【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】抗がん剤副作用と手術後遺症

2020年11月18日=591日
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


 

昨日11月17日はがんで亡くなったオヤジの命日である。

2013年に旅立った。7年前の同日、午後1時45分、私の勤務する緩和ケア病棟で、わが息子にみとられた。死亡診断書も私が記載した。

オヤジの死亡診断書を作成する医者も、そう多くはいないことだろう。ありがたい体験だ。しかし当時、7年後の自分を想像だにできなかった。そう、現役がん患者のわが姿を。

三重県御在所岳の紅葉を鈴鹿スカイラインから望む。2020年11月

三重県御在所岳の紅葉を鈴鹿スカイラインから望む。2020年11月

一個人の感想を述べます

おととし2018年6月に胃ジストの手術後、間もなく始まった抗がん剤治療を私は続けている。昨年2019年4月に肝臓転移を認めたあと、いまでも。

抗がん剤治療そして手術後遺症に苦しみながらも、がんを生きる自らを今日は振り返りたい。

具体的な変化とその対策を挙げる。医学的に根拠ある記述は教科書などに譲るとして、通販ならぬここは一個人の感想を勝手気ままに述べさせてほしい。

だからがん患者全般に対してではなく、こんな患者もおると気楽に読んでいただけましたら甚だ幸いに存じます。

 

抗がん剤の副作用 ~ただれる~

まずは、抗がん剤の副作用。現在のがん治療は、抗がん剤スーテントの内服である。

 

【口・舌がただれる】

スーテント:ひと粒7500円を1回にふたつ飲むので15000円。保険3割で1日あたり5000円なり。1ヵ月で・・・恐ろしや

スーテント:ひと粒7500円を1回にふたつ飲むので15000円。保険3割で1日あたり5000円なり。1ヵ月で・・・恐ろしや

食事や飲水のため、何か薬を付けておくのは難しい。ただし口腔ケアは必要だ。

ここで歯磨き粉を使うとヒリヒリする。そこで私は、ブラッシングのみ。歯磨き粉ナシの歯磨きは、どうにも物足りなかった。恐らく半世紀以上、慣れ親しんできた行為だから。

もちろん口や舌にやさしい歯磨き粉もあろう。しかし慣れると乙なものだ。何せ余分に費用がかからない。抗がん剤で高額医療を支払う身なので大いに助かる。ちなみに鏡で己の舌を見るとゾッとする。

 

【味覚障害】

私の場合、からい・しょっぱいが分かりにくくなった。

だから当初、香辛料を目いっぱいかけてみた。すると・・・言わずもがな下痢が発生。これも苦しい。そこで今はからい・しょっぱいは分かりにくいまま、食べている。全く感じない訳ではないからだ。

それにからい・しょっぱいが分かりにくいと、一方で甘みを強く感じるようになった。発病前は好んで甘いものを食べるほうではなかったが、今はかなり菓子類を食べるようになった。和洋を問わず。

生きている間に甘みのおいしさを満喫できるようになった。

 

【口角が切れる】

食べ方やしゃべり方に原因があるのかどういう訳か、左よりも右のほうが切れやすい。

もちろん唇もただれやすいので、普段から唇そして口角もワセリン軟こうを塗る。そして痛みや出血が生じれば、ステロイドクリームの世話になる。

 

【指(手のひら側)が硬くなる、その皮がずりむける】

ヘパリンクリーム:いろいろ試したけど、今はこちらで毎日お世話になってます。ありがたい。

ヘパリンクリーム:いろいろ試したけど、今はこちらで毎日お世話になってます。ありがたい。

手足症候群と呼ばれる副作用だ。これにはヘパリンクリームを入念に塗って対処している。

ただしコロナ禍のいま入念に塗っても、手洗いを頻繁に行うためままならず。塗って洗って、また塗って。でも労を惜しんではあかん。己が生きるためやから。

ここでも痛みが生じれば、ステロイドクリームの出番だ。

 

【足のうらが硬くなる、その皮がずりむける】

手のひら同様にヘパリンクリーム、そして必要時ステロイドクリームを付ける。

ただし手のひらと違って体重の負荷がかかる足の裏である。片足で50キロ以上あった荷重はジストのおかけで大いに減じられた。とは言っても30キロ台はかかる。痛みが走ると、歩きづらくもなる。そこで発見したのが自宅内でのウエスタンスタイルだ。皆さんは何を想像なさるでしょうか?

その通り。屋内でもクツを履くようにした。もちろんここはジャパンスタイルで、いわゆる上履きだ。するとウエスタンなんて言わずに、小学校式と言えば良かった。

スリッパも試したが、歩く際に踵と隙間ができたあと接する時の衝撃が痛みをもたらすことから、クツの方がええです。ただしフローリングは平気やけど、畳は最初ためらった。でも今はもう平気。

 

【温水シャワーはやさしく】

口の中、口角、唇、手、足と同様に粘膜が障害を受けやすいのだろう。排便後トイレで温水シャワーを使うと、おしりがヒリヒリ痛む時がある。ここでも丁寧に洗うに他ならない。

熱すぎずぬるま湯で、勢いは弱く。

そして入浴時も、丁寧におしりを洗うようにしている。シャワーを使って。

 

【白血球(好中球)減少が必発】

抗がん剤治療中であれ休薬中であれ、白血球(好中球)はここ最近1000前後である。もちろん治療可否のボーダーライン1000を切れば、抗がん剤は中断となる。

しかし転移を抱える中、出来ることならば治療は続けたい。そうなるとすべきことは唯ひとつ。好中球減少時に発病しやすくなる感染症をひたすら予防することだ。

うがいそしてマスク。特に私が力を入れているのは手洗いである。

体の表面で最も汚れているのは手では無かろうか。触る、つかむ行為の下で、多くのウイルスや菌を付着させるリスクがあるからだ。そこで手洗いが重要となる。

仕事柄もあり元来、私は手洗いを入念にやるほうだった。手のひら、指の間、爪の隙間、親指そして手首と。一通り洗ってもう一度、という具合に。

それを今は倍の4回ほど繰り返している。もちろん極力、手で触らない・つかまないもポイントだ。コロナに限らず感染症は命取りになりかねない。現役がん患者にとっては。

友であるひとりの同士が以前こんなことを言っていた。

「ぼくは抗がん剤治療中、白血球が一度も下がらなかったんです。主治医の先生もビックリしてました。これだけは親に感謝です」

彼はすでにがんを克服しているサバイバーである。骨髄の力と言うか機能が並外れて備わっているのだろう。これもやはり定めだ。

 

【抗がん剤、手ごわい】

ところで手術直後から肝臓転移まで続けた抗がん剤グリベックにおいても副作用はあったが、ここ迄ではなかった。

そしてスーテントの標準治療では1日4カブセル服用だが、私は2カプセルにとどまる。副作用のせいだ。

さらに4週飲んで2週休むというスケジュールも思うようにいかぬことも。たとえば内服が3週間で中断する、あるいは休薬が3週間以上もかかるなど。

抗がん剤、なかなか手ごわい相手だ。

 

手術の後遺症 ~消化液の逆流~

次に、手術の後遺症。

私の場合は、胃がほぼ全て切除されていて、幽門部(胃の出口)あたりが少しだけ残された形だ。

つまり食道から胃にかけての胃入り口あたりは、全て切除されている。噴門部(胃の入り口)に約10センチの悪性腫瘍ジストが出来ていたからである。

【フラットで眠れない】

従って消化液が食道へ逆流しやすく、さらにはノドまで駆け上がってくる。これは苦しい。

これを防ぐために、胃切除後患者には下記がしばしば示される。

  1. 食後2~3時間は横にならない
  2. 就寝前2時間は食事を避ける
  3. 就寝時には頭を20~30度高くして寝る

私も特に3番目の事項を実践している。

しかし発病前はフラットで眠るのが日常の生活を送っていた。これも半世紀以上。

だから眠っている最中に無意識ながら体がずり落ちてきて、ハッと目覚める時がある。往々にして消化液逆流により生じたノドやけを伴って。

消化液逆流対策として現在、フォイパンとガスモチンを1日3回内服している。

 

【エゾリス食】

胃切除後の食事は1日5~6回に分けてとよく言われる。胃袋が無くなったいま、1回あたりに食べる量が少なく限られるからである。

ここで話題を変えてエゾリス。文字通り北海道に生息するリスだ。彼らはヒグマとは違って冬眠しない。と言うよりも冬眠できない。なぜならば生体の構造上、約3時間ごとに食事しないと生きられないそうだ。まさに現在の私である。

マツボックリを食べるエゾリス

マツボックリを食べるエゾリス

 

もはや食事という概念が失われた。さらに朝食、昼食、夕食も。

すなわち1日3回いわゆるガッツリ食事をとる形ではなく、食事でも菓子でも何でもOKなのでとにかく口にする。それもほぼ3時間ごとに。

だから夜中の2時でも3時でも何かを食する。私においては冬眠どころか、3時間を超えた睡眠も取れない。これも生きる術である

しかし消化液逆流に苦しみ一晩中イスに座ったままで夜を明かした日々を幾度も送った2年前を思えば、3時間で目覚めることなど全くいとわない。

もちろんこれら二つは一昨年、昨年と比べると、その程度は和らいでいる。2年前ならば、消化液逆流は連日ということもあり、また食事は1回あたりヤクルト1本すら飲めない日もあった。

実は2018年6月末に退院してすぐに書店で、胃を切った人向けの食事本を買った。2冊も。それらには退院して半月、1カ月、3カ月、それ以降と食事のポイントが記されている。

しかし私は全くそのペースに届かなかった。ただし書きの「回復のスピードには個人差がある」がむなしく心に響いた。

手術後2年以上たっても1食あたりいわゆる1人前は無理だが、当時を思えば、いまは雲泥の差だ。本当にありがたい。

工夫する。生きていたいから

抗がん剤副作用・手術後遺症といずれに対しても医療的に認められていること、同士(がん患者)から示されること、さらには自分なりに工夫してみることで、いろいろ対処している。なぜならば生きていたいからである。足し算命で。

いま口の周り、手のひらそして足の裏には塗り薬を付ける行為が加わった。かなり念入りに約10分はかけてやっているので、出かける前には慌ただしくなる。さらに外出時ポケットに塗り薬が、2本または3本入るようになった。

亡きオヤジが愛用していたシャツと半纏。ジストになり漸く着れるようになりました。嬉しい!

亡きオヤジが愛用していたシャツと半纏。ジストになり漸く着れるようになりました。嬉しい!

ところで今日2020年11月18日、足し算命は591となりました。

がん治療におけるわたくし一個人の“極意”を聴いてもらえた次第であります。うれしい!

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

 

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