちろん教育にはこれまで当たり前のようにあった教育の速度感があり、彼らの持つ独特の足腰みたいなものがあって成立していた。ただ、その当たり前が故に、自分たちでは解決できない課題が澱(おり)のようにたまっていた。すでに先生たちの過重労働みたいなものがあった上で予測もできなかったコロナへの対応が起きてしまったことで、もう処理できないだけのタスクがたまる一方になった。しかもやろうと思っても準備も何もそろってない。

 岡嶋 「どうすりゃいいんだろう」っていう気持ちになったでしょうね。

 山脇 岡嶋さんは大学だけでなく、自治体などへの教育のアドバイザーも務めておられますが、どんなふうに感じられてどんなことをされてきたりしましたか?

 岡嶋 もう日本っていうのは二つの国に分かれていたんだなって思いました。IP(インターネットプロトコル)の国の人たちと紙の国の人たち。コロナ以前は普段の生活の中で折り合いが付けられていました。でも、「コロナだよ、オンラインで教育をやりますよ」ってなったときに、全くその二つが分かれてしまって、もう何も話す言葉も違うぐらいに隔たっていることを感じました。アメリカの分断をのんきに論じている場合じゃないぞ、日本にも大きな分断があったんだぞ、って。

 山脇 ある意味、アメリカよりも大きな分断かもしれない。言葉が通じないんだから。

 岡嶋 1人1台コンピューターがあることが当たり前の環境にいる人たちは、新しい学びにも普段からなじみ、2020年の事態にも比較的早期に対応できたんです。少なくとも、学びを止めずに済んだ。一方でそうではない環境だと、先生が資料をコピーして郵送で各家庭へ配布したような例もあって、自粛期間中に、ひょっとしたら数年かけないと取り返しがつかないくらいの差を、子ども達に与えてしまったのではないかと思います。長い目で見れば、高校受験や大学受験にも影響が出てくるかもしれない。決して児童や生徒のせいではないのに外的な要因、自分の住んでいる地域や環境でそういう差がついてしまったのではないかと強く思っていて、今後まずそこをなんとかしなければならないと考えています。

【対談者略歴】

 山脇 智志(やまわき さとし) キャスタリア株式会社代表取締役。鳥取県出身。NYでの留学・就職・起業を得て日本に帰国。2006年にスマートフォンを用いたモバイルラーニングサービスを提供するキャスタリア株式会社を設立。現在、代表取締役社長。海外の教育組織や関係者との深いネットワークを持つ。共著に「プログラミング教育が変える子どもの未来 AIの時代を生きるために親が知っておきたい4つのこと」(翔泳社)、「教養のSNS: ソーシャル時代の技術とセキュリティについて考える」(先端社会科学技術研究所刊)、訳著に「ソーシャルラーニング入門」(日経BP社刊)。情報経営イノベーション専門職大学客員教授

 岡嶋 裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ジオン軍の失敗」「ジオン軍の遺産」(ともに角川書店)、「デジタル/コミュニケーション」(中央大学出版部)など多数。

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