【コラム】マイナンバーカードで便利になったのか

 そろそろ年末だ。

 この時期は、またアレのお世話になる機会が多い。

 そう、マイナンバーだ。

 あれは確か、行政の効率化と国民の利便性の向上を掲げて登場した。

 いろいろ突っ込みどころはあるが、国民の利便性に限定しても、どこか向上したところがあるだろうか。

 普通に暮らしていて、最もマイナンバー遭遇率が高そうなのは確定申告あたりだ。

 確かにマイナンバーがあると、最終的に郵送する書類の数が減らせる。

 でも、減るだけだ。

 なんだかんだ言って、ほとんどのケースで何らかの証憑(ひょう)類の郵送が発生する。

 電子手続きになるから便利なのではない。電子手続きに一本化され、それがクリアに使いやすく、加えて紙の手続きがなくなるから便利になるのだ。

 国税電子申告・納税システム(e―Tax)は役所系列のシステムでは格段に使いやすく、毎年進歩し続けている稀有(けう)なシステムだと思う。だが、それでもアマゾンでモノを買うよりはずっと扱いにくい。その上、郵送の手間が残っているのでは、体感値としての利便性向上はほとんどない。

 マイナンバーの場合、日常業務ではかえって利便性は停滞した。

 何かで謝金など発生しようものなら、いちいちマイナンバーのコピーを郵送しなければならない。めちゃくちゃ面倒くさく、利便性はゼロ近似である。

 これは、マイナンバーの理念の一つである「公平・公正な社会の実現」には寄与しているかもしれない。しかし、繰り返すが、ああいうお題目は両立させてこそ意味があるのだ。

 どちらかしか実現できないのであれば、あんな大仰なシステムを大枚はたいて実装しなくても、やりようはある。

 あれを喜んでいるのは日本郵便だけではないのか。いや、郵便事業は赤字で集配負担だけが大きいから、日本郵便ですら迷惑なのかもしれない。

 国で使う仕組みなのだから慎重な取り扱いが必要なのは事実である。でも、非効率=慎重ではない。むしろ、非効率で無駄なことに心を砕き、身体を拘束されるさまが美談で美徳で誠意を見せるすべで、慎重かつ誠実な行動なんだ、というこの国の雰囲気を変えることにこそ、マイナンバーカードのような仕組みは活用されるべきだが、いまの使い方では非効率の礼賛に拍車をかける結果になっている。

 私が「人工知能(AI)が普及しても、人間の仕事はなくならない」と常々述べている理由は、まさにここにある。人間の、無駄な仕事を思い付く才能は圧倒的であり、何かの仕事をAIに奪われても、必ず奪われた以上の仕事を思い付くだろう。

 ただ、その仕事が、楽しいものとは限らない。マイナンバーの番号を問い合わせるための封筒の袋詰め作業は、労働市場を拡大するかもしれないが、クリエイティブで刺激にあふれた業務とはちょっと距離がある。

 あるタスクを安全に行う方法については、どの組織も困難に直面している。しかし、アマゾンが「秘密鍵の交換は慎重に行うべきだから、購入ボタンをポチる前にセキュリティ宅配便で送るよ」とは言い出さないし、グーグルも「指紋認証のデータは安全確実な受け渡しが必要だから、ちょっと本社まで来てくれ」なんて言わない。

 お金と努力を注ぎ込んで何かを成すなら、革新や成功を成すべきだ。

 「デジタル化はした(何も変わってないけどね)」とアリバイ工作をするだけだと、表面は平静を保てるし、誰の仕事も奪わないかもしれないが、他の国や企業はずっと先へ進み、国自体が沈んでいってしまうかもしれない。

【筆者略歴】

岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」(講談社)、「いまさら聞けないITの常識」(日本経済新聞出版社)など。

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