【コラム】ハンコのはなし 画像でいいんだ!?

 GMOインターネットグループの熊谷正寿会長兼社長がツイッターで印鑑廃止を宣言した。

 対利用者の手続きからハンコを廃し、取引先には電子契約を要請するとのことだ。

 うん、もうそうしようよ。

 GMOといえば、渋谷の渋谷セルリアンタワーに本社を構える一部上場企業である。「一部上場」であることのブランド力には近年陰りが見られるが、依然として大きな影響力を持っている。この決定が波及していくといいなと思う。

 ぼくはハンコが嫌いである。

 ハンコそのものが嫌いなわけではない。あれはあれで工芸品で、その技術が受け継がれたらいいと思うし、親戚にはハンコ屋さんもいる。

 でも、あの運用のされ方はダメだ。

 業務の高度化を阻んでいる。デジタル化というとアレルギー反応のある人もいると思うが、デジタル化というのは単に業務を情報機器やAIに置き換えることではなく、業務そのものを高度化して、商売の価値を高めることだ。情報機器はその手段にすぎない。

 マスクが全国民に行き渡るようにするのだって、行政や流通の仕組みがデジタル化されていれば、もっとうまく素早くやれた。好き嫌いや方針の違いではなく、デジタル化はもう必須だと考えてよい。

 それを阻むものはいろいろあるが、ハンコは端的である。

 PCとネットがあればすべて済むものを、わざわざ紙に印刷して捺印し郵送する。どんな業務効率化施策も台無しにする手順である。デジタルのラインと紙のラインで2系統の仕事が走ることになるので、中途半端なデジタル化はかえって仕事の手間とミスを増やす。

 今までは単に仕事の邪魔だっただけだが、今回のコロナ禍に至っては、リモートワークで済むはずの仕事なのに、ハンコを押すために出社する事態まで出来している。人の安全まで阻害しているのだ。

 最近とても拍子抜けした出来事があった。いつものように書類にハンコを要求されたのだが、「あー。印刷して捺印して郵送するんですね。それとも捺印したやつをスキャンして、PDFで送りますか?」「いえ、ハンコの画像をWordに貼り付けて、Wordのファイルをメールで送ってくれればいいです」。

 なんだそりゃ。

 百歩譲ってハンコに意味があるとしよう。その意味は本人確認である。本人しか持っていないハンコで書類に押印するから、その書類を本人が作成・承認したと証せるのだ。

 それが、ハンコの画像でいいって。

 そんなのいくらでもコピーが作れるし、拡散の防ぎようも、真贋(しんがん)の確認のしようもないじゃん。

 しかも、その会社は電子文書の本人性確認に実効がある、電子証明書は認めていないのだ。

 さすがにここ一社だけのことなのでは? と思ったので、試しに別の会社にも「画像でいいですか?」って言ってみたら、そこも通っちゃったのである。そのときは驚いてメールを二度見した。

 もう、誰もハンコに本人確認機能など求めていないのである。あれは、儀式か様式美で、仕事をした気になるためのサプリメントだ。仕事ごっこや仕事のない社員の暇つぶしには向いているが、ビジネスには意味がない。

 だから、もうやめてもいいと思う。ちゃんとした仕事には電子証明書を使えばいいし、仕事ごっこの会社には印鑑の画像を貼り付けておけば十分だ。

 竹本直一氏がIT政策担当大臣になってくれたことは、結果的にこの国の将来のためにはとてもよかったと思う。「こんな人で大丈夫なのか?」と、みんながITについて考え始めるきっかけになったし、今回は「しょせんは民間の話だ」と言ってくれたので、「あ、勝手にやっていいんだ」と嫌でも気付かせてもらえた。

 コロナ禍ではいろいろあったけれども、失うものばかりでは悔しいので、ポジティブな変化を生みだし、それを将来へつなげていければと思う。

【筆者略歴】

 岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」(講談社)、「いまさら聞けないITの常識」(日本経済新聞出版社)など。

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