【コラム】OKになった厚底シューズ 世界陸連に求められるよりよい規則作り

 男女マラソンの世界記録更新に貢献し、正月の箱根駅伝でも各大学の選手が履いて新記録ラッシュを生んだ陸上長距離用の厚底シューズが東京五輪でOKとなった。1月15日に新しい規則によって禁止されると英国メディアは報じたが、同31日に世界陸連(WA)が禁止の見送りを発表した。

 新ルールでは①靴底の厚さは4センチ以下②靴底のプレートは1枚まで③4月30日以降の大会では4カ月以上前から市販されているものに限る―などが決められた。この半月の間、東京五輪を目指すマラソン選手たちは「厚底ショック」に翻弄(ほんろう)された格好だ。昨年秋に開催場所の札幌変更が突然決まり、コース設定にも思わぬ時間がかかった。1周目20キロ、後半10キロ2周の変則的なコースが確定したのは12月19日。騒動がやっと収まったと思ったら、また大きな問題が浮上したのだから、ランナーや関係者はたまらない思いだっただろう。

 WAの対応は後手に回った。最大のイベントである五輪を半年後に控えたというこの時期は、最悪のタイミングだった。ここで全面禁止となれば、その影響は計り知れないし、開発メーカーや選手らの怒りも噴出しただろう。2018年9月にエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)がベルリン・マラソンで世界新記録(2時間1分39秒)を出した時に厚底シューズを使っており、同選手はさらに改良された特注品で昨年10月に史上初めて2時間を切る1時間59分40秒(記録は非公認)をマークした。この事実をみてもWAの責任は免れないだろう。もっと早く対処すべきだった。

 ここで思い出すのはスピードスケートのスラップスケートだ。1998年長野五輪の1シーズン前、96年11月に実績のないオランダ選手がこの「魔法の靴」を履いてワールドカップで初優勝。国際スケート連盟は翌年1月に「禁止する理由がない」と手際よく判断した。スラップはかかとの部分がバネ仕掛けでブレード(刃)から離れる革新的なスケート靴。刃が氷上を滑り続けるため減速が抑えられ、あっという間に選手に広まった。長野五輪はスラップでないと勝てなくなり、スタンダードとなった。

 ポイントは公平性が保てるかということだろう。新しい用具の価格も大きな問題となる。92年アルベールビル五輪スピードスケート男子500メートルの銀メダリスト、黒岩敏幸さんは「値段は従来の靴よりも若干高い程度で、驚くほどの金額ではなかった。私はスラップが出てきたので長野五輪出場がかなった」と述懐している。今回、使用OKとなったナイキの厚底シューズは約3万円。スケートよりぐっと裾野の広い陸上だけに、経済的な理由で使えない選手のためにはもっと安い方がいい。

 もう一つは、従来のシューズを使い続ける選手がいることだ。ここもスラップ一色となったスケートとは大きく異なる。東京五輪は今回のルールで乗り切ることになるが、WAにはこの問題を今後も徹底的に議論してもらい、選手のためによりよいルール作りをしてほしい。

【筆者略歴】

 後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。

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