【コラム】学校の情報伝達手段―いまだに紙が主流の教育現場

 大学の現場はだいぶ変わった。

 ちょっと前まで、教室フロアの設計で何に一番気を遣うといって、収容定員とアメニティーだった。アメニティーといえばまずトイレの設備ときれいさだが、椅子の選択にもかなり心が砕かれた。

 あまり硬過ぎては学生が講義に集中できないが、座り心地が良過ぎても眠ったり泊まったりする子が出てくる。

 「ごゆっくりお過ごしください」と満面の笑みを浮かべつつも、硬い椅子とキンキンに冷えた空調を提供するシアトル系カフェのような、絶妙なバランス感覚が求められたのである。近年のオープンキャンパスや校舎見学会はまず間違いなくご両親も一緒にお越しになるので、生半可な対応ではどんな意図でその教室や動線がデザインされたのか、すぐに見破られてしまう。

 ところがここ数年は、アメニティーは割とどうでもいい。

 「電源がいくつあるのか」「それはいつでも使えるのか」「キャンパス内にWi-Fi(ワイファイ)の死角はないのか」―。チェック項目はここだ。

 BYOD(私物の業務利用、学校利用)が増えたこともあるが、学生にとって、スマホやノートパソコンは完全に紙とペンを置き換えたデバイスである。

 自分自身を省みても、もうペンケースを持ち歩かなくなって10年以上になる。現金もそうだ。自分がこれだけデジタルデバイスの恩恵を享受しておいて、学生に使うなとは言えないし、言うつもりもない。むしろけっこう時間がかかったなあ、というイメージである。

 講義中にスマホを使っているのも、当たり前の光景になった。以前は注意しようかなと思っていたのだが、けっこう授業に関する調べ物をしている子が多いので、やめることにした。

 板書を写真に撮るのは、本当はそこだけは手書きにした方が記憶効率がいいとは思うのだが、他の資料とのリンクを考えると仕方がないかなとも思う。

 もちろん弊害もある。

 講義中にもツイッターがどうしても手放せない、依存症一歩手前の学生は激増したし、バッテリーがあがれば、しばらく社会活動ができない。

 こちらも、講義特有の「ここだけの話」や「ここだけの資料」というのは、学生に見せてあげにくくなった。全員がスマホという高性能盗聴・盗撮機を持っているのだから、どうしても慎重にならざるを得ない。

 学校からのお知らせも、電話には出ないし、メールも読まないので、会員制交流サイト(SNS)の利用が増えた。賛否はあるかと思うが、情報共有速度の高進は明らかである。雨後のたけのこのように登場しては消えていく情報機器やアプリケーションを、おそらくは作り手も意識していないような使い方で自分の生活を充実させるその手腕は、素敵だと思う。

 一方で、小学校や中学校の(親として参加する)教育現場は、どうだかなあと思う。児童・生徒に教える場はいいのだ。SNSをまるで「そんな汚いものは社会に存在しません」とでも言うかのように隠蔽(いんぺい)するような体質はだいぶ改善された。IT機器やアプリケーション、新規カリキュラムの導入は、少なくとも都市部においては目覚ましいものがある。子どもたちを守る意味もあるし、私的な情報機器の抑制的な使い方を主張したくなるのもよく分かる。

 問題は教員や両親の方である。

 特にPTAはすごい(個人の感想です)。

いまだに主要な情報源は手渡しで回ってくる紙である。それも、一般的にはついぞ見ることがなくなったB判の用紙がまだまだ現役だ。ワープロソフトで作っているのに、メールやSNSでは送られてこない。

    何かというと、万難を排してリアルな出席を求められる会合があり、誰も喜びそうにない催しのために東奔西走し、物事を決めないのが目的であろう超長時間の会議がある。ちょっとしたブラック企業である。

   対面コミュニケーションの重要性はとてもよく分かる。モンスターペアレントの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)が社会問題化する中、みんなで会って仲良くなっておくのはとても大事だ。でも、精神論的強硬さで会い続け、紙を使い続け、仕事を増やし続けるその体制下で、子どもに対して「論理的な思考力を養おう」「世界で戦える創造力ある人材になろう」「働き方を改革して、豊かな人生を送ろう」とハッパをかけるのは、なんだかものすごく大きな欺瞞(ぎまん)である気がするのだ。

【筆者略歴】

 岡嶋裕史(おかじま・ゆうし) 中央大学国際情報学部教授/学部長補佐。富士総合研究所、関東学院大学情報科学センター所長を経て現職。著書多数。近著に「ブロックチェーン」(講談社)、「いまさら聞けない ITの常識」(日本経済新聞出版社)など。

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