「第1回」コロナ禍で企業のDXとデジタル化は進んでいるのか?

DXの号令。その前に目の前の「業務デジタル化」は進んでいるのか? 

 

 「DX」というワードを聞いて、あなたはどう感じるだろうか。

 「DX、うちの会社は進んでいるなぁ」「まったく進んでいない…。」「デラックス?ダウンタウンDX…?」など反応はさまざまだろう。

 「DX」とは、デジタルトランスフォーメーションのことだ。DXの起源は、スウェーデンのエリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念からだといわれている。

 その後、世界中の組織が独自の見解を示しているが、令和元年(2019年)7月に経済産業省がとりまとめた「『DX推進指標』とそのガイダンス」によると、その定義は“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること”だそうだ(長い…)。

 なにやら難しいDXの定義を企業目線でシンプルに捉えると、「データとデジタル技術を活用してビジネスを変革し、価値を創出すること」だといえる。

 DXとは具体的にどのようなものか、事例で説明しよう。

 日本のIoT(モノのインターネット)で有名なDX事例が、コマツ(東京都港区)が手掛ける稼働管理システム「KOMTRAX(コムトラックス)」。衛星利用測位システム(GPS)を搭載したコマツの建設機械が世界で何十万台と稼働しており、この「KOMTRAX」で、どの機械がどの場所にあって、エンジンが動いているか止まっているか、燃料がどれだけ残っているか、昨日何時間仕事をしたか、すべてがコマツのオフィスでわかる仕組みになっている。これにより、「この機械はそろそろ部品の交換が必要です」や、「この機械のエンジンが無駄にかかっていたので作業員にこのように指導してください」といったフィードバックをお客さまにサービスとして提供。機械の盗難も劇的に減少し、その結果、盗難保険も安くなり、お客さまの満足度は飛躍的にアップしているということだ。コマツの経営陣は、建設機械から日々上がってくるデータから、世界中の建機の動きを細かく確認し、市場の先行きを占う上で大きな判断材料としているとのことだ。

 IoTの力で顧客体験を高め、ビジネスモデルにも変革をもたらしたDXの例だといえるだろう。

 次に、人工知能(AI)技術を用いたDX事例を紹介する。カルテのデータベース化に成功した大塚デジタルヘルス(東京都千代田区)だ。大塚デジタルヘルスは大塚製薬(東京都千代田区)と日本アイ・ビー・エム(東京都中央区)が設立した合弁会社で、国内の精神科医療に対するデジタルヘルス・ソリューション事業を行うために設立された。

 精神科医療では個々の病状や病歴を数値化することが難しく、そのため医療従事者による「自由記述」としてデータが蓄積されてきた。しかし自由記述ゆえにデータベース化が困難だった。せっかくの経験とノウハウが詰まった膨大な電子カルテを有効活用できていなかったのだ。

 そこで、米アイ・ビー・エムが開発したAIの「Watson(ワトソン)」とクラウドサービスを組み合わせ、精神科電子カルテをAI自然言語処理技術を用いて整理・分析し、医療現場や病院経営に役立つサービス「MENTAT(メンタット)」として提供。

 結果、データから患者の背景や状態、そこに至るまでの変化を「見える化」。課題や入院長期化のリスクを共有することでチーム医療の質が高まった。

 また、患者や家族へ類似症例や統計データをもとにした説明が行えることも大きい。さらに診断に必要な情報が瞬時に取り出せ、大幅な業務時間短縮、負担軽減につながり、精神科医療に関わる多くのスタッフに時間的な余裕を創出しているという。最先端技術が精神科医療の未来につながる素晴らしい事例だ。

 どちらも、まさに「データとデジタル技術を活用してビジネスを変革し、価値を創出すること」=DXを実践している事例である。

 このような事例は数多く世の中に出てきている。コロナ禍という予想外の後押し(と言っていいのか悩むが)もあり、民間でもDXの動きが加速したという見方もある。

 

DXの前に「デジタル化」が必要な理由 

 

 さて、DXとデジタル化の関係について、説明しておこう。

 誤解されがちかもしれないが「DX」と「デジタル化」は別物である。

 たとえば、単純に紙の書類をデータ化するのは「デジタル化」である。

 (このデジタル化のなかにも、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」の違いがあるのだが、別の機会に説明しよう)

 そのデジタル化を踏まえて付加価値を生み、ビジネスモデルを変革することを「DX」と呼ぶ。両者はあくまで別物だが、先に「デジタル化」をしないと、「DX」の土台ができないのである。猫も杓子(しゃくし)も一足飛びにDXに取り組めるかというとまったくそうではない。まずは土台を整えることが先なのだ。

【イメージ:DXとデジタル化は別物】

 

世の中の企業はDXに取り組めるほどデジタル化が進んでいるのか??

 

 私の感覚では、DXの土台となるデジタル化は進みはじめているが、一部の領域のみで、全社のデジタル化までは到達していない。

 そもそも日々のニュースのなかでは「紙とハンコを撲滅」と言っている状態である。「DXだー!」と号令をかけている大企業のなかでも、「紙」と「ハンコ」がまだまだまん延している状況なのだ。

 世界に比べ日本の業務デジタル化はかなり遅れていると言っていいだろう。

 先ほども書いた通り、DX=「データとデジタル技術を活用して、ビジネスを変革し、価値を創出すること」。しかし、今は紙とハンコをデータ化・デジタル化するという、DX実現の前段階なのである。

 そう、アナログなやり取りをデータ化・デジタル化しないと、DXの一段目にすら進めないということだ。

 まぁ、コロナがあったからこそ「紙とハンコをなくそう!」となったわけで、コロナがなければ今までの商習慣は永遠と続いていたであろう。

 一度築いた習慣を変えるのはかなりのストレスである。「圧」がなければ変わらない。

 

デジタル化成功企業の声 

 

 弊社は業務をデジタル化するITツール(一般にワークフロー/Webデータベースといわれるもの)を大企業向けに提供しているのだが、大企業は特に紙とハンコにまみれており、DXを叫ぶ前に現場業務のデジタル化をどうにかしなければならない、と焦っている。

 DXとはなにもデジタルを使って新しいビジネスモデルを立ち上げるということ“だけ”ではなく、一足飛びにそのような変化を実現することもできない。だからこそ、「現場の業務のデジタル化」から取り組むことがDXの第一歩になるのである。

 われわれのお客さまのなかでも、コロナ禍をきっかけに業務のデジタル化を加速させている企業が多い。ここで弊社にいただいたお客さまからの嬉しい声をいくつか。

 ・30人もの紙とハンコによる承認プロセスをデジタル化。いままで数ヵ月かかっていた承認作業がわずか数日で完了

 ・ワークフローをデジタル化したおかげで全社の事務工数が3割削減

 ・コロナ禍前からデジタル化に取り組んでいたおかげで急なリモートワークにも対応できた―など。

 人間の頭や足を使ったややこしい承認プロセスをかんたんにシステム化できるわけないと悩むあなた。今やテクノロジーはものすごい進化を遂げている。迷っている時間はないのだ。すぐにでも紙とハンコのデジタル化を進めよう。

 

大企業のデジタル化が進まない理由①

 

 私が思う大企業のデジタル化が進んでいない要因のひとつに、「社員が疑問を持たない」という点がある。言い換えると、上層部が「社員に疑問を持たせない」ように縛ってはいないだろうか?

 日本人はとにかく「真面目」である。紙の書類を間違いなく的確に処理することがあなたの仕事だと最初に植え付けられれば、真面目な人間(=優秀とされる人間でさえ)はその通りに遂行するのである。「変えましょう」と言っても、「いえ、これは私の大事な仕事ですから!」と誇りをもって断固反対するのである。

 こういった積み重ねが全社のデジタル化を妨げる理由になっていないだろうか。新しいアイデアや変革というものは「疑問」や「不満」から生まれるものである。もしもあなたの会社から、業務に関する疑問や不満がまったく出てこない状況だとしたら、企業の健康度はかなり黄色信号である。

 それでも「デジタル化を先導する部署は、そのようなオペレーションを司る部署とは異なるので問題ない」と胸を張る大企業上層部の方々へ。デジタル化のアイデアが自然と現場から湧き出るものでなければ、企業全体の底力はたかが知れている。すべてを上から指示するのか? 効率が悪くてあっという間に数年たってしまう。今すぐ社員の頭を柔らかくすべく、まずは上層部の方から頭を柔らかくしていこうではないか。今やVUCAをさらに加速させた“SuperVUCA”の時代、変化に即座に対応できなければ生き残れない。

 

大企業のデジタル化が進まない理由② 

 

 そしてなかなかデジタル化が進まないもうひとつの理由が、いまだに「プラン偏重型」であること。「PDCA」Plan-Do-Check-Actionのなかの「Plan」に偏っているのだ。

 以前ならばPlanを練ることに時間を割き、満を持してDoしたものだ。

 しかし今やPlanに時間を割いている暇などない。世の中はそんなスピード感なのである。いつ何が起こるかわからないスピード感の世の中でいくら計画を綿密に立てたとしてもあっという間に崩れるのである。だれが今回のコロナをいち早く予測してプランを立てていただろうか。そして、いつコロナが収束するか予測できない状態でなにを計画するのだろうか。過去に蓄積されたデータからでは意味のある未来を予測できない。これからは今起きている事実を見極め、臨機応変に軌道修正する力が求められる。

 どう変えていくか。米国の「GAFA」などで見かけるのはOODAループという手法だ。OODAとはObserve(観察)、Orient(状況判断、方向づけ)、Decide(意思決定)、Act(行動)の略で、米空軍のパイロットが先の読めない空中戦のなかで成果を出すための意思決定プロセスとして発明されたものだ。

 素早く情報を収集し、それをもとに仮説を立て、選択肢のなかから決定し行動する。このループを何度も回し精度を上げていくのだ。

 また、スタートアップにおける重要なサイクルといわれている「Build-Measure-Learn(構築―計測―学習)」のフィードバックループという手法もある。疑問を持って、仮説をたて、とにかくやってみて、学ぶ。そして、その学んだことを次のループに生かす。

 フィードバックループにおける最も大切なことは「学び」や「発見」である。まずやってみないとなにも始まらないのだ。なにも起こらなければなにも学習できず、仮説の精度も上がらない。とにかく「まずはやってみる」、これが大事なのである。

 OODAループもBMLも、PDCAサイクルのように1度回すことで成功を得られるものではなく、何度も回すことでゴールの達成へと近づける手法だ。毎回の仮説構築段階で前回の判断の誤りに気付き、新たな仮説を基に次の行動を起こしていく。このスピード感がなければ先の見えないこの時代を乗り切ることは厳しい。

 現場業務のデジタル化において、プロセスがPlan偏重型になっていないか、見直してみることをお勧めする。

 業務のデジタル化においても、まずはやってみることが可能な時代だ。最近、ノーコード・ローコードツールの躍進がニュースをにぎわせている。デジタルを活用する方法も様変わりしており、「デジタルの民主化」はすぐそこまで来ているのだ。

 「社員が疑問をもたない」「プラン偏重型」のどちらも、高度経済成長期の大量生産、大量販売のビジネスモデルのなかではある意味「正解」だ。日本企業はそれで躍進してきた。

 しかし、今は “SuperVUCA”の時代。以前の正解は、すでに今の時代の正解ではないのだ。旧態依然とした仕組みや文化のままでは、それが大きな足かせになり変革を妨げてしまう。今こそメスを入れるときだ。

 

DXの前にまずは足元「業務のデジタル化」から 

 

 世の中の「DX! DX!」は、まだしばらく続くだろうが、まずはあなたの会社の足元=現場業務のデジタル化から始めよう。ビジネスモデルをDXする前に(または並行して)そこを整えないことには、後で足元からガラガラと崩れ落ちてしまう。

 さて、次回は、「デジタル化の本当の意味を知っていますか?デジタイゼーションとデジタライゼーションの違い」というテーマでお送りします。

 

【この記事の執筆者】

金井 優子(かない ゆうこ)

株式会社ドリーム・アーツ 社長室 コーポレートマーケティンググループ ゼネラルマネージャー

大手SIer出身。データ分析・活用をきっかけにシステムエンジニアからマーケティングに職種をチェンジ。現在はコーポレートマーケティング業務で自社のブランディング確立に奮闘中。

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