【会社法入門講座⑥】日産・内田新社長の足かせ―指名委員会等設置会社の光と影

プロローグ・日産経営陣の交代

  日産自動車で、また、激震が走りました。

 9月に入って、西川広人社長も、本来の固定報酬のほかに、約4700万円も水増しした高額の業績連動報酬をもらっていたことが報道され、くすぶっていた西川社長の進退問題が一挙に噴き出しました。

 9月9日の取締役会では断続的に約5時間もの討議が行われ、午後8時に予定されていた記者会見の直前に、取締役会議長が西川社長に対して辞任を迫り、最終的には西川社長も受け入れて、16日付で社長を辞任しました。

 そして、10月8日には事前のアナウンスもなく突然、取締役会で内田誠専務執行役員を新社長に内定したことなどが発表され、さらに11月1日には、内田新社長を中心とする新体制が公表されていたのよりも早く12月1日に前倒しして発足することが発表されるなどして、世間の注目を集めました。

 そこで、今回は、この日産における社長交代を取り上げて、会社法の観点から検討したいと思います。これまでと同じく、株式会社を単に「会社」といいますので、そのつもりでお読みください。

辞任した西川社長の地位はどのようなものだったのか?

 まず、辞任した西川社長は、正式には、どのような地位にあったのでしょうか。

 辞任する前の西川社長の肩書は、「取締役代表執行役社長CEO」という耳慣れないものでした。これは、カルロス・ゴーン前会長による一連の不祥事発覚を受けて、今年6月25日の定時株主総会で日産内部の最高規範である「定款」を変更して、監査等委員会設置会社から、指名委員会等設置会社という独特のシステムに移行したことによるものです。

 これに対して、日本の多くの会社の社長の肩書は、皆さまにもなじみがある「代表取締役社長」というのが普通です。

 株主総会で選任された取締役が会社の業務を執行し(会社法329条1項、348条、362条など)、代表取締役が業務執行に際して会社を代表するという前提で(349条)、そのような代表取締役が、会社内部の職制上のトップである「社長」に就任します。ただ、「社長」という呼称は、慣行上のもので、会社法上のものではありません。会社法では、代表取締役が正式な会社の代表者なのです。

 ところが、日産が移行した指名委員会等設置会社では、会社の経営と監督とを分離して、取締役には業務執行権限がなく、業務の執行は「執行役」という地位の人が行い、執行役の中から選定された「代表執行役」が会社を代表して、取締役・取締役会はその監督に専念するというシステムなのです(415条、416条1項2号、418条、420条など)。

 このように、取締役には業務執行権限がありませんから、取締役が業務執行の際に会社を代表する社長に就任することはできません。会社の業務執行のトップである「社長」には、代表権限のある代表執行役が就任しますので、肩書は「代表執行役社長」なのです。

 なお、「CEO」というのは、最近のはやりで、アメリカ流のChief Executive Officer(最高経営責任者)の略称です。

 しかし、「社長」も「CEO」も、会社法上の正式な地位ではありませんし、どちらも会社内部の職制上のトップであることを示していますから、両方書くのは呼称の重複ともいえるのですが、場合によっては意味があります。

 日本の会社では、「社長」だけではなく、「会長」も存在することがありますね。そのような場合には、実態はともかく、職制上はCEOと付いている方が経営陣のトップだからです。

 そして、西川社長は、株主総会で選任されて「取締役」も兼ねていましたから、厳密にいえば、「取締役」「執行役」「代表執行役」「社長」「CEO」という五つの地位を持っていたのです。

西川社長は何を辞任したのか?

 このように、西川社長は、「取締役代表執行役社長CEO」だったのですが、このうち、「執行役」「代表執行役」「社長」「CEO」という地位は、取締役会で選任・選定されたもので、解任・解職も取締役会の権限ですから(402条2項,403条1項、420条1項,2項、定款等)、取締役会に辞任を申し出て承認されれば、その地位を失うことになります。これに対して、「取締役」の地位は、株主総会の決議で選任されたもので、その解任も株主総会の権限とされていますから(329条1項、339条1項)、取締役会は、取締役に対して辞任を求めることはできませんし、取締役からの辞任の申し出を承認することもできません。

 今回、西川社長は、取締役会の求めに応じて社長を辞任したのですが、正式には、取締役会によって選任・選定されていた「執行役」「代表執行役」「社長」「CEO」という四つの地位を辞任したのです。これに対して、「取締役」としての地位は、次の株主総会(臨時株主総会・定時株主総会のどちらでもかまいません)で解任されるまでは失いませんから、西川前社長は、現在も日産の「取締役」なのです。

西川社長はなぜ辞任に追い込まれたのか?

 ところで、西川社長は、今回の高額な業績連動報酬の水増しが明らかになった後も、自分が指示したことではないし、受け取った全額を返還もしているから、責任問題にはならないと考えていたようです。しかし、結果的に取締役の多くが西川社長の早期退陣に賛成し、取締役会で予期せぬ辞任に追い込まれました。

 西川社長が突然の辞任に追い込まれたのは、問題の内容が、ゴーン前会長と同質の業績連動報酬の水増しという不祥事であった上、もともと西川社長がゴーン前会長の片腕であったことや、直前に日産の2019年4月~6月期の営業利益が前年同期比で98.5%も減少し、わずか16億円にとどまり、赤字寸前まで業績が悪化していることが報道されたというタイミングの悪さも重なって、早急な経営陣の刷新が必要だという雰囲気があったことは否定できません。また、西川社長がルノーの影響をできるだけ排除しようとしていたため、ルノー側との関係が悪化していたことが大きな要因であったことは明らかです。

西川社長は自分が推進した指名委員会等設置会社という制度に首を切られた

 しかし、このような事情だけが辞任の理由ではありません。西川社長は最後まで辞任するつもりはなかったようですから、西川社長を急な辞任に追い込んだ本当の理由があったはずです。結論からいえば、西川社長が辞任を受け入れざるを得なかったのは、日産が「指名委員会等設置会社」という形態に移行していたからです。

 この指名委員会等設置会社という会社形態の原型は、02年の商法改正の際、取締役会に外部の目を取り入れるということでアメリカの会社に倣って導入されました。

 その後、05年の会社法に引き継がれて、14年の会社法改正で「指名委員会等設置会社」という形態に衣替えしたものです。

 この指名委員会等設置会社では、会社の経営と監督の分離を徹底するため、取締役会の中に、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という三つの委員会が設置され(2条12号)、指名委員会が、株主総会に提案する取締役の候補者などを決定します(404条1項)。

 しかも、各委員会の委員の過半数は社外取締役でなければならないとされていますから(400条3項)、構造的に、会社内部出身の取締役は少数派になってしまいます。指名委員会等設置会社という形態は、このような社外取締役が過半数を占める取締役会が、社長である「代表執行役」をいつでも解職することができるシステムなのです(420条2項)。

社外取締役とはどのような制度なのか

 それでは、社外取締役には、どのような人が就任するのでしょうか。

 簡単にいえば、その名の通り、その会社の業務執行とは直接関係のない社外の人物に取締役になってもらいます。日本の会社では、従業員から順次昇進して、最後に取締役などの役員に就任することが普通ですが、そのような内部登用がなれ合い体質を生み、内部監督も十分ではなく、斬新な成長戦略の採用も容易ではないという批判もあって、アメリカ流に、取締役会に外部目線を導入して監視・監督を強めようというのです。

 そのような趣旨から、社外取締役の資格要件は非常に厳しいのです(2条15号)。現在の要件をざっくりいえば、社外取締役に就任する10年前からその会社や子会社の業務執行取締役や会計参与や監査役などの関係者ではなく、その近親者でもないことが必要です。

 ただ、実際問題として、このような厳しい資格要件を満たす人であれば、それまでその会社には無関係だったのですから、会社の業務や実情等に精通していることは期待できません。

 そこで、お飾りなら世間的に見栄えのする立派な経歴の持ち主といった人がいいということで、多くの会社が元高級官僚や有名企業の経営者や、著名な学者などで無難な人を社外取締役に選任しているため、何社もの社外取締役を掛け持ちする人もいて、ますますその効果を疑問視する声も少なくありません。

日産でも社外取締役が多数を占めている

 さて、日産ではどうなのでしょうか。

 日産のホームページで確認すると、日産には11人の取締役がいますが、日産内部からの取締役は、西川前社長、山内康裕社長代行のほか、日産の筆頭株主であるルノーのジャンドミニク・スナール氏、ティエリー・ボロレ氏の4人だけで、残りの7人は社外取締役なのです。

 この7人の社外取締役のうち4人は日本人ですが、石油元売り大手の相談役、経済産業省のOB、女性レーシングドライバー、元銀行役員というメンバーです。残りの3人は外国人で、ミシュラン、メリルリンチ、ソニーの関係者です。しかも、スナール氏とボロレ氏も、本来はルノーの役員であり、日産の内部関係者ではありませんから、実質的には、社外の取締役が9人という構成なのです。

西川社長は取締役会のコントロールを失っていた

 西川社長は、今回の報酬水増し問題の発覚後も、改革にめどがつけば退任することを明らかにすることで、早期退任は避けられると考えていたようです。しかし、日産の取締役で、取締役会の副議長でもあるルノーのスナール会長は、この9月9日の取締役会にテレビ会議で参加して、ルノーの影響力をできるだけ排除しようとしていた西川社長の早期退陣を強く求めたようです。

 この取締役会は延々と5時間もかかったのですから、当初は、社外取締役の多くが西川社長の早期退陣に賛成していたわけではないことがうかがわれます。

 しかし、社外取締役は、せいぜい月に1回(会社によっては数カ月に1回)程度の取締役会に出席するだけで、会社の実情等に詳しいわけではありません。有力な意見に影響されやすく、世間の評判や建前に弱いという傾向があります。今回は、西川社長について、ゴーン前会長からの負の遺産である業績連動報酬の水増しという不祥事が報道され、早期退任を求める名分が明らかになった以上、仮に内心では、スナール会長の意見に反対であっても、社外取締役が最後まで反対し続けることは困難だったでしょう。

 西川社長は最後まで抵抗したようですが、最終的には社外取締役が一致して早期辞任に賛成したため、西川社長もこれを受け入れざるを得なかったと報道されています。仮に辞任を拒否すれば、西川社長は、取締役会で代表執行役社長という地位を解職されるという不名誉な結果を残したでしょう。

日産の新体制はトロイカ方式になる

 西川社長の辞任に伴い、山内執行役COO(最高執行責任者と呼ばれ、経営陣のナンバー2であることを示しています)が社長代行に就任し、新経営陣は改めて検討することになりました。

 しかし、冒頭でも触れたように、10月8日、日産の取締役会は、事前のアナウンスもなく突然、次期経営陣を発表しました。後任の社長CEOには、内田誠専務執行役員を就任させ、COOには、日産グループとなった三菱自動車COOのアシュワニ・グプタ氏を充てた上、新たに副COOを設けて、関潤専務執行役員を充てるという体制です。

 報道によれば、上記のような厳しい状況に置かれている日産の困難な状況を乗り越えるには、日本人の内田社長、インド人のグプタCOO、技術畑の関副COOというトロイカ(3頭立ての馬ぞり)方式を採用して、集団指導体制で切磋琢磨(せっさたくま)するのがよいとの考えによるものだとされています。

 そして、内田次期社長は、12月1日までに取締役会で、新たに執行役に選任され、代表執行役に選定された上、社長、CEOにも指名されて、「代表執行役社長CEO」に就任することになります。しかし、次の株主総会で取締役に選任されるまでは「取締役」ではなく、取締役会メンバーではありませんから(それまでは、西川前社長と山内前社長代行が取締役にとどまっています)、法的には発言力の弱い経営トップの誕生ということになります。

日産の経営幹部は46人もいるのに…

 では、なぜ、次期社長は内田専務執行役員なのでしょうか。

 改めて日産のホームページで経営陣を確認してみると、日産には、8人の執行役と38人の執行役員がいて、合計46人の経営幹部がいます。

 内田氏の内部序列は、この46人中21番目です。専務執行役員は、執行役ではありませんから、会社法上の業務執行権限はなく、普通であれば、次期社長に指名されることはまず考えられません。日産の社外取締役は、なぜ、20人をごぼう抜きにして、内田氏を次期社長に内定したのでしょうか。

 実は、ルノーのスナール会長は、多忙にもかかわらず、10月8日の取締役会の前にフランスから来日して、関係者と面談を重ねていたと報道されています。スナール会長は、ルノーの影響力をできるだけ排除しようとしていた西川社長の早期退陣を求めていただけではなく、経営陣の主要メンバーにルノー出身者を入れるよう強く求めていました。

 内田次期社長については、中国での日産の合弁会社である東風汽車有限公司の社長であったと発表されていますが、日産のホームページで経歴などを確認してみると、06~12年まではルノー日産共同購買組織のマネジメントを担当し、12~14年までは韓国のルノー・サムスンに出向していて、ルノーと強いつながりがあることが分かります。

 また、次期COOに就任するグプタ氏は、三菱自動車のCOOからの横滑りですが、もともとはルノーから日産に派遣されていた人物です。今回の大抜擢(だいばってき)による新体制は、当然ながら、ルノーのスナール会長の意向に沿ったものなのです。

 しかも、11月1日の臨時取締役会では、ゴーン前会長・西川前社長と関係が深かった軽部博執行役CFO(最高財務責任者)と川口均執行役副社長の2人の日本人は退任して、新たに外国人であるスティーブン・マー常務執行役員がCFOに、ホセ・ルイス・バルス専務執行役員が副社長に、それぞれ就任することも決定されました。

 さらにいえば、内田次期社長、関次期副COO、スティーブン・マー次期CFOは、先ほど触れた中国での合弁会社である東風汽車有限公司の社長や経営幹部を務めていた仲間でもあるのです。

 いかがですか。新体制下の日産は、実際には、ルノーのスナール会長が実権を握ったといっても過言ではないのです。

内田次期社長にとって指名委員会等設置会社が重い足かせになる

 今回の経過を見ると、日産が6月25日の定時株主総会で指名委員会等設置会社に移行していなければ、いかに筆頭株主であるルノーが西川前社長の早期交代を望んでいても、9月9日の時点で辞任に追い込まれることはなかったでしょう。

 西川前社長は、反対を押し切って自ら推進した指名委員会等設置会社という制度によって首を切られたのも同然です。西川前社長の誤算であり、皮肉な結果としかいいようがありません。

 また、日産が指名委員会等設置会社に移行していなければ、新経営陣がルノーの意向に沿って占められることもなかったでしょう。一連の経過は、日産の筆頭株主であるルノーが、特にスナール会長が、指名委員会等設置会社への移行を冷徹に見極め、その制度を最大限に利用して、日産に対するコントロールを強めたことを如実に示しています。

 内田次期社長にとって、低迷している業績の早期回復はもとよりですが、筆頭株主であるルノーとの関係調整が最大の課題になり、いつでも社長の首をすげ替えられる指名委員会等設置会社という枠組みが、重い足かせになることでしょう。

エピローグ

 今回の日産経営陣の交代は、日本の多くの経営者に対して、指名委員会等設置会社では社長の取締役会に対するグリップが非常に弱いことを認識させました。大きな問題がなくても、経営者は、社外取締役によっていつ首を切られるか分からないのですから、指名委員会等設置会社への移行をますますちゅうちょするのではないでしょうか。

 もともと、この指名委員会等設置会社という制度は、アメリカの会社形態を模範としたもので、利益至上主義による極端なコストカットなどの効率経営を求めており、株主に最大の利益をもたらさない経営者は首を切る、もうけが少ない会社はつぶれて当然、という弱肉強食の金融市場資本主義の完成形のような制度です。

 しかし、株主の利益だけが会社の存在意義ではありません。会社は、従業員には仕事と賃金等を与えて、その家族の生活も保障しています。取引先や債権者には代金や利息等を支払い、消費者には生活に必要な製品やサービスを提供しているほか、災害支援や慈善事業などで地域社会に貢献し、さらに、公租公課等を支払って国や自治体の活動を経済的に支えています。

 指名委員会等設置会社に移行した日産が、筆頭株主であるルノーの利益の最大化を目的として会社を経営するのではなく、従業員やその家族、取引先や債権者、消費者、地域社会、さらには国や自治体などの多くの関係者の利益をもバランスよく考えて、社会に役立つ会社を目指してほしいと願うばかりです。

 お読みいただき、ありがとうございました。

【筆者略歴】

須藤 典明(すどう・のりあき) 日本大学大学院法務研究科教授。司法研修所教官(民事裁判・第一部)、東京地方裁判所部総括判事、法務省訟務総括審議官、甲府地方・家庭裁判所長、東京高等裁判所部総括判事などを経て現職。弁護士。

「持続可能な食と地域を考える」シンポジウム
スポーツ歴史の検証
スポーツ歴史の検証
TAFISAワールドコングレス2019

K.K. Kyodo News Facebookページ

ニュース解説特集や映像レポート、エンタメ情報、各種イベント案内や開催報告などがご覧いただけます。

矢野経済研究所
ふるさと発見 新聞社の本
DRIVE & LOVE
11月11日はいただきますの日
野球知識検定
キャッチボールクラシック
このページのトップへ