【コラム】400メートルリレー「銀」に繰り上げ、願いはドーピング根絶

 5月11日に20歳のサニブラウン・ハキーム選手が陸上男子100メートルで日本人2人目の9秒台(9秒99)をマークした。2017年に桐生祥秀選手が初めて10秒の壁を破る9秒98の日本記録を出して新時代に入った日本短距離界は、東京五輪を来年に控えてまた新たな段階に入った。この2人のほかにも山縣亮太選手ら9秒台が期待できる選手が数人おり、その層の厚さは目を見張るものがある。

 五輪で最も注目される種目の一つといえる100メートルとともに楽しみになってきたのが、男子400メートルリレーだ。かつて1人も9秒台のスプリンターがいなかった日本は、その特性を生かしてバトンの受け渡しというテクニックに活路を見出した。00年シドニー五輪で6位、04年アテネ五輪で4位となり、08年の北京五輪で見事に銅メダルを獲得した。速報掲示板で3位を確認したアンカーの朝原宣治さんがバトンを空高く放り上げた歓喜のシーンは、大きな感動を呼んだ。1980年代の陸上を取材していた身にとっても、これは歴史的快挙だった。朝原選手は大事なメダルをさまざまな場に持参してくれたので、私も手に取って見る機会があった。汗と努力の結晶は、首にかけるリボンの部分が数か月で早くも擦り切れていた。

 北京の銅メダルを土台に生まれたのが、2016年リオデジャネイロ五輪の銀メダルだった。アンカーだったケンブリッジ飛鳥選手が、世界最速のウサイン・ボルト選手(ジャマイカ)を本気にさせた快走は記憶に新しいところだ。

 その北京の銅が、長い年月を経て銀メダルに繰り上がった。ジャマイカのリレーメンバーの1人が北京五輪のドーピング(薬物使用)再検査で陽性反応を示し、ジャマイカの金メダル剝奪が発表されたのが2017年1月だった。最新の分析技術を使った国際オリンピック委員会(IOC)の再検査は、五輪では見逃された禁止薬物の使用を明らかにした。当該選手が処分を不服としてスポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴。18年5月にこの訴えが棄却されるという手順が踏まれ、同12月にIOCが日本に銀への繰り上がりを通達。この5月12日に4人に銀メダルが手渡された。

 ジャマイカの失格が明らかになった時、朝原さんは複雑な心境だったようだ。喜びより、戸惑いの方が強かったのは理解できる。それから2年以上が経った今回の授与に「今日から銀メダリストとして生きていくという、気持ちで今はうれしく思う。ドーピング違反者がなくなるスポーツ界になることを切に願う」と語っている。ドーピング根絶はアスリートの願いだ。

 IOCの手掛けたドーピング再検査では多くの違反者が出た。16年6月から8月にかけて、北京五輪に出場した重量挙げ25選手の違反が発覚し、メダリストは16人にも及んだ。12年ロンドン五輪の違反も発覚し、16年12月の段階で合わせて100件近くに上った。その多くは重量挙げと陸上選手だった。

 手元の資料で違反者をチェックしてみたら、ロンドン五輪重量挙げ男子94キロ級は1位から7位までのうち、5位を除く全員が違反、同女子75キロ級はメダリスト全員が陽性反応を示している。これでは競技は成立しない。

【筆者略歴】

 後藤英文(ごとう・ひでふみ) スポーツジャーナリスト。共同通信では初代スポーツ専門特派員としてニューヨークで勤務。MLBワールドシリーズやW杯サッカー、NFLスーパーボウルのほか夏冬の五輪などを取材。元びわこ成蹊スポーツ大学教授。


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