【がんを生きる緩和ケア医・大橋洋平「足し算命」】転移と検査

足し算命581日=2020年11月8日
*がんの転移を知った2019年4月8日から起算


10月末から11月にかけての約10日間を振返る。この間、検査をふたつ受けた。まずひとつは、右あしの付け根にできた1センチほどのできもの。気づいたのは10月下旬。入浴時からだを洗っていた際、手に触れてわかった。ドキッとした。

気がかりなこぶ

抗がん剤治療を続けるいま、皮膚あるいは皮下にできたこぶはとっても気がかりだ。ジスト(消化管間質腫瘍)なる悪性腫瘍の転移じゃないか。あるいは別の悪性腫瘍もあり得る。2人に1人とも言われるがんを既に患っているが、他のがんにかからない保証は全くない。もしそんな保証があるならば、一度がんになった者はちょこっと気が休まるであろうに。

さてこの皮下腫瘤。実は今年6月にもおしりにできたことがある。その時は生検(悪性が疑われる際など生体から小切片を取り診断を確定すること)をしてもらい病理組織検査の結果、悪性では無く、感染性のものと診断されてホッとしていた。でも今回は何か触れた感じが違う。診察してくれた皮膚科ドクターも言う。

「前とは触った感じが違いますね」

不安は募る。従って今回も生検と相成った。結果が判明するには少々日数を要する。1週間後の診察を予約した。当たり前だが、「がんじゃないか」「がんだったら治療はどうなるか」などと、再診まで気が休まらない。

 

麻酔がかなり痛い

ところで皮下腫瘤(しゅりゅう)を生検する際には、痛くないように麻酔薬を同部に注入してもらうのだが、それにしてもこの麻酔薬注入がどうにも痛い。車の自動運転が間もなく可能になろうという時代、どうしてもっと痛くないように医学処置が行えないのか。何とかしてくれ、科学者たちよ!

しかしながら自分自身も患者さんに強いてきた。内科医を経て緩和ケア医となった私だが、局部に麻酔薬を注入して医学的処置を少なからず行ってきた。その際には、「痛くないように麻酔しますからね。ちょっと痛いです、ごめんなさいね」。

痛くないように麻酔するために、痛がらせる_とは、よく言ってきたものだ。しかもちょっとどころやない、かなり痛い。患者さん、本当にごめんなさい。

さて今回の生検結果。幸いなことに悪性腫瘍ではなかった。粉瘤(ふんりゅう)と呼ばれる良性の腫瘍だ。まずはひと安心。

 

何より怖いCT検査

そしてもうひとつ。こちらはわがジストの転移も含めた経過観察のために定期的に行っているCT検査だ。それも造影CTとなる。

造影CTとは造影剤の注射を行いながら撮影するものである。腫瘍をより正確に診断することを目的として。造影剤が血管に入るとCTでは簡単に言えば白く、くっきりハッキリ映ってくる。

 

さてがんサバイバーであれば、腫瘍マーカーという検査を知る人も多かろう。血液検査で、がんの再発や転移を知り得るひとつの指標である。しかしながらジストという悪性腫瘍では、その腫瘍マーカーに相当する血液検査がない。そこでCT検査の登場だ。

 

がん治療中の患者ならば血液検査は、少なくとも月に一度は実施しているだろう。場合によっては週に一回ということもある。私も同様だ。

さすがに毎月CTという訳にはいかず、3~4カ月に一度行ってきた。そしてこの検査が何よりも怖い。厳密に言えば、検査の結果が怖いのである。2019年4月に肝臓転移を認めてからは。転移の数や大きさが増していないかと。だからあらがう。たとえ半月でも、いや1週でも、CTを先延ばしにしようと。

 

「検査、受けなさい」

この時期いつも、友になったがん患者さんの言葉がよみがえる。60代の女性だ。海南病院(愛知県弥富市)の緩和ケア病棟で出会った。私は主治医ではなかった。だから緩和ケア病棟スタッフと言うよりも、患者同士として語り合い、しばしば私は励まされた。

「先生、そろそろCT受ける頃でしょ。怖がってまた先延ばしにしてるんじゃない?」

さらに付け加える。「私よりも生きてもらわにゃあかん、先生には。だから検査、受けなさい」

彼女は2020年6月下旬に旅立った。今もきっと天の上から励ましてくれていることだろう。彼女には感謝の極みである。本当にありがとう。

 

夜空に浮かぶ1等星

ようやくCT検査を11月に入って受けた。検査日が決まってから、さらに検査を受けてからその結果が判明するまで、気が気じゃない。そしてその結果やいかに・・・

1年ほど前からは同様だが一進一退。このまえ明瞭だった転移らしき腫瘍の影が薄まったかと思えば、別の場所に新たな腫瘍の疑わしき影が出現する。特に肝臓は大きい。さらに血管も多く走っている。従って白く映る部分が至る所に見られる。

 

【コケとシダ】三重県南部に住まう身内からもらったコケとシダの鉢です。華々しく豪勢な植物ではなく、しぶとく生きている感があり、私は大好きです。

【コケとシダ】三重県南部に住まう身内からもらったコケとシダの鉢です。華々しく豪勢な植物ではなく、しぶとく生きている感があり、私は大好きです。

 

ただし今回は疑わしき影の映り方が今までとは違っていた。今までには無かった場所に、一段と明瞭に輝いていたことが。まるで夜空に浮かぶ1等星のごとく。

血管と言うよりも腫瘍の可能性が高い。それも2カ所。しかし大きさが10ミリ程なので、がんと現時点で確定はできない。その結果、経過観察となる。

すなわち現在の抗がん剤を続けて、2021年2~3月に造影CT検査ということである。もちろんわたしの命が生きていればだが。

また抗がん剤であるスーテントを2週間休んだにもかかわらず、血液検査では白血球の回復・上昇がいまひとつで2000台。好中球に至ってはボーダーラインの1000をわずかに超える程度だ。そのうえ甲状腺ホルモンの値も正常以下。いずれも抗がん剤の副作用による。この状態で抗がん剤が再開されるかと思うとゾッとする。さらにそれらが下がることは想像に難くないからである。

 

今できることを頑張る

治療中のがん患者がもしがんと闘っていると表現するならば(私は闘っている意識はないが)、がんのみならず治療の副作用もその相手と言える。現役がん患者は大変だ。しかし疑わしき転移の輝きを少しでも減じるべく、スーテントの再開を私は決意した。

こんな具合でうれしい状況ではないが、気に病んでばかりもきりが無い。きりが無いことはあきらめる。そして今できることを頑張る。

丸1日は凹んだが、今回は意識の切り替えがちょこっと早かった(足し算命を1日生きて)。肝臓転移を初めて告げられ1週間ほど凹んだ2019年4月よりも。

 

モバイル始めます

翌日、近くにある作業服関連用品専門店でリュックサックを新調した。使い古した物があるにもかかわらず。さらにかかりつけの開業医でインフルエンザ予防接種を受けた。そして翌々日。家電量販店で新品のノートパソコンを購入した。

新調したリュックとパソコン。ただしパソコンにおいては自らで設定できないため、未だ使用にはいたらず

新調したリュックとパソコン。ただしパソコンにおいては自らで設定できないため、未だ使用にはいたらず

実はこの夏わたしは、特別定額給付金の10万円で新しいノートパソコンを買っていた。そのおかげでオンラインおよびフェイスブックが可能となった。それなのに新パソコンを何でまた買うの?でしょ。

今回は小型のタイプ。そう、持ち歩くことができるように。大きいのはわたくし現役がん患者には重たい。

 

自由にやらせてくれぇ!

 

すでに持ってるのにリュックサックとノートパソコンそしてインフルエンザ予防接種なんて、がんが治ってない患者には不要だと私は考えていた。今回のCT検査結果を知り1日生きるまでは。

しかし今は違う。何はともあれ今できることを、ひとつひとつやっていこう。

自らの詩(YouTube“足し算命520”)で己を満たしながら。これぞ正しく自己満足の世界。がん患者なら、自由にやらせてくれぇ!

今日2020年11月8日アサを迎えて、足し算命は581となりました。すべてのモノさま、本当にありがとうございます。

(発信中、フェイスブックおよびYоuTube“足し算命520”

 

 


おおはし・ようへい 1963年、三重県生まれ。三重大学医学部卒。JA愛知厚生連 海南病院(愛知県弥富市)緩和ケア病棟の非常勤医師。稀少がん・ジストとの闘病を語る投稿が、2018年12月に朝日新聞の読者「声」欄に掲載され、全てのがん患者に「しぶとく生きて!」とエールを送った。これをきっかけに2019年8月『緩和ケア医が、がんになって』(双葉社)、2020年9月「がんを生きる緩和ケア医が答える 命の質問58」(双葉社)を出版。その率直な語り口が共感を呼んでいる。


このコーナーではがんと闘病中の大橋先生が、日々の生活の中で思ったことを、気ままにつづっていきます。随時更新。

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